

監修医師:
鎌田 百合(医師)
目次 -INDEX-
血友病Bの概要
血友病とは出血したときに血を止める働きがうまくはたらかず血がなかなか止まらない病気です。出血を止めるためには、血管の収縮、血小板の働き、凝固因子の役割が重要です。
血友病Bは、凝固因子である第Ⅸ因子が不足または異常があり、血液が凝固せずに出血が止まりにくくなる疾患です。
止血の仕組み
止血には一次止血と二次止血があり、出血を止める過程で異なる役割を持っています。
一次止血は、血管が傷ついたときにまず起こる反応で、血管が収縮し出血を抑えます。その後、血小板が集まり、傷口に血栓を作り簡易的な止血を行います。傷口を塞ぎ出血を減らすのが一次止血の役割です。一次止血は出血した際に短時間で行われますが、外的な力が加わるとすぐに壊れてしまうという特徴があります。
そのため、強固で安定した止血を行うのが二次止血です。二次止血では、凝固因子が重要な役割を果たします。凝固因子が次々に活性化され、最終的にフィブリンという繊維状の物質が作られます。フィブリンは、一次止血により形成された血栓を覆い固めて補強します。これにより、より強固で安定した止血が行われ、出血が完全に止まります。
つまり一次止血では血小板、二次止血では凝固因子が重要な役割を持っています。
血友病Bの原因
血友病Bは、12種類の凝固因子のうち第IX因子の欠損または異常が原因です。
第IX因子の欠損または異常が起こる原因は大きく分けて2つに分類されます。
遺伝子異常によるもの
血友病Bは、X染色体上のF9遺伝子の異常が原因で発症します。このF9遺伝子は、第Ⅸ因子という血液凝固に必要なタンパク質を作る役割を担っています。F9遺伝子に異常があると、第Ⅸ因子が十分に作られず、血液が正常に凝固しなくなり、出血が止まりにくくなります。
血友病BはX連鎖潜性(劣性)遺伝(X-linked recessive inheritance)です。男性の性染色体はXY型でX染色体を1本しか持たないため、F9遺伝子に異常があると必ず血友病Bを発症します。一方、女性の性染色体はXX型でX染色体を2本持っているため、片方に異常があってももう片方が正常であれば発症しません。しかし、女性はキャリア(保因者)として遺伝的に疾患を次世代に伝えていきます。
遺伝子の異常によって引き起こされる血友病Bの大半は親からの遺伝子異常ですが、突然変異的にも遺伝子異常は起こりえます。突然変異による血友病Bでも自分の子どもへ遺伝する可能性があります。
自己抗体によるもの
血友病Bの多くは遺伝子異常による生まれつきのものが多いですが、何らかの原因で後天的に第Ⅸ因子を攻撃する“自己抗体”が形成されることがあります。加齢や妊娠、自己免疫疾患などが原因となりうると考えられていますが、詳細なメカニズムは解明されていません。
血友病Bの前兆や初期症状について
血友病Bは、体の深部、特に関節や筋肉に出血が繰り返し起こったり、外傷や外科的治療時に出血が止まりにくくなったりすることが特徴です。出血が止まりにくい程度は、第Ⅸ因子の不足の程度により異なり、重症、中等症、軽症と分類されます。
血友病Bの診療科は血液内科です。
重症の場合
重症の場合(第Ⅸ因子が1%未満のとき)、筋肉内出血、関節内出血(肘・膝・足など)、皮下出血などが現れます。これらの出血が発生した際に適切な処置が行われないと、激しい痛みや血腫(血の塊)が生じ、症状が悪化することがあります。筋肉が萎縮したり、関節の動きが悪くなったりし、血腫が神経や血管を圧迫すると麻痺を引き起こすこともあります。また、出血が内臓や脳に及ぶと命に関わることもあります。
特に関節内出血が繰り返し起こると血友病性関節症と呼ばれる状態が進行します。関節内の構造が徐々に破壊され、関節が変形したり、動きが制限されたりしていきます。適切な治療が行われず放置されると、最終的には回復不可能な障害が残ることがあります。
中等症・軽症の場合
