監修医師:
居倉 宏樹(医師)
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。
目次 -INDEX-
播種性血管内凝固症候群の概要
播種性血管内凝固症候群(DIC: Dissminated Intravascular Coagulation)は、体内で血が固まる仕組みが異常に働くことで発生する重い病気です。DICは、ほかの病気が原因で起こり、それ自体が独立した病気ではありません。たとえば、感染症やがん、手術後などがDICの原因となります。
播種性血管内凝固症候群の原因
播種性血管内凝固症候群(DIC)は、単独で発生する病気ではなく、ほかの病気が原因となって引き起こされる重い症状です。DICを引き起こす病気はいろいろありますが、主な原因には次のようなものがあります。
感染症
- 敗血症(体全体に感染が広がること)
- 重い感染症(肺、尿路、胆道など)
血液のがん
- 急性前骨髄球性白血病(APL: Acute Promyelocytic Leukaemia)
- 急性白血病
- 悪性リンパ腫
- その他の血液のがん
固形がん
- 転移を伴った進行がん
組織の損傷
- 外傷(ケガ)
- 火傷
- 熱中症
- 筋肉が壊れる病気(横紋筋融解症)
手術後
- 手術を受けた後も、DICを引き起こすことがあります。
血管に関する病気
- 大動脈瘤(胸やお腹の大きな血管が膨らんでしまう病気)
- 大動脈解離(大動脈が裂ける病気)
- 血管の腫瘍や血管炎(血管に炎症が起こる病気)
肝臓の病気
- 劇症肝炎や急性肝炎
- 肝硬変
その他
- 急性膵炎
- ショック状態
- 輸血の問題(血液型が合わない輸血)
- ヘビに咬まれること
- 低体温
さらに、産婦人科や新生児の病気もDICを引き起こすことがあります。DICは、原因となる病気によって発症の仕組みが異なりますが、ほとんどの場合「組織因子(TF)」という物質が重要な役割を果たしています。
感染症の場合
敗血症などの感染症では、体内で「サイトカイン」という物質が増え、組織因子(TF: Tissse Factor)が作られます。これが血液の凝固を引き起こし、さらに血管の内側にあるトロンボモジュリンというタンパク質の働きが抑えられることで、DICが進行します。
白血病や固形がんの場合
急性白血病や固形がんでは、腫瘍細胞の中にある組織因子(TF)が、血を固める働きを活性化し、DICが発症すると考えられています。
播種性血管内凝固症候群の前兆や初期症状について
DICでは、血が固まる働き(凝固活性)と、血を溶かす働き(線溶活性)が同時に無秩序に起こり、そのバランスによって症状は異なります。
出血症状
DICが進行すると、血を固めるための物質が足りなくなり、体のあちこちで出血しやすくなります。また、全身にできた細かい血栓に対して、プラスミンという物質が血栓を溶かそうと活発に働き始めます。すると、本来出止血するためにできた血栓も溶かし、出血傾向がより高まってしまいます。たとえば、鼻血や皮膚の出血、さらには内臓からの出血が起こることがあります。
臓器障害
血栓が臓器の細かい血管に詰まると、血流が妨げられ、酸素や栄養などが組織に届かなくなります。その結果として腎臓や肺や肝臓をはじめとする重要な臓器にダメージが及び、体のさまざまな部分に影響が出ます。
播種性血管内凝固症候群の検査・診断
DICは、ほかの病気が原因で血液が固まりすぎる状態です。症状が現れた場合は血液内科を受診しましょう。
また、この病気を見つけるためには、血液を調べる検査がとても重要です。DICの診断に使われる主な検査項目について説明します。
DICの診断に使われる検査
血小板数:血小板は、けがをしたときに血を止める役割を持っています。DICでは血小板がたくさん使われるため、血小板の数が減ります。特に、急性前骨髄球性白血病(APL)などの疾患では、血小板が大きく減少します。
PT(プロトロンビン時間)
PTは血が固まるまでにかかる時間を測る検査です。肝臓がうまく働かなくなるとPTが長くなることがありますが、PT値に異常がなくてもDICが発症している場合があるため注意が必要です。
APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間
APTTも血が固まる時間を測る検査ですが、これもDICに特有の検査ではなく、値に異常がなくてもDICが発症している場合があります。
フィブリノゲン
フィブリノゲンは血を固めるために重要なタンパク質です。DICの一部のタイプではフィブリノゲンが大きく減少することがあります。
FDP(フィブリン分解産物)やDダイマー
これらは血が固まった後にできる物質です。DICではFDPやDダイマーの値が高くなります。
そのほかの検査項目
TAT(トロンビン-アンチトロンビン複合体)やSF(可溶性フィブリン)
DICではこれらが必ず高くなります。治療の効果を確認するためにも使われます。
PIC(プラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体)
この物質もDICで高くなります。特に「線溶亢進型DIC」では非常に高い値を示します。
AT(アンチトロンビン)
DICではAT活性が低下することが多いですが、場合によっては正常なこともあります。
