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本態性血小板血症
鎌田 百合

監修医師
鎌田 百合(医師)

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千葉大学医学部卒業。血液内科を専門とし、貧血から血液悪性腫瘍まで幅広く診療。大学病院をはじめとした県内数多くの病院で多数の研修を積んだ経験を活かし、現在は医療法人鎗田病院に勤務。プライマリケアに注力し、内科・血液内科医として地域に根ざした医療を行っている。血液内科専門医、内科認定医。

本態性血小板血症の概要

本態性血小板血症とは、血液を作っている骨髄中の造血幹細胞に異常が起こり、血小板が異常に増加する病気です。血小板は出血を止めるかさぶたの役割をする細胞です。この細胞が増えることで、血管内で血の塊である血栓ができやすくなります。
血栓が作られると、体のさまざまな場所で血管が詰まり、それによる症状が現れます。

本態性血小板血症は予後が良好で、健常者とほぼ同等の生命予後が期待されます。
しかし血栓症のリスクが高い場合、脳梗塞や心筋梗塞など重篤な疾患を発症する可能性があります。また、一部の患者さんは急性白血病や骨髄線維症へ進行する場合があり、注意が必要です。

本態性血小板血症の原因

本態性血小板血症は、遺伝子変異が原因で発症します。
80〜90%の患者さんでなんらかの遺伝子変異が認められます。代表的なものに、以下のような変異があります。

  • JAK2遺伝子変異:約50〜60%
  • CALR遺伝子変異:約20〜30%
  • MPN遺伝子変異:約5%

JAK2遺伝子変異は、特にJAK2のV617F変異(617番目のアミノ酸のバリンがフェニルアラニンに置き換わる変異)が頻度が高く重要であるとされています。
これらの遺伝子変異は、血球の過剰な産生を誘導します。
ただし、遺伝子変異が認められない場合もあるため、ここに挙げた遺伝子変異がなくても本態性血小板血症である可能性は否定できません。

本態性血小板血症の前兆や初期症状について

本態性血小板血症は、血小板が増えることと、止血異常をきたすことの2つの側面があります。

血小板の増加による症状

血小板が増加すると、血管内で血栓ができやすくなります。血栓ができて血管が詰まることで、頭痛、めまい、耳鳴り、四肢末端の発赤・灼熱感、視力障害などがみられます。脳梗塞心筋梗塞が起こることもあります。
全身に血液が巡りにくくなり、失神などの一時的な脳血管障害が起こることもあります。

止血異常による症状

血小板の数が増えすぎると、後天性フォンウィルブランド症候群を発症することがあります。フォンウィルブランド因子とは、血小板とともに止血に関わる重要な凝固因子です。この活性が低下すると止血機能が十分働かなくなり、血小板が増えているにもかかわらず逆に出血しやすい状態になります。特に、血小板数が100万/μl以上になると出血症状が起こりやすいとされています。
何もしていないのにアザができやすくなる、鼻出血や歯肉出血が起こりやすくなる、怪我などの出血時に血が止まりにくくなるなどといった症状が起こります。脳出血など重篤な症状を発症することもあります。

そのほかにも、全身症状として倦怠感や集中力の低下、微熱などがみられることもあります。血小板を処理する脾臓という臓器が腫れることで、腹部膨満感や食欲の低下を起こすこともあります。
しかし、血小板が軽度の上昇であれば全く症状が起こらないことも多く、健診などで血小板増多を指摘されて診断されることも多い病気です。

本態性血小板血症が疑われた場合、血液内科を受診しましょう。

本態性血小板血症の検査・診断

本態性血小板血症は、血液検査で血小板が増えている場合に疑います。

問診

まずは血小板が増えているほかの原因がないかを調べます。鉄欠乏の有無、肝臓、腎臓の疾患の有無、生活歴、手術歴、内服歴、感染症の有無などを確認します。なんらかの原因がある場合は二次性血小板増加症といい、原因の治療を行います。

