

監修医師:
鎌田 百合(医師)
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バーキットリンパ腫の概要
バーキットリンパ腫は、悪性リンパ腫のうち非ホジキンリンパ腫に分類され、数日から数週間という短期間で急速に進行する高悪性度のリンパ腫です。この疾患は、リンパ球の一種であるB細胞が腫瘍化し発症する、成熟B細胞腫瘍に分類されます。その進行の速さから、すみやかな診断、治療が必要です。ほかの悪性リンパ腫と異なり、骨髄、脳や脊髄などの中枢神経など、リンパ節以外の部位への浸潤が起こりやすいという特徴があります。
バーキットリンパ腫は以下の3つに分類されます。
- 流行地型バーキットリンパ腫:アフリカ赤道地帯やパプアニューギニアなどで発生。小児に多い
- 非流行地型バーキットリンパ腫:それ以外の地域で発生
- 免疫不全関連バーキットリンパ腫:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者など、免疫不全患者に発生
この記事では、バーキットリンパ腫について詳しく解説します。
バーキットリンパ腫の原因
バーキットリンパ腫は、Epstein-Barrウイルス(EBウイルス)感染症が原因の一つと考えられています。特に流行地型バーキットリンパ腫では95%以上がEBウイルス陽性となります。
また、HIV患者さんなどの免疫不全者にも発症しやすいことが知られています。バーキットリンパ腫の発症危険度は健常者のおよそ1,000倍です。
遺伝子検査では、IGHがん遺伝子の一つであるMYC遺伝子と免疫グロブリン遺伝子(IGH、IGL、IGKなど)の転座が認められます。この異常によってリンパ腫細胞の異常増殖が起こるとされています。
バーキットリンパ腫の前兆や初期症状について
バーキットリンパ腫は全身のさまざまな部位に腫瘤を形成し、症状を起こします。
首や脇、足の付け根などのリンパ節が腫れるほか、顎や目の周りが腫れることもあります。腸やお腹の中に病変を作り、吐き気や腹痛を起こすことがあります。腸の病変は回盲部という小腸から大腸への移行部に発生しやすく、お腹のしこりとして発症する場合もあります。
また、骨髄に病変があると貧血を起こし、中枢神経系に浸潤すると頭痛や手足のしびれ、けいれん、意識障害などの神経症状が起こる場合があります。
また、悪性リンパ腫に特徴的な全身症状であるB症状(発熱、体重減少、夜間の発汗)が高い頻度でみられることも知られています。病気の進行が早いため、症状は数日~数週の経過で急激に進行します。
バーキットリンパ腫の診断、治療は主に血液内科で行われます。しかし症状が多彩であるため、初診時には内科や外科、神経内科などさまざまな診療科を受診することがあります。そこで行われる精査の結果、バーキットリンパ腫が疑われ、最終的に血液内科で診断されることが一般的です。
バーキットリンパ腫の検査・診断
バーキットリンパ腫が疑われた場合は以下のような検査を行います。増殖が極めて早いため、迅速な診断が必要です。
診断のための検査
生検:病変部位を採取し病理検査を行い(生検といいます)診断をします。リンパ節が腫れている場合は腫れているリンパ節を手術によって摘出し、病変を顕微鏡で観察します。バーキットリンパ腫は、中型のB細胞がびまん性に増殖します。マクロファージによる腫瘍細胞貪食を反映した、starry sky appearance(星空像)という特徴的な病理組織像を呈します。
免疫学的な検査も行い、腫瘍細胞にどのようなマーカーが発現しているかも調べます。表面マーカーはCD19、CD20、CD22、CD10が陽性です。また、細胞増殖の程度を表すKi-67というマーカーがほぼ100%陽性で、細胞増殖速度が早いことを反映しています。
染色体検査では、約80%の患者さんに、t(8;14)(q24;q32)という転座が認められます。この転座は、8番染色体上のMYC遺伝子と、14番染色体上の免疫グロブリン遺伝子(IGH)の相互転座です。