DICの診断基準
DICの診断は、検査結果だけでなく、基礎疾患や症状も考慮して行われます。DICの診断には、いくつかの基準があります。
- 旧厚生省DIC診断基準
- 日本救急医学会急性期DIC診断基準
- 国際血栓止血学会overt DIC診断基準
- 日本血栓止血学会DIC診断基準2017年版
- 新生児DIC診断・治療指針2016年版
それぞれの基準は、異なる病気や状態に合わせて使い分けられています。例えば、「急性期DIC診断基準」は感染症に関連するDICに使われますが、「新生児DIC診断・治療指針」は新生児に特有の症状を考慮して作られています。
播種性血管内凝固症候群の治療
DIC(播種性血管内凝固症候群)の治療では、まずDICを引き起こしている「基礎疾患」を治すことが最も重要です。DICはほかの病気が原因で起こるため、まずはその病気を治療しないと、DICそのものも改善しません。その上で、DICの状態に応じた治療を組み合わせて行います。
DICのタイプに応じた治療
DICには、3つのタイプがあり、それぞれのタイプによって治療の方法が変わります。
線溶抑制型DIC
凝固活性は高度だが線溶活性は軽度に止まり、血が固まりやすいタイプ
線溶亢進型DIC
著しい線溶活性を伴い、血が溶けやすいタイプ
線溶均衡型DIC
血の固まり方と溶け方がバランスしているタイプ
それぞれのタイプに応じて、次の3つの治療法を使い分けます。
主な治療法
1.抗凝固療法(血を固める力を抑える治療)
ヘパリン
血が固まりすぎるのを防ぐ薬ですが、出血がひどくならないよう注意が必要です。
アンチトロンビン製剤
DICでアンチトロンビンという物質が不足している場合に使われます。
合成プロテアーゼ阻害剤
ナファモスタットメシル酸塩やガベキサートメシル酸塩という薬で、血が固まりすぎないようにしますが、使い方には注意が必要です。
2.補充療法(失われた成分を補う治療)
新鮮凍結血漿(血液の成分)
主に凝固因子を補充することで、血液を正常な状態に近づけます。
血小板製剤
血が固まるために必要な血小板が少ない場合に使います。
交換輸血
血液を入れ替えて、正常な状態に近づけます。
3.抗線溶療法(血が溶けすぎないようにする治療)
トラネキサム酸
線溶亢進型DICの一部でヘパリン類を併用下に使用することで出血に対し著効することもあります。しかし、DICにおける線溶活性化は、細かい全身の血栓を溶かそうとする生体の防御反応という側面もあります。そのため、基本的には抗線溶療法は原則禁忌となります。
播種性血管内凝固症候群になりやすい人・予防の方法
DICになりやすい人とは?
DIC(播種性血管内凝固症候群)は、特定の基礎疾患を持つ人がなりやすい病気です。DICはほかの病気が原因で発症するため、DICにかかるリスクが高い人には共通する条件があります。ここでは、どのような人がDICになりやすいのかを説明します。
1. 新生児や未熟児
新生児、特に未熟児や低出生体重児は、DICを発症しやすいです。これには、以下のような原因が関係しています。
- 感染症
- 仮死状態(生まれたときに呼吸や心拍が弱い状態)
- 胎盤早期剥離(胎盤が早く剥がれてしまうこと)
- 羊水塞栓症(羊水が血管に入ること)
新生児は免疫力が弱いため、感染症や出産時のトラブルがDICを引き起こすリスクになります。
2. 感染症にかかりやすい人
DICの主要な原因の一つは、敗血症などの重い感染症です。特に、高齢者や免疫力が低下している人、感染症にかかりやすい環境にいる人はDICのリスクが高くなります。感染症を予防するためには、こまめな手洗いやワクチン接種が重要です。インフルエンザや肺炎などの感染症は、DICを引き起こす可能性があるため、日常生活での予防が大切です。
3. 血液のがんや固形がんを持っている人
急性白血病や固形がんなどのがん患者さんも、DICを発症するリスクが高くなります。がん細胞が血液の凝固を異常に活性化させることがあり、それがDICの引き金になります。早期発見・早期治療が重要で、定期的な健康診断やがん検診を受けることがDICの予防につながります。
4. 手術後の人
手術を受けた後も、DICになるリスクがあります。手術による体へのダメージや感染症が原因でDICが引き起こされることがあります。手術後のケアとして、医師の指示に従って感染予防や適切な体調管理を行うことが大切です。
DICを予防するために
DICは重い症状を引き起こす可能性があるため、リスクのある人は適切な予防を心がけることが大切です。
感染症の予防
手洗いやワクチン接種で感染症を防ぎましょう。
定期的な健康診断
がんやその他の基礎疾患を早期に発見して治療しましょう。
手術後のケア
術後は合併症を防ぐために医師の指示に従い、感染や体調の管理を行いましょう。
参考文献
- 日本集中治療医学会・日本救急医学会:日本版敗血症診療ガイド ライン 2016(J-SSCG2016).2016, ppS174-S176〕
- 丸藤 哲,他:救急領域の DIC 診断基準:多施設共同前向き試験 結果報告.日救急医会誌 16:66-80,2005
- 日本血栓止血学会:DIC 診断基準 2017 年度版.〔https://www. jsth.org/guideline/dic 診断基準 2017 年度版/〕