マントル細胞リンパ腫
鎌田 百合

監修医師
鎌田 百合(医師)

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千葉大学医学部卒業。血液内科を専門とし、貧血から血液悪性腫瘍まで幅広く診療。大学病院をはじめとした県内数多くの病院で多数の研修を積んだ経験を活かし、現在は医療法人鎗田病院に勤務。プライマリケアに注力し、内科・血液内科医として地域に根ざした医療を行っている。血液内科専門医、内科認定医。

マントル細胞リンパ腫の概要

マントル細胞リンパ腫とは、悪性リンパ腫の一つで、リンパ節の中のマントル帯とよばれる領域で異常なB細胞が増殖する病気です。
リンパ節には胚中心という、B細胞(リンパ球の一種)が成熟する場所があります。その周囲にあるマントル帯という場所で、がん化したB細胞が異常に増殖し続けることで発症します。
B細胞は、体内に侵入した病原体を排除するために抗体を産生し、ウイルスや細菌などの異物と戦う重要な役割を持っています。

悪性リンパ腫は大きくホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の2種類に分類され、非ホジキンリンパ腫はさらに細かく種類されます。マントル細胞リンパ腫は非ホジキンリンパ腫に分類され、日本では非ホジキンリンパ腫の5%未満と比較的まれな悪性リンパ腫です。60歳以上の高齢男性に多いとされています。

悪性リンパ腫は病気の進むはやさによって大きく3つに分類されます。
低悪性度:年単位で進行
中悪性度:月単位で進行
高悪性度:週単位で進行
マントル細胞リンパ腫は年単位で進行する、低悪性度リンパ腫に分類されます。
ただし、進行速度が遅いからといって必ずしも予後が良いとは限りません。

マントル細胞リンパ腫の中でも2つのタイプがあり、アグレッシブな臨床経過をとるClassic mantle cell lymphomaと、緩徐な経過をとるLeukemic non-nodal mantle cell lymphomaがあります。
アグレッシブなタイプは免疫組織学的にSOX11やCD5が陽性であることが多く、緩徐なタイプはCD5陽性率が低くSOX11が陰性で、主に脾腫、白血化を示します。

マントル細胞リンパ腫の原因

マントル細胞リンパ腫の原因ははっきりと解明されていません。
しかし、95%以上の症例で11番染色体と14番染色体の一部が入れ替わる染色体転座(t(11;14)(q13;q32))が認められます。この転座により、CCND1という遺伝子に異常が生じ、細胞の異常な増殖が促進されることで発生すると考えられています。

マントル細胞リンパ腫の前兆や初期症状について

マントル細胞リンパ腫は、多彩な症状が出現します。全身のリンパ節が腫れて、首や脇、足の付け根などにしこりができます。
がん化したリンパ球は、リンパ節だけではなく胃や腸などの消化管で腫瘤を作ったり、脾臓が腫れたりする場合もあります。骨髄にリンパ腫細胞が浸潤すると血液中にリンパ腫細胞が出現する場合があります。これを白血化といい、マントル細胞リンパ腫の患者さんの半数以上に認められます。リンパ節以外の病変は節外病変といい、およそ70%の患者さんは節外病変を有します。
マントル細胞リンパ腫はゆっくり進行するため症状が現れにくく、診断時はおよそ90%がステージⅢまたはⅣ期の進行期です。

マントル細胞リンパ腫の診断、治療は血液内科で行われます。体のリンパ節の腫れを自覚した場合は、血液内科を受診し医師に相談してください。

マントル細胞リンパ腫の検査・診断

ここではマントル細胞リンパ腫が疑われた場合に行われる検査や診断について説明します。

診断のための検査

マントル細胞リンパ腫が疑われた場合は、以下のようなさまざまな検査を施行します。

生検
病変部位を採取し病理検査を行い(生検)診断をします。リンパ節が腫れている場合は腫れているリンパ節を手術によって採取し、病変を顕微鏡で観察します。マントル細胞リンパ腫は、小型から中型の腫瘍細胞が増殖します。

