監修医師:
山本 佳奈(ナビタスクリニック)
骨髄腫の概要
骨髄腫(多発性骨髄腫)は血液がんの一種で、血液細胞のうちの形質細胞ががん化して異常に増殖する病気です。
通常、形質細胞は身体を守る役割を担っていますが、異常をきたすと本来の能力を欠いたM蛋白という抗体を作り続け全身へさまざまな影響を及ぼします。
日本では人口10万人当たり6人に発症し、血液がんの約10%を占めています。
出典:国立研究開発法人 国立がん研究センター「多発性骨髄腫の病気について」
若年者に発症するのは稀で、60歳以上の男性に多い傾向がありますが、明確な原因は解明されていません。
骨髄腫の主な症状は腰背部痛や貧血、息切れや発熱などですが、初期段階では症状がほとんど出ない場合もあります。
診断は血液検査や尿検査、骨髄検査や画像検査などによっておこないます。
早期発見や早期治療は病気の進行を阻止することにもつながるため、気になる症状がある場合は早めに医療機関を受診することをおすすめします。
骨髄腫の原因
骨髄腫は遺伝子異常や染色体異常が原因である可能性が高いとされていますが、明確には解明されていません。
骨髄腫と特徴が似ている、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症やくすぶり型骨髄腫と診断された人の数%は、骨髄腫へ移行することもあるとされています。
骨髄腫の前兆や初期症状について
骨髄腫の主な症状は、以下のように3つに大別されます。
- 造血機能の抑制による症状
- M蛋白の増加による症状
- 骨破壊による症状
造血機能の抑制による症状
骨髄腫細胞が正常な血液細胞の生成を妨げるため、赤血球や白血球、血小板などの血液細胞が減少します。
赤血球の減少により息切れや動機、疲労感といった貧血の症状が出現し、白血球が減少すると感染症にかかりやすくなります。
また、血小板の減少により止血機能が低下し、血が止まりにくくなる症状を招きます。
M蛋白の増加による症状
正常な機能を欠いたM蛋白が増殖し血中に蓄積することで、過粘稠度症候群という血液がドロドロになる状態を引き起こします。
過粘稠度症候群により血液循環が悪くなり、視覚障害をはじめとするさまざまな症状が出現します。
また、M蛋白はアミロイドという水に溶けない有害なたんぱく質になり、全身のさまざまな臓器に沈着し機能を低下させることもあります。
骨破壊による症状
骨髄腫細胞により骨の破壊が進むと腰背部を中心とした骨の痛みが出現したり、些細なことでも骨折しやすくなったりします。
その他、骨が溶け出すことによる口の渇きや意識障害、便秘などの高カルシウム血症の症状が現れることもあります。
これらの症状の出方や程度は個人差が大きく、なかには症状を自覚しづらい場合もあります。
骨髄腫の検査・診断
骨髄腫を診断するために、以下のような検査をおこないます。
- 血液検査
- 尿検査
- 骨髄検査(骨髄穿刺・骨髄生検)
- 画像検査(X線検査・CT検査・MRI検査・PET検査)
血液検査
血液検査では、赤血球や白血球、ヘモグロビンや血小板など造血機能に関する項目を調べます。
他にもクレアチニンやアルブミン、カルシウムやM蛋白、免疫グロブリンなど、腎機能の指標になる項目や骨髄腫に関わる項目について検査します。
尿検査
尿検査では、ベンス・ジョーンズ蛋白という尿中のM蛋白の有無を調べます。
通常、ベンス・ジョーンズ蛋白は尿中には検出されませんが、骨髄腫の場合尿中に含まれていることが多く、診断の鍵を握る物質です。
骨髄検査
骨髄検査とは骨髄液または組織を採取し、顕微鏡で観察する検査です。
腸骨へ針を刺して骨髄液を採取する方法と、より太い針を刺して骨髄の組織を採取する方法があります。
採取した骨髄液や組織を顕微鏡で分析することで、悪性細胞の有無や種類など、病気の診断や評価に関わることを調べられます。
より詳細な分析を要する場合、染色体の異常を調べることもできる検査です。
画像検査
骨髄腫における画像検査では、X線検査やCT検査、MRI検査やPET検査を実施します。
X線検査やCT検査、MRI検査では全身的な骨の病変や病的骨折を調べることができます。
この中でもPET検査は骨髄腫の診断に有効な検査です。
ブドウ糖に微量の放射性物質を付加した薬剤を用いて、悪性細胞に薬剤が集まる性質を利用し、骨髄以外の病変も調べることが可能です。
これら複数の検査結果を総合的に判断し、骨髄腫の診断や治療方針の決定をおこないます。
骨髄腫の治療
骨髄腫の主な治療法は以下のとおりです。
- 自家造血幹細胞移植
- 化学療法
- 放射線療法
- 対症療法
骨髄腫の治療内容は、自家造血幹細胞移植ができるか否かによって異なります。
自家造血幹細胞移植とは、患者本人の造血幹細胞をあらかじめ採取し、大量化学療法後に再び患者へ戻し、造血機能の回復を図る治療方法です。
治療効果が期待できる一方で身体への負担が大きく、実施にあたり慎重な判断を要します。
そのため、65歳未満の人で重篤な病変はなく、心肺機能が維持されているなどの場合に限り適応となります。
出典:国立研究開発法人 国立がん研究センター「多発性骨髄腫の治療について」
自家造血幹細胞移植以外の治療には、化学療法や放射線療法、対症療法があります。
化学療法では複数の抗がん剤やステロイド剤、分子標的薬というがん細胞の増殖に関わる物質を狙い撃ちする薬剤を用いて、骨髄腫細胞を減少させます。
放射線治療は、骨髄腫の病変を小さくしたり痛みを軽減させる目的でおこないます。
病変が小さい場合、少量の放射線照射でも効果が得られるケースもあります。
また、骨髄腫では感染症や腎機能障害などさまざまな症状を合併することがあります。
それぞれの症状を抑えるため、対症療法をおこない苦痛の軽減につなげます。
骨髄腫になりやすい人・予防の方法
骨髄腫は明確な原因が分からない病気ですが、60歳以上の男性や骨髄腫を発症した家族がいる人はなりやすい傾向があります。
骨髄腫の原因は未解明であるため、直接的に予防することは難しいのが現状です。
病気の早期発見や早期治療が大変重要であるため、定期健康診断は欠かさず受けるようにしましょう。
気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。
関連する病気
- 形質細胞腫瘍
- マクログロブリン血症
- 意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症
- くすぶり型骨髄腫
- 高カルシウム血症
- 圧迫骨折
- 過粘稠度症候群
- アミロイドーシス
参考文献
- 国立研究開発法人 国立がん研究センター「多発性骨髄腫の病気について」
- MEDIC MEDIA「病気が見える第2版 血液」