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監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
目次 -INDEX-
いちご状血管腫の概要
いちご状血管腫は、乳児血管腫の一般的な外観を指します。 乳児血管腫は、生後間もなく現れ、急速に成長する良性の血管腫瘍です。表面が赤く、小さな凹凸があり、イチゴのような外観をしていることから、この名前が付けられました。
いちご状血管腫の原因
乳児血管腫の原因はまだ完全には解明されていませんが、いくつかの要因が考えられています。
血管系前駆細胞の分化異常や発生学的異常
血管の形成に関わる細胞が正常に発達しないことで、血管腫の発生につながる可能性があります。
胎盤由来細胞の塞栓
胎盤から分離した細胞が血流に乗って移動し、特定の部位で血管腫を形成する可能性があります。
血管内皮細胞の増殖に関わる遺伝子変異
血管内皮細胞の増殖を制御する遺伝子に変異が生じ、過剰な細胞増殖を引き起こす可能性があります。
さらに、女児、早産児、低出生体重児は乳児血管腫の発症リスクが高いことも知られています。しかし、これらの要因による具体的なメカニズムはまだ明らかになっておらず、今後の研究が進展することが期待されています。
いちご状血管腫の前兆や初期症状について
乳児血管腫は多くの場合、出生時にはほとんど目立ちませんが、生後数日から1ヶ月以内に以下のような前兆や初期症状が現れることがあります。
周囲が蒼白な毛細血管拡張性紅斑
初期の乳児血管腫は薄い赤色の斑点として現れることがあり、周囲の皮膚よりも蒼白に見えることがあります。
貧血斑
血管腫ができる場所に、血液が不足して白っぽく見える斑点が現れることがあります。
平坦な紅斑(こうはん)
皮膚表面に平らな赤色の斑点が現れることがあります。これは血管腫の最も初期段階で、まだ隆起していない状態です。
これらの前兆や初期症状はすべての乳児血管腫に見られるわけではなく、ほかの皮膚疾患との区別が難しい場合もあるため注意が必要です。
生後数週間から数ヶ月にかけて、これらの初期症状は以下のように変化していくことがあります。
急速な増殖
生後1~3、4ヶ月頃に、血管腫が急速に大きくなる増殖期に入ります。
隆起
血管腫が皮膚の表面に隆起し、しこりのような形状になります。
色の変化
血管腫の色が、鮮紅色から青みがかった色、または通常の皮膚色に変わることがあります。これは血管腫が真皮内にあるか、皮下脂肪組織内にあるかによって異なります。
乳児血管腫は良性の腫瘍で、多くの場合は自然に退縮します。しかし、発生部位や大きさによっては、機能障害や美容上の問題を引き起こす可能性もあります。そのため、上記のような前兆や初期症状に気づいたら、早めに小児科または皮膚科で相談することが大切です。
いちご状血管腫の検査・診断
乳児血管腫の診断は、主に臨床症状と経過観察に基づいて行われます。特徴的な外観と自然な経過があるため、通常は問診と視診で診断が可能です。
ただし、ほかの血管腫や血管奇形との区別や、深部の病変評価、治療方針を決めるために、より詳しい情報が必要な場合には以下の検査が行われます。
病理検査
血管腫の組織を採取して顕微鏡で観察します。
GLUT1(グルコーストランスポーター1)というタンパク質が陽性であることが乳児血管腫の特徴です。他の血管腫瘍ではGLUT1は陰性のことが多いです。
組織の様子は、増殖期、退縮期、消褪期と時期によって変化します。
増殖期
幼若な血管内皮細胞が集まって増殖している様子が見られます。
退縮期
血管内皮細胞の増殖が減少し、脂肪組織や線維組織に置き換わる様子が見られます。
消褪期
脂肪組織と線維組織が主体となり、血管成分はほとんど消失します。
画像検査
超音波検査
血管腫の大きさ、深さ、血流の状態などを評価します。
MRI
特に深い場所の病変やほかの腫瘍との区別が必要な場合に有用です。造影剤を使わずに深部病変を追跡できます。
T1強調画像と脂肪抑制画像(STIR法)
脂肪信号に邪魔されずに血管腫を鮮明に表示します。
