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血管炎症候群
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

血管炎症候群の概要

血管炎は、血管炎症候群、全身性血管炎とも呼ばれ、血管そのものに炎症が起こる疾患の総称です。炎症により血管が狭窄・閉塞・拡張・破裂を起こし多臓器に影響を及ぼします。原発性血管炎は血管サイズに基づいて、大型血管炎、中型血管炎、小型血管炎に分類されます。大型血管炎は大動脈とその腫瘍分枝およびこれに対応する静脈と定義され、大型血管炎には高安動脈炎と巨細胞性動脈炎が含まれます。中型血管炎には結節性多発動脈炎、川崎病が含まれます。小型血管炎にはANCA関連血管炎としての顕微鏡的多発血管炎、多発血管性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、免疫複合体性小型血管炎である抗GBM病、クリオグロブリン血症性血管炎、IgA血管炎、低補体血症性蕁麻疹性血管炎等が挙げられます。他にも、多様な血管を侵す血管炎、単一臓器血管炎、全身性疾患関連血管炎、推定病変を有する血管炎に分類されます。免疫学的機序や感染、薬剤により発症することが多いですが原因が不明な場合も多いです。自覚症状として全身倦怠感、発熱、体重減少、関節や皮膚症状、神経症状等が現れます。診断には、血液検査による各種抗体検査、CT等による画像検査、生検による病理組織診断等があります。治療は疾患・重症度・臓器障害の有無により変わり、ステロイド、免疫抑制薬を投与する場合が多いです。

血管炎症候群の原因

原因は血管炎によって異なります。自己抗体(特にANCA:抗好中球細胞質抗体、抗GBM抗体:抗糸球体基底膜抗体など)による自己免疫反応で発症することがあります。感染症(B型・C型肝炎、HIVなど)、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス、関節リウマチなど)、その他ウイルス感染によるストレスが関与していると推定されますが、誘因となるウイルスが不明な疾患もあります。シリカといった物質や、薬剤(ヒドララジン、プロピルチオウラシル、ミノサイクリンなど)、アレルギー反応によって血管炎を発症する場合もあります。また、遺伝素因と環境因子の相互作用により血管炎を発症することもあります。また、HLA(ヒト白血球抗原)の特定の型が発症に関連する血管炎もあります。

血管炎症候群の前兆や初期症状について

症状は血管の炎症による損傷臓器によって異なります。共通する症状として多いのは、全身倦怠感、発熱、体重減少、関節痛、筋肉痛、皮膚症状(紫斑、皮膚潰瘍など)、しびれや麻痺などの神経障害です。腸管に病変を伴うものでは、腹痛や下血といった消化器症状が出現します。肺病変を伴うものであれば、呼吸困難、血痰、喀血などが現れます。眼底病変があれば視力低下、霧視、視野欠損などが現れます。疾患別に特有なものとしては、多発血管性肉芽腫症では鼻出血や鼻閉、膿性鼻漏、中耳炎、鞍鼻、血痰といった上気道や肺の症状が特徴的です。好酸球性多発血管性肉芽腫では喘息やアレルギー性鼻炎といったアレルギー性の症状が先行することが知られています。腎障害を発症する血管炎では血尿や蛋白尿があります。

血管炎症候群の検査・診断

血液検査で白血球および白血球分画、CRP、赤沈、補体といった炎症等を示すバイオマーカーを確認したり、免疫グロブリン、特異的な自己抗体(PR3-ANCA、MPO-ANCA、抗GBM抗体など)をチェックします。HLAを確認する場合もあります。画像検査ではX線やCT検査、超音波検査、血管造影検査、PET-CT等が用いられ、臓器特異的な病変を検索したり、血管病変の評価を行います。網膜症の有無を確認するために眼底検査・眼底造影を行うこともあります。病理組織診断による鑑別のために、皮膚生検、腎生検、血管生検、消化管の生検などを行うことがあります。診断基準として、2022年にACR(アメリカリウマチ学会)とEULAR(ヨーロッパリウマチ学会)により新たな分類基準が発表され、各疾患の診断基準が示され、診断制度が向上しています。

