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遺伝性血管性浮腫
副島 裕太郎

監修医師
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)

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2011年佐賀大学医学部医学科卒業。2021年横浜市立大学大学院医学研究科修了。リウマチ・膠原病および感染症の診療・研究に従事している。日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医、日本リウマチ学会 リウマチ専門医・指導医・評議員、日本リウマチ財団 リウマチ登録医、日本アレルギー学会 アレルギー専門医、日本母性内科学会 母性内科診療プロバイダー、日本化学療法学会 抗菌化学療法認定医、日本温泉気候物理医学会 温泉療法医、博士(医学)。

遺伝性血管性浮腫の概要

遺伝性血管性浮腫は、手足、性器、腸粘膜、顔、上気道などに、突然痛みを伴う腫れを発作的に起こす、稀な疾患です。喉などの上気道に症状が出た場合、空気の通り道が塞がって命に関わることもあります。
遺伝性血管性浮腫は3つのタイプに分けられます。

タイプ1

もっとも多いタイプ(約85%)で、C1インヒビターの産生量減少と機能低下の両方がみられます。

タイプ2

約15%を占め、C1インヒビター産生量は正常ですが機能低下がみられます。

タイプ3

C1インヒビター産生量・機能がともに正常であることが特徴です。

上記のふたつはどちらも常染色体優性遺伝疾患で、推定有病率は約50,000人に1人ですが、患者さんの25%は家族歴がない可能性があります。

遺伝性血管性浮腫の原因

遺伝性血管性浮腫で起こる腫れは、ブラジキニン合成の調節障害の結果です。
ブラジキニンは、血漿カリクレインの作用によって高分子量キニノーゲンから形成される強力な血管拡張剤で、毛細血管の透過性を高め、平滑筋を収縮させ、痛覚受容体を刺激します。
タイプ1とタイプ2の遺伝性血管性浮腫は、「SERPING1」という遺伝子の変異が原因で起こります。
この遺伝子はC1インヒビターの設計図となるもので、変異があると正常なC1インヒビターが作られなくなります。
タイプ3の遺伝性血管性浮腫の原因となる遺伝子変異は、まだすべて解明されていません。現在までに、以下の物質などに関係した遺伝子の変異がみつかっています。

        

  • 第XII因子
  • アンジオポエチン1
  • プラスミノーゲン

遺伝性血管性浮腫の前兆や初期症状について

遺伝性血管性浮腫の発作は、予測できないことが多いですが、発作の前兆として、以下のような症状が現れることがあります。

  • 特徴的な赤い発疹 (紅斑):約3分の1の患者さんにみられます。
  • チクチクする感じ
  • 疲労感
  • 脱力感
  • 腫れが生じる部位の違和感

これらの前兆に続いて、以下のような症状が現れます。

皮膚の腫れ

顔、手足、体幹など、体のどこにでも現れる可能性があります。腫れは非対称で、かゆみはなく、押してもへこみません。

腹痛

腸の粘膜が腫れることで、激しい腹痛が起こります。吐き気嘔吐を伴うこともあります。

喉の症状

喉頭蓋や声帯といった喉の一部分が腫れることで、声がかすれたり息苦しくなったりすることがあります。遺伝性血管性浮腫による死亡の多くは、喉の腫れによる窒息が原因です。

遺伝性血管性浮腫の症状は、アレルギー疾患やほかの病気と間違われることがあります。
上記の症状が現れた場合は、皮膚科一般内科、または総合診療科を受診し、遺伝性血管性浮腫の検査を検討してもらうことをおすすめします。

遺伝性血管性浮腫の検査・診断

血液検査

C1インヒビターの量と機能、C4(補体というタンパク質のひとつ)の量を測定します。
タイプ1の遺伝性血管性浮腫では、C1インヒビターの量と機能が低下し、C4の量も低下します。
タイプ2遺伝性血管性浮腫では、C1インヒビターの量は正常ですが、機能が低下していることがあります。C4の量も低下しています。
タイプ3遺伝性血管性浮腫では、C1インヒビターの量は正常・機能は正常、C4の量も正常です。

