

監修医師:
高宮 新之介(医師)
目次 -INDEX-
動脈管開存症の概要
動脈管開存症(Patent Ductus Arteriosus;以下PDA)とは、胎児期に肺動脈と大動脈をつないでいた動脈管(血管)が、出生後も閉じずに開いたままの状態になっていることです。通常、赤ちゃんが生まれて肺呼吸を始めると、動脈管は自然に閉じます。しかし、PDAではこの過程が正常に進まず、動脈管が開いたままになります。その結果、心臓や肺の血流に影響が出て、肺炎にかかりやすいなど様々な症状が現れることがあります。
動脈管開存症の原因
PDAの原因は、完全には解明されていません。通常、赤ちゃんが生まれて肺呼吸を始めると、動脈血中の酸素分圧が上昇し、プロスタグランジンの濃度が低下します。これにより動脈管は自然に閉じていきます。しかし、PDAでは、この過程が正常に進行しないことにより、胎児期に肺動脈と大動脈をつなぐ動脈管が出生後も開いたままとなっています。
動脈管開存症の前兆や初期症状について
PDAの前兆や初期症状は、動脈管の太さによって大きく異なります。
動脈管が太い場合には、乳児期に肺炎にかかりやすくなることや、心不全を引き起こす可能性があるため、早期の適切な治療が必要です。
一方で、動脈管が細い場合には、多くの患者さんでほとんど症状が現れません。ただし、高齢になってからPDAが発見された場合は、肺高血圧症を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
動脈管が太い場合
動脈管が太い場合は多量の血液が流れるため、肺への血流量が増加します。肺の血流量が増加すると、肺の血管が傷つくなど悪い影響を及ぼし、肺高血圧症を引き起こす可能性があります。肺高血圧症になると、呼吸困難が生じたり、肺炎にかかりやすくなったりします。
また、肺への血流は左心房と左心室に流れ込むため、これらの部分にも負担がかかります。左心室への負担は心不全を引き起こす可能性があります。さらに、左心室から全身へ送り出された血液の一部が、動脈管を通って肺に戻ってしまうため、全身への血流が減少します。これらの状態が続くと、乳児ではミルクの飲みが悪くなる、体重が増加しにくくなる、手足が冷たい、元気がないなどの症状が現れることがあります。これらの症状が見られる場合は、早期の治療が必要となります。
肺や心臓への負担の程度を正確に把握するには、心臓超音波検査(心エコー)などの専門的な検査が必要です。このため、上記の症状が認められた場合は、速やかに小児循環器科などの専門医療機関を受診することが重要です。
動脈管が細い場合
動脈管が細い場合、多くの患者さんはほとんど症状が現れません。このため、成長しても気づかれないことがあります。PDAは、成人になってから健康診断で心雑音を指摘されたり、別の目的で受けた検査で偶然発見されたりすることもあります。
成人になってからPDAが発見された場合、心不全の症状があるときは早期の治療が必要です。しかし、症状がない場合や薬によって心不全の症状がコントロールできている場合は、しばらく経過観察することがあります。
ただし、高齢になってから発見された場合は注意が必要です。細い動脈管でも、長期間にわたって肺血流が増加した状態が続くと、肺高血圧症を引き起こす可能性があります。この場合、手術のリスクが高くなることがあります。
成人になってから、上記の症状が発見された場合には、循環器内科医、心臓血管外科医などの専門医療機関を受診するようにしましょう。
動脈管開存症の検査・診断
PDAの検査では、適切な治療方針を決定するために、複数の検査方法が用いられます。主に実施される検査は、以下の5つです。
- 医師による聴診
- 心臓超音波(心エコー)検査
- 胸部X線検査
- 心電図検査
- 心臓カテーテル検査
医師による聴診
聴診器を用いて心臓の音を聴き、PDAの特徴である連続性心雑音を確認します。ただし、心雑音の有無や性質は、動脈管の太さや肺高血圧の程度によって異なる場合があります。
心臓超音波(心エコー)検査
PDAの確定診断には、心エコー検査が用いられます。心エコー検査では、超音波を使って心臓の動きや構造を詳細に観察し、動脈管の大きさ、血流の状態、心臓への影響などを評価します。
胸部X線検査
胸部X線検査では、心臓の大きさや形、肺の状態を確認します。PDAの場合、心臓が通常より大きくなっている(左第2、3、4弓の突出を伴う心拡大)、肺の血管影が増強しているなどが見られます。
