

監修医師:
前田 広太郎(医師)
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クリオグロブリン血症の概要
クリオグロブリンは、体温が37℃未満になると沈殿し、再加温すると再溶解する血清中の免疫グロブリンです。クリオグロブリン血症は、クリオグロブリンが血清中に存在する状態を指し、全身性の血管炎症候群であるクリオグロブリン血管炎やクリオグロブリン血症症候群と同義で用いられることがあります。多くは混合型クリオグロブリン血症であり、C型肝炎ウイルス感染が原因となる場合が多いです。多くは無症状ですが、皮膚症状や関節症状をきたしたり過粘調度症候群を呈すると頭痛や視力障害などの神経症状が出現します。治療は原疾患の治療を行うことであり、病状に応じて免疫抑制療法や血漿交換療法を行います。
クリオグロブリン血症の原因
クリオグロブリン血症は原疾患がない特発性(本態性)と、原疾患に起因する続発性があります。免疫グロブリン(Ig)の構成により以下の3型に分類されます。
Ⅰ型(5~25%)は単クローン性免疫グロブリン(主にIgGまたはIgM、まれにIgAや遊離軽鎖)で構成されます。原疾患としては単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)31%、多発性骨髄腫が15%、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症が27%、慢性リンパ性白血病が7%程度で、B細胞由来の腫瘍と関連します。過粘調度症候群を生じる場合があります。
Ⅱ型(約50%)は単クローン性IgM(またはIgG/IgA)がリウマトイド因子活性を有し、これが多クローン性免役と混合して形成されます。 C型肝炎ウイルス感染に関連するものが最多で、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群)、リンパ増殖性疾患、B型肝炎ウイルスやHIV感染とも関係します。
Ⅲ型(約40%)は、多クローン性IgGとリウマチ活性のある多クローン性IgMが混合した構成となります。 自己免疫性疾患(全身性エリテマトーデスやシェーグレン症候群)やC型肝炎ウイルスなどの感染症に関連します。
複数の免疫グロブリン成分で構成されるⅡ型とⅢ型を合わせ、混合性クリオグロブリンといいます。
クリオグロブリン血症の前兆や初期症状について
クリオグロブリン血症は多くの症例で無症状です。病型で症状が異なります。
Ⅰ型の症候として、主に寒冷環境で症状が誘発され、血管炎による症状よりも過粘調度症候群による症状が主体です。レイノー現象(寒さで指先が白くなったり痺れたりする)、末梢血管障害(虚血、潰瘍、壊死)、網状皮斑といった皮膚症状や、過粘調度症候群による頭痛や視力障害、難聴などの神経症状を生じることがあります。
混合型の症候としては、症状は寒冷とは無関係であり、倦怠感、関節痛、紫斑、神経障害などが多彩に出現します。Meltzerの三徴(紫斑、関節痛、筋力低下)が代表的とされます。
クリオグロブリン血症の検査・診断
クリオグロブリン血症症候群を疑うべき臨床状況は紫斑、関節痛、皮膚潰瘍、腎障害(特に糸球体腎炎)、末梢神経障害の存在。背景にクローン性血液疾患(多発性骨髄腫、MGUS、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症)、ウイルス感染(C型・B型肝炎ウイルス、HIV)、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群)を有する場合、診断の可能性が高まります。クリオグロブリン血症を疑った場合、検査所見として血清中クリオグロブリン定性検査を行います。陽性の場合は血清蛋白分画、血清IgG/IgA/IgMの測定、血清・尿の免疫電気泳動、血清遊離L鎖κ/λ 比などを追加します。その結果から、M蛋白の存在が否定的であれば、多クローン性のIgGであるⅢ型が疑われます。M蛋白の存在が示唆される場合は、血清や尿の免疫固定法を行い、単クローン性IgGのⅠ型か、単クローン性のIgと多クローン性IgのⅡ型かを推定します。血清クリオグロブリン定性が陰性の場合、C型肝炎ウイルスが陽性もしくは血清中の補体低下(特にC4)があれば、臨床症状の悪化時など必要に応じてクリオグロブリン定性検査を再検します。他にも、病態に応じて抗核抗体、ANCAなどの自己抗体、ウイルス性肝炎マーカー、尿定性・尿沈査、腎機能検査を行います。
クリオグロブリン血症の治療
治療は基礎疾患のコントロールと血管炎の重症度に応じて行われます。
Ⅰ型は悪性血液疾患に基づくことが多いため、根本治療は腫瘍の治療に準じます。過粘稠度症候群を伴う場合は、緊急で血漿交換を行います。
Ⅱ/Ⅲ型は感染(特にC型肝炎ウイルス)や自己免疫性疾患が原因であるため、それらの治療を優先します。ウイルス感染に対しては抗ウイルス療法、自己免疫性疾患には免疫抑制療法(ステロイド、リツキシマブ、シクロフォスファミドなど)が選択されます。重度の皮膚症状といった血管炎症状が強い場合や腎炎を伴う場合にも、免疫抑制療法としてグルココルチコイドなどの投与を検討します。
血漿交換の適応として、特に過粘稠度症候群、重症腎障害、重度の皮膚症状、末梢神経障害が急激に進行する場合には適応となり、クリオグロブリンを物理的に除去し症状の改善を図ります
予後は、主に基礎疾患の依存します。特にⅠ型においては悪性腫瘍に起因することが多く、疾患の進行度により予後は大きく左右されます。Ⅱ型およびⅢ型においても、持続的なウイルス感染や免疫異常がコントロールされない場合、慢性腎不全や末梢神経障害などの不可逆的合併症が残ることがあります。
クリオグロブリン血症になりやすい人・予防の方法
臨床的に重要とされるクリオグロブリン血症の有病率は10万人に1人と推定されます。無症候性で血中にクリオグロブリンを検出する率は、慢性感染症や慢性炎症のある患者でさらに高頻度で認められます。無症状での血中クリオグロブリン陽性率は、C型肝炎ウイルス感染者で40~65%、HIV感染で15~20%、全身性エリテマトーデスやシェーグレン症候群といった膠原病で15~25%とされています。確立された予防策はありませんが、原因となる頻度が高い感染症、特にC型・B型肝炎ウイルスやHIV ウイルスなどに罹患しないよう感染予防策を講じることが重要となります。
参考文献
- 1)皮膚血管炎・血管障害診療ガイドライン策定委員会:皮膚血管炎・血管障害診療ガイドライン 2023 ―IgA 血管炎,クリオグロブリン血症性血管炎, 結節性多発動脈炎,リベド様血管症の治療の手引き 2023―. 日皮会誌:133(9),2079-2134,2023
- 2)Ghembaza A, et al. Prognosis and long-term outcomes in type I cryoglobulinemia: A multicenter study of 168 patients. Am J Hematol. 2023;98(7):1080. Epub 2023 May 4.
- 3)Up to date:Overview of cryoglobulins and cryoglobulinemia