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溶血性尿毒症症候群
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

溶血性尿毒症症候群の概要

溶血性尿毒症症候群(HUS)は、血小板が減少し、赤血球が壊れやすくなり、腎臓の働きが悪くなる病気です。子どもに多く見られ、腸管出血性大腸菌による感染症が原因となることが多いです。溶血性尿毒症症候群になると、貧血になったり血が止まりにくくなったり(出血傾向)、尿量減少やむくみなどの腎障害の症状が出ることがあります。自然に治癒することもありますが、重症化して透析が必要になることもあります。(参考文献1)

溶血性尿毒症症候群の原因

溶血性尿毒症症候群の主な原因は、「志賀毒素」と呼ばれる毒素を作る細菌による感染症で、中でも腸管出血性大腸菌が原因の9割を占めます。志賀毒素は腹痛や下痢、嘔吐などの食中毒の症状をを引き起こしますが、時に貧血や出血傾向、腎障害などの溶血性尿毒症症候群を引き起こします。 腸管出血性大腸菌は75℃で1分以上の加熱により死滅しますが、他の細菌に比べて感染力が強く、約1,000個の菌数だけでも下痢症を発症します。腸管出血性大腸菌のなかでもO157:H7という菌種の感染性はさらに強く、約50〜100個の菌数で下痢症を発症すると言われています。 腸管出血性大腸菌は食品を通じた感染が多いと言われていますが、感染源や感染経路が不明なことも少なくありません。食品の中では牛の腸管内に腸管出血性大腸菌が多く、食中毒の原因食品としては十分に加熱されていない牛肉、牛レバー、ハンバーグなどが知られています。その他にも、井戸水や汚染された野菜(サラダ、漬物、スプラウト等)、幼児用のプールの水などが感染源となります。 一方で、溶血性尿毒症症候群を発症する人のうち約1割ほどは腸管出血性大腸菌に関係なく、補体という免疫システムを担うタンパク質に関わる異常が原因となります。これは補体を制御するタンパク質の遺伝子変異が背景にある場合もあれば、特定の補体に対する自己抗体が原因となることもあります。(参考文献1)

溶血性尿毒症症候群の前兆や初期症状について

一般に、溶血性尿毒症症候群には腸管出血性大腸菌による感染症が先行します。多くの場合、感染源を経口摂取した3~7日後に、嘔吐、腹痛、下痢などの食中毒の症状が見られます。そしてその一部が、約1週間後に貧血と血小板減少、腎障害を主症状とする溶血性尿毒症症候群をきたすことがあります。以上の症状をまとめると溶血性尿毒症症候群では以下のような症状が見られます。
  • 貧血(赤血球が壊れるため、顔色が悪くなったり、疲れやすくなったりする)
  • 血小板の減少(血が止まりにくくなることがある)
  • 急性腎障害(尿の量が減る、血尿が出る、むくみが出る)
  • 神経症状(けいれん、意識の低下など)
  • 消化器症状(ひどい腹痛、血の混じった下痢など)
(参考文献1)

溶血性尿毒症症候群の検査・診断

溶血性尿毒症症候群が疑われる場合、以下の検査を行います。
  • 血液検査
  • 赤血球や血小板の数
  • 赤血球の形態の異常
  • 腎臓の機能(クレアチニンや尿素窒素の測定)
  • 尿検査
  • 血尿やたんぱく尿の有無
  • 便の検査
  • 志賀毒素を出す大腸菌の有無
血液検査では、貧血や血小板減少の有無を確認することが重要です。 また、尿検査では、腎臓の障害の程度を評価することが重要となります。 腸管出血性大腸菌が原因となるものではなく補体の異常が疑われる場合は、補体を制御するタンパク質の遺伝子異常の有無を調べるために遺伝子検査を行うこともあります。(参考文献1)

溶血性尿毒症症候群の治療

まず、溶血性尿毒症症候群を発症する前でも、腎障害を予防するために輸液を行います。そして、以下のような場合には一時的に透析療法を行うこともあります。 〈透析療法を開始する目安
  • 尿がほとんど出ない場合
  • 体に老廃物がたまって吐き気や頭痛などの症状が出ている場合(尿毒症)
  • 血液中の電解質のバランスが大きく崩れた場合
  • 体の酸性度が強くなった場合
  • 体に水分がたまりすぎた場合(むくみ、肺に水がたまる、心不全、高血圧など)
  • これ以上安全に点滴や輸血などができなくなった場合
また、貧血がひどい場合は赤血球輸血を行うこともあります。 そして、補体の異常が関係する溶血性尿毒症症候群の場合は、エクリズマブラブリズマブという補体の働きを抑える薬を使うことがあります。(参考文献1)

溶血性尿毒症症候群になりやすい人・予防の方法

腸管出血性大腸菌による感染症は、日本では年間約4000件発生しており、特に夏期に多く発生します。食中毒の症状のみで回復する人もいますが、このうちの1〜10%程度が溶血性尿毒症症候群を発症します。特に小児で、O157:H7による感染症は他の大腸菌よりも血便や腹痛を起こしやすく、溶血性尿毒症症候群を発症しやすい傾向があります。 そして、感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律(通称:感染症法)では三類感染症に指定されており、医師は症状の有無に関わらず届け出るよう定められています。 腸管出血性大腸菌による感染症を発症した人が溶血性尿毒症症候群を予防する方法は現在のところわかっていません。そのため、予防のためには腸管出血性大腸菌の感染を防ぐことが重要です。具体的には感染源となる肉類(特に牛肉)はしっかり火を通して食べること井戸水や川の水は煮沸してから飲むことなどの対策が挙げられます。(参考文献1)

関連する病気

  • 腸管出血性大腸菌感染症
  • 血栓性血小板減少性紫斑病
  • 補体異常による非定型溶血性尿毒症症候群

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