中等症(第Ⅸ因子が1〜5%未満)や軽症(5〜40%未満)の場合は、日常的に出血が起こることは少なく、外的な原因、例えば事故や抜歯、手術などの際に出血が止まりにくいという症状が現れます。軽症の人は、症状に気づかずに過ごすことが多いため、診断が遅れることもあります。
血友病Bの検査・診断
血友病Bは、主に症状の確認、血液検査によって行われます。患者さんの病歴や家族歴を確認し、出血の傾向を調べます。血友病Bの多くは遺伝性であるため、家族に血友病B発症者がいる場合、遺伝的な関連が考えられます。また、関節や筋肉に繰り返し出血する、あるいは皮下出血が見られることも重要な診断の手がかりになります。
次に、血液検査が行われます。血液凝固に必要な第Ⅸ因子が不足しているため、血液の凝固時間を測る検査の活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が延長しています。
血友病には血友病Aと血友病Bがあり、これらは症状に違いがありません。そのため鑑別のために各凝固因子の活性値を測定します。血友病Aでは第Ⅷ因子、血友病Bでは第Ⅸ因子の活性値を測定し確定診断を行います。
血友病Bの治療
血友病Bの治療の基本は補充療法で、不足している第Ⅸ因子を外部から補充することで出血を止める治療が行われます。補充療法は病院で行う場合と、病院へ行かずに家庭などで行う家庭療法があります。家庭療法では出血したときに早く治療することができるため血腫の形成を予防し症状の悪化を防ぎます。
また補充療法は、出血が起こったときに第Ⅸ因子を補充する出血時補充療法と、出血が起こらないように補充する予防的補充療法方法があります。さらに予防的補充療法は予備的補充療法と定期補充療法に分けられます。
予備的補充療法は遠足や運動会、旅行など、出血の可能性が高い行動の前に補充し、出血を未然に防ぎます。定期補充療法は週2〜3回など定期的に補充する方法で、重症型の患者さんを中心に行われます。定期補充療法は家庭療法として患者さんやその家族が医師から指導を受けた上で、自己注射によっても行えます。定期的に第Ⅸ因子を補充することで血友病性関節症を防ぐ効果があることがわかってきています。
自己抗体(インヒビター)に対する治療
血友病Bの治療で補充療法を繰り返すと、約3〜5%の患者さんで第Ⅸ因子に対するインヒビター(抗体)が生成されることがあります。インヒビターが生成されると、第Ⅸ因子を補充してもインヒビターにより効果を示さなくなり、止血が困難になります。そのため、インヒビターが形成された場合は中和療法やバイパス療法などが行われます。
中和療法とは生成されたインヒビター(抗体)の影響を抑えるために、通常の投与量よりも大量の第Ⅸ因子製剤を投与する方法です。インヒビターが第Ⅸ因子を無効化するため、投与される第Ⅸ因子製剤の量を増やし、インヒビターの活性を上回ることで止血を維持することができます。
バイパス療法とはインヒビターを多量に持っている場合に行われます。第IX因子を介さないで他の凝固因子の働きを借りて止血させるバイパス製剤という薬を用います。
血友病Bになりやすい人・予防の方法
血友病Bは遺伝性の疾患です。男性、家族歴がある、特定の遺伝子異常を持つ両親から生まれた人に発症リスクが高まります。この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとるため、患者さんのご両親がともに異常遺伝子を持っている場合、その子どもが発症する可能性があります。血友病Bは遺伝性の疾患であることが多く完全に予防する方法はありません。そのため、遺伝カウンセリングや出生前診断を通じて発症のリスクを把握し、リスクのある場合には早期に適切な対応を取ることも可能となります。
関連する病気
- 血友病A
- フォン・ウィルブランド病
- 播種性血管内凝固症候群
- 血友病性関節症
- 骨粗鬆症