心電図検査
PDAの場合、左房負荷と左室肥大所見の波形が見られることがあります。肺高血圧症の合併例では、右室肥大所見の波形が見られることがあります。
心臓カテーテル検査
心臓カテーテル検査では、カテーテルと呼ばれる細い管を血管から挿入し、心臓内部の圧力や血液の流れを測定します。PDAの場合、造影検査により、大動脈から肺動脈への短絡血流が見られることがあります。また、肺高血圧の合併例では肺動脈圧の上昇が見られることがあります。
動脈管開存症の治療
動脈管開存症の治療法には、主に以下の3つがあります。
- 薬物療法
- カテーテル治療
- 手術
治療法の選択は、患者さんの年齢、症状、動脈管の太さ、全身状態、合併症の有無などを考慮して決定されます。手術の具体的な方法や手術に関するリスク、術後の経過などについては、患者さんの状態によって大きく異なります。このため、担当医と十分に相談し、詳細な説明を受けることが重要です。
薬物療法
薬物療法では、主にインダシン(一般名:インドメタシンナトリウム水和物)が用いられます。この薬剤は、動脈管の収縮を抑制するプロスタグランジンの合成を抑えることで、動脈管の閉鎖を促します。インダシンは、主に小さく生まれた赤ちゃん(おおよそ1,500g未満)に対して注射で投与されます。ただし、乏尿、腎障害、消化管穿孔などの副作用が見られる場合や、薬の効果が現れない場合には、手術またはカテーテル治療が行われます。近年はイブプロフェンやアセトアミノフェンも動脈管の閉鎖を促す薬剤として使用されています。
カテーテル治療
カテーテル治療は、動脈管開存症に対する外科的治療の一つで、主に「コイル治療」と「閉鎖栓治療」の2種類があります。どちらの治療法を選択するかは、動脈管の形状や太さによって決まります。
「コイル治療」では、カテーテルを通じて動脈管内にコイル状の金属を詰めていきます。治療直後は完全に血流が止まらないこともありますが、コイルの周りに血栓(血の塊)ができることで、徐々に血液の流れが遮断されます。
「閉鎖栓治療」は、比較的大きな動脈管を閉じるための方法です。カテーテルの先端に取り付けられた傘状の閉鎖栓を、動脈管の位置で慎重に広げます。位置を確認しながら閉鎖栓を固定し、最後に傘の柄を外して治療を完了します。
なお、閉鎖栓治療は特別な技術と経験が必要なため、学会が認定した施設と医師のみが実施できる治療法となっています。
手術
PDAの手術は主に「開胸手術」と「胸腔鏡下手術」の2種類があります。
「開胸手術」は、動脈管結紮術と呼ばれる方法で行われます。この手術は小児心臓血管外科医または小児外科医によって実施されます。動脈管を直接確認し、糸で結紮する(しばる)か血管クリップを用いて血流を遮断します。場合によっては動脈管をしばった後に切り離すこともあります。
「胸腔鏡下手術」は、内視鏡を使用して行う方法です。内視鏡の映像をガイドとして、動脈管をクリップで遮断します。
子どもの頃に手術した場合、経過は良好であることが多いです。しかし、高齢者の場合は注意が必要です。年齢とともに動脈管が硬化したり脆弱化したりするため、小児と同様の手術方法が適用できない場合があります。このような場合、個々の患者さんの状態に応じて最適な手術方法が選択されます。
動脈管開存症になりやすい人・予防の方法
PDAになりやすい人は、以下の通りです。
- 小さく生まれた赤ちゃん(1,500g未満の極低出生体重児や1,000g未満の超低出生体重児)
- 女児(女性:男性は約2:1)
- 家族内に動脈管開存症の患者さんがいる
- 先天性風疹症候群の患者さん
PDAは、特に小さく生まれた赤ちゃんでは動脈管の治療を受けた割合が高く、1,500g未満の極低出生体重児では38 %、1,000g未満の超低出生体重児で48%にのぼります。小さく生まれた赤ちゃんは、動脈管組織とプロスタグランジン代謝が十分に発達していないため、動脈管が閉鎖しにくい傾向があるからです。
動脈管開存症の予防
PDAはの多くが先天性の疾患であるため、明確な予防方法が確立されていません。PDAの予防が難しい現状では、早期発見と適切な治療が重要となります。定期的な健康診断や、疑わしい症状がある場合の速やかな医療機関の受診が推奨されます。
関連する病気
- 胎児アルコール症候群
- ダウン症候群
- 先天性心疾患
- 肺高血圧症
- 先天性風疹症候群
- 結合組織疾患
- 高山病
- 敗血症
- 高ビリルビン血症
参考文献