検査

血液検査では、血小板数を確認します。白血球、赤血球などほかの血球の数も確認します。さらに、血球が作られる骨髄を調べる骨髄検査を行い、骨髄中の細胞の形態や細胞数、線維化の程度を調べます。
血小板が100万/μl以上に著増している場合は、後天性フォンウィルブランド症候群を発症している場合があります。出血リスクが高い場合や血小板が著増している場合は、フォンウィルブランド因子活性を調べる場合があります。

診断基準はWHO分類改定第4版(2017年)では以下のように定められています。

本態性血小板血症の診断基準

大基準

  • 血小板数≧45万/μl
  • 骨髄生検で主に巨核球系の増多がみられ、過分葉核を有する、成熟した、大型の巨核球が増多している。顆粒球系や赤芽球系では増多や左方移動を認めない。
  • 慢性骨髄性白血病、真性多血症、骨髄異形成症候群、その他の骨髄系腫瘍の診断基準を満たさない。
  • JAK2、CALR、MPLのいずれかの遺伝子変異を有する。

小基準

  • 染色体異常などのクローナルマーカーの存在、もしくは反応性の血小板増多ではないことが証明できる。

大基準4つもしくは大基準3つ+小基準で確定診断
本態性血小板血症は、ほかの病気を否定した上で診断します。病歴を確認し、血液検査、骨髄検査を行い総合的に診断します。

本態性血小板血症の治療

本態性血小板血症の治療は、血小板の働きをコントロールし出血や血栓症のリスクを抑えることが目標です。
血栓症のリスク分類はいくつか提唱されています。そのうちの一つであるIPSET-Tは、以下のようにスコアリングしリスク分類を行います。

IPSET-T

  • 年齢 60歳以上:1点、60歳未満:0点
  • 血栓症の既往 あり:2点、なし:0点
  • JAK2V617F変異 あり:2点、なし:0点
  • 心血管リスク あり:1点、なし:0点

0~1点 低リスク
2点  中間リスク
3~6点 高リスク

血栓症の低リスク群に対しては、定期的な経過観察を行います。高リスク群に対しては、血栓症の予防を目的として低用量アスピリン療法と細胞減少療法の併用を行います。ただし、血小板が多い患者さんは逆に出血しやすい状態にあり、低用量アスピリンによって出血を助長することがあります。あらかじめ細胞減少療法で血小板数を減らしてから、アスピリンの投与を行います。

細胞減少療法には、ヒドロキシウレア、アナグレリドがあります。ヒドロキシウレアは抗がん剤で、血液の細胞を減少させます。脱毛や嘔気などの副作用が比較的少ない抗がん剤ですが、爪の色素沈着、皮膚潰瘍などの副作用が起こることがあります。
アナグレリドは、血小板の元となる巨核球の成熟や、血小板の放出を抑制することで血小板数を低下させる作用があります。頭痛、動悸などの副作用があります。

骨髄線維症への移行は2.6%、急性白血病への移行は2.9%の患者さんに認められます。骨髄線維症や急性白血病への進行がみられる例では、病状に応じて抗がん剤治療や造血幹細胞移植などが行われる場合があります。

本態性血小板血症になりやすい人・予防の方法

本態性血小板血症は遺伝子変異が原因の病気であり、病気の発症を予防することはできません。しかし適切な管理を行えば健常の人と同等な生命予後が期待できます。そのため、病気が進行する前に早期診断することが重要です。
健診などで血小板増多を指摘された場合は、血液内科を受診し医師に相談しましょう。 本態性血小板血症を指摘された場合は、血栓症のリスクとなる因子をなるべく減らすことが重要です。
喫煙は血栓症の重大なリスク因子です。禁煙は強く推奨されます。ストレスは多血を招くため、ストレスをためないようにしましょう。
高血圧、脂質異常症、肥満、糖尿病などは血栓症のリスクとなります。このような病気を指摘されている場合は、治療を行いましょう。
脱水は、血液の水分量が減ることで相対的に赤血球濃度が高まります。飲水をこまめに行い脱水を予防しましょう。


関連する病気

  • 原発性骨髄線維症
  • 真性多血症(Polycythemia Vera)
  • 急性骨髄性白血病(AML)
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