監修医師:
鎌田 百合(医師)
真性多血症の概要
真性多血症とは、正常な赤血球が異常に増加する病気で、骨髄の細胞が増える骨髄増殖性疾患の一つです。血液中に存在する細胞は、白血球、赤血球、血小板の3種類があります。骨の中にある骨髄で造血幹細胞が細胞分裂し、さまざまな細胞に成長することで血液は作られます。この造血幹細胞に異常が起こり、主に赤血球が異常に増加するものを真性多血症といいます。赤血球だけでなく、白血球、血小板などすべての細胞が過剰に作られます。赤血球数が増えると血液の粘稠度が増し、血管内に血の塊である血栓ができやすくなります。その結果、細い血管が詰まってしまい、脳梗塞、心筋梗塞、下肢静脈血栓症などを起こすことがあります。
真性多血症の予後は良い場合が多く、治療により10年以上の50%生存期間が期待できます。しかし、病気が進行すると急性白血病(悪性の血液細胞が増える病気)や骨髄線維症(骨髄が線維化を起こし血液が作れなくなる病気)という疾患に移行する場合があります。
真性多血症の原因
真性多血症はJAK2という遺伝子異常が原因です。JAK2のV617F変異(617番目のアミノ酸のバリンがフェニルアラニンに置き換わる変異)が真性多血症の患者さんのおよそ95%に認められるため、この遺伝子異常の有無が診断にたいへん重要です。さらに、一部の患者さんではCALR遺伝子の変異が認められることもあります。造血幹細胞にこれらの遺伝子変異が起こることで、赤血球が過剰に作られるようになります。
真性多血症の前兆や初期症状について
真性多血症は、以下のような症状がみられることがあります。
血液の粘稠度が上がることで起こる症状
真性多血症では赤血球数が著しく増加し血液の粘稠度が上がります。赤血球数が増えることで、赤ら顔や、目の充血などがみられます。血液の粘稠度が上がって血液の流れが悪くなり、特に細い血管の流れが悪くなります。その結果、頭痛、めまい、疲労感、耳鳴りなどを引き起こします。
白血球で作られるヒスタミンによる症状
白血球数が増え、ヒスタミンが過剰に分泌されると、体のかゆみを起こします。特に入浴後にかゆみが出やすいとされています。
血栓による症状
血栓ができると、脳梗塞、心筋梗塞、下肢静脈血栓症などを起こすことがあります。
そのほかにも、肝臓や脾臓が血球を作るようになって腫れることで、腹部膨満感や違和感を自覚することもあります。しかし、自覚症状がなく、健診などでたまたま赤血球数が多いことを指摘され発見される場合もあります。赤血球が多く、真性多血症が疑われた場合は血液内科を受診しましょう。
真性多血症の検査・診断
真性多血症は、血液検査で赤血球が増えている場合に疑います。
問診
まずは赤血球が増えているほかの原因がないかを調べます。喫煙歴や肺の疾患、肝臓や腎臓の疾患の有無、生活歴、内服歴などを確認します。原因がある場合は二次性赤血球増加症とよばれ、原因の疾患を治療します。
検査
血液検査では、赤血球の濃度の指標であるヘモグロビン、ヘマトクリットを確認します。白血球、血小板などほかの血球の数も確認します。さらに、血球が作られる骨髄を調べる骨髄検査を行い、骨髄中の細胞の形態や細胞数、線維化の程度を調べます。JAK2遺伝子変異の検査も行います。診断基準はWHO分類改定第4版(2017年)では以下のように定められています。
真性多血症の診断基準
大基準
1.ヘモグロビン値
男性>16.5g/dL、女性>16.0g/dL
または
ヘマトクリット値:男性>49%、女性>48%
または
循環赤血球量の増加
2.骨髄生検で過形成を示し、赤血球系、顆粒球系、巨核球系の増殖、大小さまざまな巨核球を認める
3.JAK2 V617F変異またはJAK2 exon12変異を認める
小基準
血清エリスロポエチンの低下