免疫学的な検査も行い、腫瘍細胞にどのようなマーカーが発現しているかも調べます。表面マーカーはCD5、IgM、IgDなどが陽性になりやすいとされています。予後良好な病型であるLeukaemic non-nodal mantle cell lymphomaは、SOX11が陰性であることが特徴です。他疾患との鑑別や予後の推定のためにSOX11の発現を測定を行う場合もあります。

染色体検査ではt(11;14)(q13;q32)の染色体転座があるかを確認します。ただし、この異常が認められない場合もあるため、病理所見や表面マーカーなども含め総合的に判断して診断を行います。

病期などの評価のための検査

病期(ステージ)や全身状態を調べるため、以下のような検査を行います。

血液検査
肝機能や腎機能を確認し、臓器へのリンパ腫浸潤の有無を調べます。また、全身状態を調べ、治療が可能な全身状態であるかを確認します。予後因子の一つであるLDHや白血球数、病気の勢いを反映する可溶性IL-2レセプターなどを測定します。

骨髄検査
腸骨に針を刺して骨髄液を採取し、リンパ腫の浸潤の有無を調べます。マントル細胞リンパ腫は半数以上が骨髄浸潤があるとされており、ステージの確認に必要な検査です。
骨髄にリンパ腫細胞が存在する場合は、Ⅳ期と診断します。

画像検査
CT、エコー、MRI、PET CTなどで全身を検査し、病変の詳細な部位や広がりを確認します。 特に重要なのがPET CTです。がん細胞が正常の細胞に比べてブドウ糖を多く取り込むことを利用し、放射性薬剤を体内に投与し、その薬剤が腫瘍に取り込まれているのを特殊な方法で撮影する検査です。これによって詳細な病変部位の確認をし、病期分類が行われます。

病期分類

病期はAnn Arbor分類に基づき以下のⅠ~Ⅳ期に分類されます。

Ⅰ期:がんが1か所のリンパ節にとどまっている
Ⅱ期:がんが2か所以上のリンパ節にあるが、横隔膜を超えていない
III期:がんが横隔膜を超えて広がっている
Ⅳ期:がんがリンパ組織以外の臓器や組織に存在する

Ⅰ、Ⅱ期を限局期、Ⅲ、Ⅳ期を進行期といいます。

予後因子

マントル細胞リンパ腫の予後因子として、Mantle Cell Lymphoma International Prognostic Index(MIPI)というスコアがあります。年齢、身体活動度(Performance Status)、LDH、白血球数の4つのパラメーターを用い計算します。計算式は複雑ですが、以下のように計算されます。

MIPI= [0.03535 x 年齢(年)]+[ 0.6978(Performance Status)> 1の場合)]+[1.367 x log10(LDH/正常値上限)]+[0.9393 x log10(白血球数)]

MIPIによる生存期間中央値

低リスク群(<5.7):未到達

中リスク群(5.7≦ <6.2):51ヶ月

高リスク群(6.2≦):29ヶ月

マントル細胞リンパ腫の治療

マントル細胞リンパ腫の予後は悪く、生存期間中央値は3~5年と考えられています。
Ⅲ、Ⅳ期の進行期の場合は、多剤併用化学療法リツキシマブ併用療法を行います。年齢や全身状態から自家末梢血幹細胞移植が可能な場合、地固め療法として自家末梢血幹細胞移植を行う場合もあります。
近年、さまざまな治療薬が開発されており、ベンダムスチン、イブルチニブなどの新規治療薬が使用可能となっています。年齢、併存疾患、全身状態などを考え、さまざまな薬剤の中から適切なものを選択します。

ただし、ゆっくりと進行するLeukaemic non-nodal mantle cell lymphomaのようなタイプでは、経過観察も可能と考えられています。

Ⅰ、Ⅱ期の限局期では放射線照射や、化学療法に放射線照射を組み合わせた治療が行われます。

マントル細胞リンパ腫になりやすい人・予防の方法

マントルリンパ腫は遺伝子の異常で起こる病気のため、誰もが起こり得る病気です。なりやすい人や予防の方法はありません。
リンパ節の腫れを自覚した場合ははやめに病院受診をしましょう。


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