監修医師:
大坂 貴史(医師)
結節性多発動脈炎の概要
結節性多発動脈炎 (PAN: polyatrteritis nodosa) は、中型血管の壁に炎症が起こる病気です。この炎症によって動脈が傷つき、臓器や組織への血流が妨げられることがあります。症状は、発熱、体重減少、筋肉痛、関節痛など全身に影響を及ぼすほか、腎臓や神経系にダメージを与えることもあります。原因は不明ですが、B型肝炎ウイルスとの関連が指摘されています。早期診断と免疫抑制薬などによる治療が重要で、放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性があります (参考文献1) 。
結節性多発動脈炎の原因
結節性多発動脈炎の原因は完全には解明されていません。一部の患者さんでは B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの感染、薬物、ヘアリー細胞白血病などとの関連が見られますが、ほとんどの場合は原因がわかりません (参考文献2) 。
結節性多発動脈炎とよく似た疾患として顕微鏡的多発血管炎 (MPA: mycroscopic polyangitis) がありますが、こちらは毛細血管や細小動脈・静脈に炎症が起きる疾患である点が異なります。また、顕微鏡的多発血管炎では血液検査でANCAという自己抗体が見られますが、結節性多発動脈炎では見られません (参考文献1)。
結節性多発動脈炎の前兆や初期症状について
結節性多発動脈炎の症状は非常に多岐にわたりますが、全身症状と臓器障害による症状に大きく分けられます。
炎症により生じる全身症状は、38度以上の発熱、体重減少、高血圧が比較的よく見られます。発熱に悪寒や戦慄を伴うことはあまりありません (参考文献1) 。また、疲労感や関節痛が見られることもあります (参考文献2) 。
臓器の障害により、皮膚や筋肉、神経、腎臓、消化器、心臓などにさまざまな症状が現れることがあります。以下では、それぞれの症状について詳しく説明します。
皮膚の症状には、紫斑 (内出血による赤紫色の斑点) 、潰瘍 (皮膚のただれ) 、皮下のしこり、網状皮斑 (皮膚に網目状に現れる赤紫色の模様) などが見られることがあります。
筋肉の症状としては、筋肉痛や筋力の低下が多くみられます。また、少し歩いただけで疲れてすぐに休まなければならない「跛行」という症状が現れることもあります。
神経の症状として、手足のしびれや筋力低下などの末梢神経障害が起こることがあります。これは運動神経と感覚神経の両方に影響するため、感覚が鈍くなることもあります。
腎臓の症状には、腎不全や高血圧が含まれる場合があります。炎症によって動脈が狭くなると、腎臓が十分な血流を受けられなくなり、血圧が低下したと誤認してホルモンを多く分泌するため、高血圧になることがあります。
消化器の症状には、腸間膜動脈の炎症によって腹痛、吐き気、嘔吐、下血、下痢、消化管出血などが発生することがあります。特に食後にこれらの症状が強まることがあり、食欲低下や消化不良によって体重が減少する場合もあります。
心臓の症状として、明確な心筋梗塞はまれですが、冠動脈の炎症により血流が悪化して心筋が酸欠状態 (心筋虚血) になり、その結果、心不全が発症することがあります。 (参考文献2)
結節性多発動脈炎の検査・診断
結節性多発動脈炎が疑われた場合には、血液検査および尿検査、画像検査、生検などが行われます。
血液検査
血液検査では、炎症の指標である C反応性タンパク(CRP)や赤血球沈降速度(ESR)の値の上昇が見られます。また、肝臓が障害を受けている場合は肝酵素が上昇します。尿検査では腎機能を確認します。ただし、結節性多発動脈炎に特徴的な自己抗体はないため、血液検査や尿検査の結果で結節性多発動脈炎を診断することはできません (参考文献2) 。
画像検査
画像検査としては、動脈の状態を詳しく見るために、血管造影 (血管に造影剤を入れてX線撮影をする検査) が行われます。腹部大動脈や腸間膜動脈、腎動脈、肝動脈を観察し、血管の分岐や内部の狭窄や途絶、小さな動脈瘤が見られないかなどを確認します (参考文献3) 。
生検
さらに、確定診断のためには、可能な限り生検 (組織の一部を取り出して顕微鏡で調べる検査) が行われます。特に、皮膚や筋肉、腓腹神経などが生検を行う部位としてしばしば用いられます。採取した組織の中で中〜小型の動脈血管が炎症で壊死している様子 (壊死性血管炎) が見られれば結節性多発動脈炎と診断されます (参考文献3) 。
結節性多発動脈炎の治療
結節性多発動脈炎の治療には主にステロイド薬と免疫抑制薬が用いられます。これらの薬は、血管の炎症を抑える効果があります。比較的軽症の場合は、ステロイド薬 (プレドニゾロンなど) を使用します。腎障害や消化管出血、心筋病変、脳梗塞などの中枢神経病変を伴うような重症の場合や、ステロイドだけでは十分でない場合では、免疫抑制剤 (シクロフォスファミドなど) も併用されます。
早期に診断し治療を開始することができれば、症状を完全に抑えられる可能性もあります。一方で、治療開始が遅れてしまうと脳出血、消化管出血・穿孔、膵臓出血、心筋梗塞、腎不全により亡くなる可能性が高まります。多くの患者さんの場合は知覚神経や運動神経の障害が残ったり、透析が必要になったりすることもありますが、症状を落ち着かせる状態 (寛解) まで持っていくことができます (参考文献1) 。
結節性多発動脈炎になりやすい人・予防の方法
結節性多発動脈炎は特に中年期に多く発症し、男女差はありません。フランスなどではB型肝炎ウイルス感染に伴って発症する例が多く見られていますが、日本ではまれにしか見られません。そして、結節性多発動脈炎の原因が完全に解明されていないため、明確な予防策はないのが現状です (参考文献1) 。
関連する病気
- ANCA関連血管炎
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
- 結節性多発動脈炎
- 肝炎ウィルス感染
- リウマチ性疾患
参考文献
- 参考文献1:難病情報センター「結節性多発動脈炎 (指定難病 42) 」 (公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター、最終閲覧日2024年9月23日)
- 参考文献2:UpToDate. “Clinical manifestatio
- 参考文献3:矢崎義雄 et al.「内科學第11版」(朝倉書店、2017年) 1268ページ