ただし、この異常が認められない場合もあるため、病理所見や表面マーカーなども含め総合的に判断して診断を行います。
病期を調べるための検査
以下の検査はおもに病期(ステージ)を調べるための検査です。
- 血液検査:肝機能や腎機能を確認し、臓器へのリンパ腫浸潤の有無を調べます。また、全身状態を調べ、治療が可能かどうかを判断します。腫瘍の増殖を反映して、LDHや可溶性IL-2レセプター、血清尿酸値などが上昇します。
- 骨髄検査:腸骨に針を刺して骨髄液を採取し、リンパ腫の浸潤の有無を調べます。バーキットリンパ腫は骨髄浸潤の頻度が高く、この検査で診断がつく場合もあります。
- 髄液検査:バーキットリンパ腫は脳や脊髄などの中枢神経に入り込む、中枢神経浸潤の頻度が高いとされています。そのため、脳と脊髄を包む液体である髄液を採取する髄液検査を行い、バーキットリンパ腫の細胞の有無の検査を行います。腰のあたりにある背骨の間に細い針を刺し、髄液を採取します。
- 内視鏡検査:胃や腸に病変がみられることが多いため、胃や腸の病気が疑われる場合は内視鏡検査が行われる場合があります。
- 画像検査:CT、MRI、PET CTなどで全身を検査し、病変の詳細な部位や広がりを確認します。 特に重要なのがPET CTです。がん細胞が正常の細胞に比べてブドウ糖を多く取り込むことを利用した検査で、バーキットリンパ腫ではほぼ100%陽性になります。この検査は、治療効果判定にも有用です。
病期分類
病期はAnn Arbor分類に基づき以下のⅠ~Ⅳ期に分類されます。
- Ⅰ期:がんが1か所のリンパ節にとどまっている
- Ⅱ期:がんが2か所以上のリンパ節にあるが、横隔膜を超えていない
- III期:がんが横隔膜を超えて広がっている
- Ⅳ期:がんがリンパ組織以外の臓器や組織に存在する
Ⅰ、Ⅱ期を限局期、Ⅲ、Ⅳ期を進行期といいます。診断時は70%程度が進行期とされています。
バーキットリンパ腫の治療
バーキットリンパ腫は極めて増殖速度の早いリンパ腫ですが、診断を迅速に行い強力な治療を行うことで約7割以上で長期生存が期待できます。化学療法は、複数の抗がん剤を組み合わせ治療強度を高めた多剤併用化学療法が行われ、以下のような治療が行われます。
- R-hyperCVAD/MA療法:リツキシマブ、シクロホスファミド、ビンクリスチン、ドキソルビシン、デキサメタゾン/高用量メトトレキサート、高用量シタラビン
- CODOX-M/IVAC+R療法:シクロホスファミド、ビンクリスチン、ドキソルビシン、メトトレキサート、イホスファミド、エトポシド、シタラビン、リツキシマブ
- DA-EPOCH-R療法:エトポシド、プレドニゾロン、ビンクリスチン、シクロホスファミド、ドキソルビシン、リツキシマブ
いずれも強力な治療のため、治療によって腫瘍細胞が大量に破壊され、破壊された細胞成分が血液中に放出され体内の電解質バランスが崩れ生命を脅かす危険性があります。これを腫瘍崩壊症候群といい、予防のために大量補液や尿酸分解酵素製剤(ラスブリガーゼ)などの補助療法が行われます。腫瘍崩壊速度が急激な場合、一時的な透析療法が必要となる場合もあります。
多剤併用化学療法で寛解(検査で病気がみつからない状態)に至らない場合は、自家末梢血幹細胞移植が行われることもあります。自家末梢血幹細胞とは、あらかじめ患者さん自身から幹細胞という未熟な血液細胞を採取し凍結保存しておき、大量化学療法の後に幹細胞を患者さんの体内に戻す治療法です。通常よりもさらに強力な化学療法を行うことができます。
バーキットリンパ腫になりやすい人・予防の方法
バーキットリンパ腫はHIV感染症やEBウイルス感染症が原因の一つとされていますが、現時点で効果的な予防法は確立されていません。しかし症状が急速に進行するため、バーキットリンパ腫と診断された場合はすみやかに強力な化学療法を行う必要があります。バーキットリンパ腫を疑う症状が現れた場合は、はやめに医療機関を受診しましょう。
関連する病気
- エプスタイン・バールウイルス(EBV)感染
- 免疫不全状態(HIV感染症)
- マラリア
参考文献