

監修医師:
鎌田 百合(医師)
目次 -INDEX-
小児急性白血病の概要
白血病とは
血液の中にある血液細胞は骨の中にある骨髄で作られ、酸素を運搬する赤血球、外部から体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物の排除など免疫力を担う白血球、出血を止めるはたらきをする血小板で構成されています。
白血病は、血液を作る過程で異常がおこり、血液ががん化した細胞(白血病細胞)となって無制限に増殖するため、正常な血液細胞が作れなくなります。また、白血病細胞は骨髄以外にも肝臓、脾臓、リンパ節、脳・脊髄(中枢神経)、腎臓、精巣などに浸潤します。
「急性」と「慢性」および「リンパ性」と「骨髄性」の組み合わせで分類されます。
急性リンパ性白血病(Acute Lymphoblastic Leukemia:ALL)は、小児期に発生する血液のがんの中で最も高頻度(約75%)にみられる疾患です。2〜5 歳で発症することが多く、小児人口10 万人あたり年間3〜4 人の発症が見込まれ、日本では年間約500人の新規発生があります。女児よりも男児にやや高頻度であると報告されています。
急性骨髄性白血病(Acute Myeloid Leukemia:AML)は約25%を占め、15歳未満の人口1,800万人に対して、年間150例から200例の新規発症があると推定されています。
白血病細胞は自然になくなることはないため、治療をしないと症状が進行し、命にかかわる状態となります。また、小児急性白血病は病気の進行が速いため、早期に診断して速やかに治療を開始することが重要です。
小児急性白血病の「小児」というのは何歳までのこと?
最近の国内外の臨床研究の結果からは、15-25歳の「思春期・若年成人」の急性リンパ性白血病は、小児の急性リンパ性白血病で行われるような強力な化学療法を行ったほうが長期生存率が高いことが分かりました。そのため、急性リンパ性白血病においては、20-25歳までは「小児急性リンパ性白血病」と扱って治療することが良いと考えられています。
小児急性白血病の原因
小児の白血病の発症は、遺伝や生活の環境などの特定の原因による影響は少ないと考えられており、偶然の確率で起こる病気だとされています。ただし、大量の放射線やある種の化学物質(ベンゼンなど)に曝露した場合や、ダウン症候群児は白血病を発症する頻度が高いことが知られています。
また、別のがんに対する化学療法や放射線治療の後に、急性骨髄性白血病を発症することがあります(ニ次性白血病)。
小児急性白血病の前兆や初期症状について
正常な血液細胞が減少したり、臓器で白血病細胞が増加したりすることで、次のような症状が現れます。
白血球の減少
感染症にかかりやすくなる、感染症が治りにくくなる、通常の免疫機能があればかからないような感染症を発症する など
赤血球の減少
「貧血」のため、だるさやめまい、息切れ など
血小板の減少
あざが生じやすくなる、重要な臓器(脳など)に出血を生じる など
骨髄の中で増殖
骨や関節が痛くなる
リンパ節の腫脹
頸部、わきの下、胃、鼠径部の痛みを伴わないリンパ節の腫れ
肝臓・脾臓で増殖
肋骨下の痛みや腹部膨満感 など
中枢神経系(脳と脊髄)で増殖
頭痛や吐き気・嘔吐 など
これらの気になる症状が現れたときは、まず小児科を受診しましょう。
治療は、小児白血病の治療に精通した医師(小児血液内科医、血液内科医など)で構成されるチームで行なわれます。
小児急性白血病の検査・診断
検査
診断を行い、治療方針を決めるために、詳しい経過を聴取したのちにさまざまな検査が行われます。また、病型の確認や骨髄以外の臓器への広がり、合併症の有無を確認する目的でも検査を行います。
血液検査
血液中の細胞の増減を調べます。
骨髄検査
小児では通常腸骨から採取した骨髄液を顕微鏡で観察します。診断を確定し、治療効果の確認を行う、最も重要な検査といえます。この検査は痛みを伴うため、全身麻酔あるいは鎮静薬を使って行います。
染色体検査・遺伝子検査
特徴的な染色体・遺伝子の構造や数に異常があるかどうかを調べます。
超音波(エコー)検査・CT 検査
