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血栓性血小板減少性紫斑病
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科を経て現職。診療科目は総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本老年医学会老年科専門医、禁煙サポーター。

血栓性血小板減少性紫斑病の概要

血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)は、全身の微小血管に血小板血栓が形成されて発症する、命に関わる疾患です。国の指定難病にも認定されています。

血栓性血小板減少性紫斑病の原因

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の原因は、「先天性」と「後天性」の2つに分けられます。

先天性TTP

先天性TTPは、ADAMTS13という酵素を作る遺伝子に変異があるために発症します。これは遺伝で、両親から異常な遺伝子を受け継ぐことによって発症する「常染色体潜性(劣性)遺伝」と呼ばれる形式です。多くの場合、両親は片方の遺伝子にだけ異常を持っているため無症状ですが、子どもに異常な遺伝子が揃うと発症します。先天性TTPの患者さんはADAMTS13酵素の働きが10%未満と非常に低い状態ですが、無症状で血小板減少が認められない場合もあります。

後天性TTP

後天性TTPは、ADAMTS13酵素に対する自己抗体が原因で、酵素の働きが10%未満に低下して発症します。これは自己免疫疾患の一つで、原因が不明なことが多く、全体の59%がはっきりとした原因が分かっていません。しかし、自己免疫疾患やHIVなどの感染症、がん、妊娠、薬の使用、臓器移植などが発症のきっかけになることが知られています。この自己抗体には、ADAMTS13酵素の働きを直接阻害する「インヒビター」と、酵素に影響を与えない非阻害抗体の2種類があります。

TTPのメカニズム

TTPは、ADAMTS13酵素の働きが低下し、血液中にある「フォンビルブランド因子(VWF)」という物質がうまく分解されなくなることで発症します。この分解が行われないと、VWFが血管内で活性化し、血小板が集まって小さな血栓ができやすくなります。こうした血栓が全身の微小血管に広がることで、血小板が減少し、血栓ができるTTPの症状が現れるのです。

血栓性血小板減少性紫斑病の前兆や初期症状について

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は急激に発症し、命に関わることがあるため、前兆や初期症状を見逃さないことが重要です。ただし、TTPに特有の明確な前兆や初期症状は知られていないため、血小板減少や溶血性貧血に関連する症状に注意することが必要です。

血小板減少の症状

  • 出血しやすくなる
  • あざができやすくなる
  • 鼻血が出やすい
  • 歯茎から出血する

溶血性貧血の症状

  • 顔色が悪い
  • 息切れ
  • 動悸
  • 体のだるさ
  • 黄疸(肌や目が黄色くなる)

ただし、これらの症状はほかの病気でも見られるため、TTP特有の症状とは言えません。

注意点

  • TTPは稀な疾患で、これらの症状があるからといって必ずしもTTPであるとは限りません。
  • これらの症状に加えて、発熱、頭痛や意識障害、けいれんなどの神経症状、腎機能の異常が現れることもあります。
  • 原因が分からない血小板減少や溶血性貧血がある場合は、速やかに内科、血液内科を受診し、TTPの可能性も含めて検査を受けることが大切です。

血栓性血小板減少性紫斑病の検査・診断

TTPの診断は、以下の手順で進められます。

1. 問診と診察
医師は、患者さんの症状(血小板減少、溶血性貧血、発熱、神経症状、腎機能の異常など)や過去の病歴、家族の健康状態を詳しく確認します。

2. 血液検査
血小板数
TTPでは血小板数が大幅に減少します。
溶血性貧血の確認
赤血球が壊れているかを調べます。具体的には、間接ビリルビンやLDH(乳酸脱水素酵素)の上昇、網赤血球の増加、ハプトグロビンの低下などを確認します。
直接クームス試験
自己免疫性溶血性貧血との区別に使われ、TTPでは陰性になります。
凝固機能検査
TTPでは血小板が集まって血栓ができるため、DIC(播種性血管内凝固症候群)とは異なり、PT(プロトロンビン時間)やAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)は通常正常です。FDPやDダイマーは軽度に上昇することが多いです。
腎機能検査
クレアチニンの値を測定し、腎機能に異常がないかを確認します。TTPでは腎障害が軽度の場合が多いです。