大基準3つをすべて満たすか、大基準1、2と小基準を満たす場合に真性多血症と診断する
真性多血症の治療
多血症の治療の目的は、血栓症を予防することです。
そのため、血栓症のリスク分類を行い治療を決定します。
血栓症のリスク分類はいくつか提唱されていますが、代表的な分類に以下のようなものがあります。
血栓症リスク分類
低リスク
年齢<60歳、かつ血栓症の既往なし、かつ血小板数<150万/μl、かつ心血管病変の危険因子なし
中間リスク
低・高リスクに該当しない
高リスク
年齢≧60歳、または血栓症の既往あり
低リスク群に対しては、瀉血(しゃけつ)、低用量アスピリンの投与を行います。高リスク群に対しては、瀉血、低用量アスピリン療法に加え細胞減少療法を行います。
瀉血
瀉血とは、献血と同じように血液を抜く治療です。血圧や脈拍、ヘマトクリットを確認しながら、1回200~400mlの瀉血を定期的に行います。血を抜くため体内の赤血球の濃度が薄まり、真性多血症による症状が緩和されます。
抗血小板療法
低用量アスピリンは、血栓症の予防や、偏頭痛や皮膚発赤などの症状の緩和に役立ちます。
細胞減少療法
細胞減少療法で使用される薬剤には、ヒドロキシウレア、ルキソリチニブがあります。ヒドロキシウレアは抗がん剤で、血液の細胞を減少させます。脱毛や嘔気などの副作用は少ないですが、爪の色素沈着、皮膚潰瘍などの副作用が起こることがあります。
ルキソリチニブは病気の原因であるJAK2を阻害する薬で、赤血球を減らすだけでなく、脾臓を縮小させ腹部膨満感を抑制したり、体重減少、疲労感、かゆみなどの全身症状を改善させる効果があります。ヒドロキシウレアは胎児に奇形を生じる催奇形性の問題があるため、妊婦にはインターフェロンαを使用します。ヒドロキシウレアは長期投与での二次がんのリスクも少ないとされていますが完全には否定されていないため、インターフェロンαは若い患者さんに使用されることもあります。
これらの治療を用いて、血液中の赤血球の割合であるヘマトクリットを45%未満とすることを目標とします。いずれの治療も、本態性血小板血症を治癒させる治療ではありません。病気をコントロールし、血栓症のリスクを抑えて病気と付き合っていくことが目標です。そのほかにも、皮膚のかゆみに対してはH2受容体拮抗薬や抗ヒスタミン薬を用いて対症療法を行います。また、高血圧、脂質異常症、肥満、糖尿病などの血栓症の一般的なリスク因子がある場合は、治療を行います。
真性多血症になりやすい人・予防の方法
真性多血症は遺伝子異常が原因の病気であり、病気の発症を予防することはできません。自覚症状がない場合が多いため、健診などで多血症を指摘された場合は、早めの病院受診が必要です。真性多血症を指摘された場合は、血栓症のリスクとなる因子をなるべく減らすことが重要です。
喫煙は動脈硬化のリスク因子であり、血栓症が発症するリスクが高まります。禁煙を心がけましょう。
ストレスは多血症のリスクを高めるため、ストレスをためないようにしましょう。
高血圧、脂質異常症、肥満、糖尿病などを指摘されている場合は、血栓症のリスクが高まるためそれらの治療を行いましょう。脱水は、血液の水分量が減ることで相対的に赤血球濃度が高まります。こまめに飲水を行い、脱水を予防しましょう。
以上のようなことを行い、血栓のリスクを減らすようにしましょう。
真性多血症が疑われた場合は、血液内科を受診し医師に相談してください。
関連する病気
- 本態性血小板血症(Essential Thrombocythemia
- ET)
- 原発性骨髄線維症(PMF)
- 急性骨髄性白血病(AML)
- 静脈血栓塞栓症(VTE)
- 赤血球増加症(Secondary Polycythemia)
参考文献