臓器の異常や合併症の有無、浸潤が疑われる部位の確認などのために行うことがあります。
その他
必要に応じて胸部X線、心電図や心エコ-検査、脳波、MRI、PET CTなどの検査が行われることがあります。
診断
症状や血液検査の結果から急性白血病が疑われるときは、骨髄検査を行います。骨髄中の白血病細胞の量と形の特徴、白血病細胞の性質(表面マ-カ-、染色体異常、遺伝子異常など)に基づいて総合的に診断が行われます。
小児急性白血病の治療
初診時の白血病の性質を詳しく知り、治療の強度を調整(層別化)することが最も重要と考えられています。
急性白血病の治療の基本は化学療法です。その他の治療法には、放射線療法や造血幹細胞移植などがあります。
化学療法
化学療法は、抗がん剤を用いて白血病細胞を破壊する薬物療法のことです。抗がん剤は、白血病細胞だけでなく正常細胞にも傷害を及ぼします。正常細胞への影響をなるべく少なくするために、作用機序や副作用が異なる数種類の抗がん剤を組み合わせる多剤併用療法を行います。また、薬剤が届きにくい中枢神経系への浸潤予防として、メトトレキサートを含む薬剤の髄注療法や点滴による投与を行うこともあります。
治療に用いる抗がん剤は、急性リンパ性白血病と急性骨髄性白血病とは共通する薬剤も一部ありますが、治療の全体としてはかなり異なりますので、この分類をしっかりすることがとても重要です。
治療の基本は、白血病細胞の減少と症状の軽減を目的とする「寛解導入療法」、寛解導入療法の終了直後から、さらに白血病細胞を減少させる ことを目的とする「強化療法」の2段階、または、白血病細胞の根絶と再発予防を目的とする「維持療法」を加えた3段階で行われます。
急性リンパ性白血病
「寛解導入療法」、「強化療法」、「維持療法」の3段階に分けて行います。
「維持療法」の時期は、学校生活などの通常の生活を送ることができます。
維持療法も含めた治療の期間は、最低2年間行うことがすすめられています。
急性骨髄性白血病
まず、WHO分類により大きく3つの病型(ダウン症候群に合併した急性骨髄性白血病、急性前骨髄球性白血病、それ以外の急性骨髄性白血病)に分類し、治療方針を決定します。次に、予後因子に基づいて低リスク群・中間リスク群・ 高リスク群に分類し、それぞれに適した強さで「寛解導入療法」と「強化療法」を行います。
通常、「維持療法」は行いません。
放射線療法
放射線治療は、主に中枢神経白血病の予防あるいは治療として行われます。
放射線を照射すると、細胞の分裂する能力が失われ、腫瘍細胞の増殖を防ぎます。しかし、正常な細胞も細胞分裂能力を失うため、正常組織の障害が副作用としてでてくることがあります。
造血幹細胞移植
造血幹細胞移植は、化学療法だけでは治癒が望めない難治性の患児が適応となります。
小児急性白血病になりやすい人・予防の方法
小児急性白血病が発生するリスク因子には次のようなものがあります。
急性リンパ性白血病
- 出生前に母親の胎内でX線を浴びること
- 放射線に曝されること
- 化学療法の治療歴があること
- ダウン症候群のような特定の遺伝子疾患が認められること など
急性骨髄性白血病
- 兄弟または姉妹(特に双子)が白血病であること
- 骨髄不全の個人歴があること
- 化学療法または放射線療法を受けた経験があること
- 電離放射線あるいはベンゼンなどの化学物質に曝されること
- ダウン症候群のような特定の症候群または遺伝性疾患であること など
小児急性白血病の発症は、特定の原因がないため予防することは困難です。
しかし、再発を予防するためには、寛解の状態になった後も検査を継続し、最も治癒率が高いと推定される薬剤の量と期間で治療を続けることが大切です。
再発とは、骨髄検査でも白血病細胞が見つからない(寛解)状態から、再び白血病細胞が検出された状態です。再発の多くは、治療が終了してから2年以内にみられ、治療終了後4年が経過して再発がない場合、それ以降に再発する確率は1%以下といわれています。
関連する病気
- 貧血(Anemia)
- 出血傾向(出血症状)
- 感染症
- 肝臓・脾臓の腫れ(肝脾腫)
- 中枢神経系(CNS)への浸潤
参考文献