3. 破砕赤血球の確認
血液を顕微鏡で観察し、破砕赤血球が見られるかを確認します。これは微小血管内で赤血球が壊れることで生じ、TTPの特徴的な所見です。

4. ADAMTS13活性測定
TTPの確定診断には、ADAMTS13活性の測定が重要です。

  • ADAMTS13活性が10%未満である場合、TTPと診断されます。
  • 後天性TTPでは、ADAMTS13に対する自己抗体が見られることもあり、その有無を確認します。
  • 自己抗体には、ADAMTS13活性を抑制する抗体(インヒビター)と活性に影響を与えない非阻害抗体があります。インヒビターはベセスダ法という方法で測定され、0.5 BU/mL以上で陽性とされます。2 BU/mL以上の高値では、予後(病気の経過)が良くないとされています。

5. Frenchスコア / PLASMICスコア
これらのスコアは、原因不明の溶血性貧血と血小板減少がある患者さんに対して、ADAMTS13活性の低下を予測するために使われます。血小板数や腎機能、溶血性貧血の程度、悪性腫瘍の有無、PTの延長、大球性貧血などの要素を基に算出し、スコアが高いほどTTPの可能性が高くなります。

迅速な診断と治療の重要性

TTPは治療しないと高い致死率を伴うため、早期に診断して血漿交換療法などの適切な治療を開始することが不可欠です。

鑑別診断

TTPと似た症状を持つほかの病気もあるため、以下の疾患と区別する必要があります。

  • 溶血性尿毒症症候群(HUS)
  • Evans症候群(自己免疫性溶血性貧血と特発性血小板減少性紫斑病が併発する病気)
  • 播種性血管内凝固症候群(DIC)
  • 二次性TMA(膠原病やがん、薬剤などが原因)
  • 自己免疫性溶血性貧血

TTPとほかの病気を見分けるために、詳細な病歴、身体診察、各種検査結果を総合的に評価することが大切です。

血栓性血小板減少性紫斑病の治療

後天性TTPの治療

後天性TTPは自己免疫疾患であるため、血漿交換療法に加えて免疫抑制療法が必要です。

血漿交換療法

後天性TTPの科学的に証明された唯一の治療法です。TTPは命に関わる病気なので、血漿交換を早急に始めることが重要です。新鮮凍結血漿(FFP)を使用し、以下の効果が期待されます。

  • 異常なVWF(UL-VWFM)の除去
  • ADAMTS13自己抗体の除去
  • ADAMTS13の補充
  • 適切なサイズのVWFの補充
  • サイトカインの除去

血漿交換は通常、血小板数が安定して15万/μL以上になるまで毎日行います。

免疫抑制療法

副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)
血漿交換療法と併用して自己抗体の生成を抑えます。
抗CD20抗体リツキシマブ
再発や難治性の場合に使用し、自己抗体を生成するB細胞を破壊します。
抗VWF抗体カプラシズマブ
後天性TTPの急性期に併用することで、血小板数の回復を早め、死亡率と血栓のリスクを低減します。カプラシズマブは、VWFが血小板と結びついて血栓を作るのを抑える作用があります。

先天性TTPの治療

先天性TTPでは、ADAMTS13を含むFFPを定期的に投与することが標準治療です。特に血小板が少ないときや妊娠中に行われます。現在、遺伝子組換えADAMTS13酵素の新しい治療法が開発中で、将来的な応用が期待されています。

血栓性血小板減少性紫斑病になりやすい人・予防の方法

TTPの予防法はまだ確立されていませんが、以下のような生活習慣に注意することで、リスクを減らせる可能性があります。

TTPリスクを低減するためのポイント

健康的な生活習慣の維持
バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠を心がけ、免疫力の低下を防ぎましょう。

感染症の予防
感染症が後天性TTPの引き金になることがあります。こまめな手洗いやうがい、予防接種で感染症を予防しましょう。

薬剤の副作用に注意
一部の薬剤はTTPのリスクを高める可能性があります。新しい薬を服用する際は、医師や薬剤師に相談しましょう。

定期的な健康診断の受診
TTPは早期発見・早期治療が大切です。定期的に健康診断を受け、血小板数や貧血の有無などをチェックしましょう。


関連する病気

参考文献

  • 松本雅則,他.血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)診療 ガイド 2023
  • 厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事 業):「血液凝固異常症等に関する研究」班TTPグルー プ:血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)診療ガイド 2020

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