血管炎症候群の治療

疾患・重症度・臓器障害の有無により治療は多岐に渡ります。また、急性期である寛解導入期と、慢性となった維持期によっても治療が異なります。ステロイド(グルココルチコイド)、免疫抑制剤(シクロホスファミド、リツキシマブ、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、アザチオプリン、タクロリムス、シクロスポリン等)、補体C5a受容体阻害薬(アバコパン)、生物学的製剤(トシリズマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ、エタネルセプト等)、抗血小板薬(アスピリン)血漿交換、血管バイパス術といった治療を、病態によって組み合わせて治療を行います。

血管炎症候群になりやすい人・予防の方法

疾患により好発年齢は異なりますが、一般的に女性に多い疾患が多く、高齢で発症する疾患が多いとされています。特異的な予防方法は確立されていませんが、ウイルスなどの感染症や薬剤により発症する場合に関しては、原因の暴露を避けることにより発症を予防することができる可能性があります。 代表的な疾患の発症年齢・性差として、高安動脈炎は患者層は50代が多く、男女比は1:9女性に多いです。女性における初発年齢は20代が多く、発症平均年齢は女性で35歳、男性では43.5歳です。 巨細胞性動脈炎は通常50歳以上で発症し、60-70代に発症のピークがあり、男女比1:1.7と女性にやや多くみられます。大型血管炎はいずれも特定のHLAを持つ人が発症しやすいとされています。 結節性多発動脈炎の平均発症年齢は55歳とやや高齢に多く、男女比は1:1から1:2とやや女性に多いとされています。 顕微鏡的多発血管炎は男女比1:1.1とわずかに女性に多く、平均年齢は70.5歳とされます。 多発血管性肉芽腫症は好発年齢は40-60歳ですが小児や高齢者にも発症し得疾患で、男女差はほとんど無いかわずかに女性にやや多いとされます。 好酸球性多発血管性肉芽腫症は平均発症年齢は55歳で、40~69歳で66%を占めます。男女比は1:1.7とやや女性に多いとされます。 抗糸球体基底膜抗体病は、抗GBM抗体型腎炎の平均年齢は 61.6 歳で、男女比はほぼ1:1、肺出血を伴うGoodpasture症候群の平均年齢は 70.9 歳とやや高齢発症で、男女比は1:1.75との報告があります。 IgA血管炎は3-10歳が最も多く、男児がやや多いとされますが、全年齢層に発症します。50%が先行感染として上気道炎既往があり、季節的には冬季に多く、細菌やウイルス感染が先行することも少なくないことから、感染症に罹患しないよう標準予防策を心がけることか予防に繋がる可能性があります。

関連する病気

  • 巨細胞性動脈炎
  • 高安動脈炎
  • 多発血管炎性肉芽腫症
  • 川崎病
  • 結節性多発動脈炎
  • 顕微鏡的多発血管炎
  • 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症
  • 抗GBM抗体病

参考文献

  • Up to date;Overview of and approach to the vasculitides in adults
  • Up to date;Overview of the management of vasculitis in adults
  • 合同研究班参加学会・研究班 日本循環器学会 日本医学放射線学会 日本眼科学会 日本胸部外科学会 日本血管外科学会 日本小児科学会 日本心臓血管外科学会 日本心臓病学会 日本腎臓学会 日本病理学会 日本脈管学会 日本リウマチ学会 厚生労働省 難治性疾患政策研究事業 難治性血管炎に関する調査研究班:血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版), 2018年.
  • Hirayama K, Yamagata K, Kobayashi M, Koyama A. Antiglomerular basement membrane antibody disease in Japan: part of the nationwide rapidly progressive glomerulonephritis survey in Japan. Clin Exp Nephrol 2008;12:339-347.

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