遺伝子検査

C1インヒビターに関わるSERPING1遺伝子(タイプ1とタイプ2)やその他の原因となる遺伝子(タイプ3)に変異があるかどうかを調べます。

遺伝性血管性浮腫の治療

遺伝性血管性浮腫の治療は、大きく分けて2つに分けられます。
発作時の治療
発作が起こったときに、症状を和らげるための治療です。
短期予防
処置や手術などで発作を引き起こしてします可能性があるときに行うもの。
長期予防
処置などと関係なく発作を起こす患者さんで、それを予防するために行うもの。

発作時の治療

遺伝性血管性浮腫の発作が起こった場合は、できるだけ早く治療を開始することが重要です。
日本では以下の薬剤が遺伝性血管性浮腫の発作治療薬として承認されています。
静注C1インヒビター製剤(ベリナート®︎P静注用500)
血管内に不足しているC1インヒビターを補充する薬剤です。
皮下注ブラジキニンB2受容体拮抗薬(イカチバント:フィラジル®︎)
ブラジキニンが血管に作用するのを阻害する薬剤です。

アメリカなどではカリクレイン阻害薬(ブラジキニンの産生を阻害する薬剤)を使用することができます。

短期予防

日本では静注のC1インヒビター製剤(ベリナート®︎P静注用500)を短期予防目的にも使用することができます。抜歯などの歯科治療や侵襲を伴う手術前の6時間以内に予防的に投与するという使い方をします。

長期予防

以前は日本ではトラネキサム酸(トランサミン®︎)や蛋白同化ホルモン(ダナゾール®︎)を使用することが多かったのですが、保険適用外の使用であったり効果も限定的であったりしました。
2020年代に入り、臨床試験で有効性が証明された以下の薬剤が遺伝性血管性浮腫の長期予防に保険適用となりました。

  • 経口カリクレイン阻害薬(ベロトラルスタット:オラデオ®︎)
  • 皮下注カリクレイン阻害薬(ラナデルマブ:タクザイロ®︎)
  • 皮下注C1インヒビター製剤(ベリナート®︎皮下注用2000)

注意しないといけないのは、これらの長期予防薬を使用していたとしても、発作を完全に消失させることはできないということです。
発作時の治療についても準備しておくことや、発作を起こさないような生活上の注意などは怠らないようにするなど、気をつける必要があります。

遺伝性血管性浮腫になりやすい人・予防の方法

遺伝性血管性浮腫は遺伝性疾患であるため、予防することはできません。しかし、遺伝性血管性浮腫と診断された人は、発作の誘因を避けることで、発作の頻度と重症度を減らすことができます。

発作の誘因

遺伝性血管性浮腫の発作は、以下の要因によって誘発されることがあります。

  • ストレス
  • 外傷
  • 感染症
  • エストロゲン
  • 疲労

予防方法

遺伝性血管性浮腫の発作を予防するために、患者さんは以下のことができます。

  • 発作の誘因を避ける
  • 定期的に医師の診察を受け、指示に従って薬を服用する
  • 緊急時に備えて、薬を常に携帯する
  • 家族や友人に遺伝性血管性浮腫について説明し、緊急時にどのように対応すればよいかを伝えておく
  • 医療処置、歯科処置、手術を受ける前に、必ず医師に遺伝性血管性浮腫の既往があることを伝える
  • 侵襲的処置を受ける前に、短期予防について医師に相談する


関連する病気

  • 急性アレルギー反応(アナフィラキシー)
  • 後天性血管性浮腫(Acquired Angioedema
  • AAE)
  • 免疫異常(例: 系統性エリテマトーデス
  • SLE)
  • アレルギー疾患(例: アレルギー性鼻炎
  • 喘息)

参考文献

  • Busse PJ, Christiansen SC. Hereditary Angioedema. N Engl J Med. 2020;382(12):1136-1148.
  • Betschel SD, Banerji A, Busse PJ, Cohn DM, Magerl M. Hereditary Angioedema: A Review of the Current and Evolving Treatment Landscape. J Allergy Clin Immunol Pract. 2023;11(8):2315-2325.
  • 遺伝性血管性浮腫(Hereditary angioedema:HAE)診療ガイドライン改訂2023年版.

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