3次元TRUE FISP法
血管腫内の詳細な血管構造や、血管内皮細胞が塊状に増殖している様子が観察できます。
ダーモスコピー
特殊な拡大鏡を用いて皮膚の表面を観察します。増殖期には「tiny lagoon(小さな湖のような構造)」が集まっている様子が見られます。
退縮後期には、「tiny lagoon」に加えて血管や脂肪組織の増加を示す黄色の領域が見られます。
これらの検査は、乳児血管腫の診断やほかの病気との区別、重症度の評価、治療方針の決定に役立ちます。
いちご状血管腫の治療
乳児血管腫の治療は、自然に退縮する傾向があるとはいえ、発生部位、大きさ、症状に応じて異なる対応が必要です。機能障害や美容上の問題、潰瘍のリスクなどを考慮し、適切な治療法を選択します。
経過観察
小さな病変や衣服で隠れる部位の平坦な血管腫など、自然退縮が期待できる場合には経過観察が選ばれることがあります。経過観察中も定期的に診察を受け、増殖や合併症がないか確認が必要です。
特に生後1〜4か月頃は急速に増大することがあるため、頻繁なフォローが重要です。
プロプラノロール内服療法
プロプラノロールは非選択的β遮断薬で、乳児血管腫に高い治療効果を示します。血管収縮作用、血管内皮細胞の増殖抑制、アポトーシス(細胞死)の誘導など、多様な効果で血管腫の退縮を促進します。2016年には、プロプラノロールシロップ(ヘマンジオルシロップ®)が保険適用され、現在では第一選択治療として広く使用されています。全身投与と局所投与があり、病変の大きさや部位に応じて使い分けられます。効果は早く、内服開始後1〜2週間で色調の改善がみられることが多いです。
副作用には低血圧、徐脈、低血糖、気管支れん縮などがありますが、頻度は低く、適切に管理することで安全に治療可能です。
治療前には、既往歴や家族歴の確認、診察、血液検査、心電図検査、心臓超音波検査を行い、禁忌事項やリスクを確認します。治療開始時および増量時には、心拍数、血圧、呼吸状態、血糖値の厳重なモニタリングが必要です。
早産児や低出生体重児では、薬が体内で分解されにくいため、副作用のリスクが高まります。このため、投与量を減らし慎重に行います。
ステロイド療法
以前は乳児血管腫の標準治療でしたが、現在ではプロプラノロールが主流のため第二選択となっています。投与方法は全身投与、局所注射、外用などがあります。
効果はプロプラノロールよりも弱く、成長抑制、免疫抑制、感染症、皮膚萎縮、眼瞼下垂などの副作用が懸念されます。プロプラノロールが使用できない場合や、より迅速な効果を期待する際に用いられることがあります。
レーザー治療
レーザーを照射することで血管腫内の血管を破壊し、退縮を促進します。主に、表面の色調改善やプロプラノロール治療後の残った紅斑に有効です。深部の病変には効果が限定的です。副作用として色素脱失、瘢痕(はんこん)形成、痛みなどが生じることがあります。
外科療法
血管腫が大きく、機能障害や美容上の問題が著しい場合や、ほかの治療で効果が得られない場合に外科的に切除します。通常は退縮期を迎えた4歳以降に手術を行います。
いちご状血管腫になりやすい人・予防の方法
乳児血管腫は、特定の人々に発生しやすい傾向があります。
女児
乳児血管腫は男児よりも女児に多くみられ、男女比は1:3で女児の方が多く発生します。
早産児
妊娠期間が満了する前に生まれた赤ちゃんは、乳児血管腫のリスクが高まります。
低出生体重児
出生時の体重が低い赤ちゃんも乳児血管腫のリスクが高く、出生時体重が500g減るごとに発症率が約1.25倍増加するとも言われています。
家族歴
乳児血管腫は家族性の場合もありますが、稀です。
乳児血管腫の予防方法
残念ながら、乳児血管腫を確実に予防する方法は現在のところわかっていません。これは、乳児血管腫の正確な原因がまだ完全に解明されていないためです。
関連する病気
- 瘢痕組織形成(Fibromatosis)
- カポジ肉腫
- 結節性硬化症(Tuberous Sclerosis)
参考文献
- 血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン 2017