

監修医師:
宮島 徹(北海道大学大学院医学研究院血液内科学講座)
キャッスルマン病の概要
キャッスルマン病は、リンパ節の腫れが特徴的なまれな病気です。この病気は、病変部位の分布によって大きく2つに分けられます。一つは、単一のリンパ節または一か所のリンパ節群が腫れる単中心性キャッスルマン病です。単中心性キャッスルマン病の場合、ほとんど症状がなく偶然に発見されることが多く、一般的に良性の経過をたどり手術で治癒する可能性があります 。もう一つは、全身の複数のリンパ節が腫れる多中心性キャッスルマン病です。多中心性キャッスルマン病は発熱や倦怠感といった全身症状を伴い、治療を行わなければ生活の質が低下したり、命にかかわることもある、より重篤な病気です 。多中心性キャッスルマン病はさらに、ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)の感染が関連するタイプ(HHV-8関連多中心性キャッスルマン病)と、原因不明の特発性タイプ(特発性HHV-8関連多中心性キャッスルマン病)、POEMS症候群に関連するタイプに分類されます。特発性の中には血小板減少や全身性浮腫などを伴う「TAFRO(タフロ)症候群」と呼ばれる病型があり、急速に進行し重篤な経過となることがあります 。
キャッスルマン病の原因
キャッスルマン病の原因は、その病型によって異なります 。HHV-8関連多中心性キャッスルマン病は、HHV-8の感染が原因で起こり、多くの場合、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染を背景に発症します 。このウイルスは、ウイルス由来のサイトカインIL-6を介して、体内で過剰な炎症反応を引き起こします 。一方、特発性多中心性キャッスルマン病は、その名の通り原因が不明です 。しかし、炎症性サイトカインのIL-6が過剰に産生されることが病態に関与していると考えられています 。ただし、なぜIL-6が過剰に作られるのか、その詳しいメカニズムは完全には解明されていません 。単中心性キャッスルマン病についても、原因は完全には解明されていません 。
キャッスルマン病の前兆や初期症状について
キャッスルマン病の症状は、その病型によって大きく異なります。最も一般的な単中心性キャッスルマン病の症状は、首や脇の下、鼠径部などに触れることができる、痛みがないリンパ節の腫れです 。これらの腫れは、画像検査などで偶然見つかることが多く、自覚症状がほとんどない場合もあります 。一方、 多中心性キャッスルマン病は全身に影響を及ぼすため、より広範な症状が現れます 。初期症状として、発熱、寝汗、全身の倦怠感、体重減少などの B症状と呼ばれる全身症状がよくみられます 。さらに、複数のリンパ節の腫れに加え、肝臓や脾臓の腫れ(肝脾腫) 、貧血、浮腫、胸水や腹水の貯留、腎機能障害、皮疹などがみられることもあります 。これらの症状は、進行すると命にかかわる状態になることもあるため、早期の診断と治療が重要です 。
キャッスルマン病の検査・診断
キャッスルマン病の確定診断には、リンパ節の生検が不可欠です 。この病気と類似した症状や病理組織像を示す他の病気(悪性リンパ腫、自己免疫疾患、感染症など)を除外するために、徹底的な鑑別診断が行われます。主な検査には、以下のものが含まれます。
1. リンパ節生検: 腫れたリンパ節の一部または全体を採取し、顕微鏡で組織学的特徴(硝子血管型、形質細胞型など)を調べます 。これにより、キャッスルマン病の病型を特定し、悪性リンパ腫など他の病気を除外します 。
2. 血液検査: 貧血、炎症反応(CRPやESRの上昇)、血小板数の異常、低アルブミン血症、多クローン性高ガンマグロブリン血症、臓器障害の有無などを確認します 。
3. 画像検査: CT検査やPET-CT検査で、腫大したリンパ節の数や分布、大きさ、他の臓器への影響などを確認します 。これにより、単中心性キャッスルマン病か多中心性キャッスルマン病かを区別することができます 。
診断は、これらの検査結果を総合的に判断して行われます 。
キャッスルマン病の治療
キャッスルマン病の治療は、病型によって大きく異なります。
・ 単中心性キャッスルマン病: 治療の第一選択は、腫大したリンパ節を完全に外科的に切除することです 。手術はしばしば根治的であり、全身症状がある場合でも改善が期待できます 。切除が難しい場合は、放射線療法や抗IL-6受容体抗体であるトシリズマブ(商品名:アクテムラ)などの薬物療法が検討されます 。
・ 多中心性キャッスルマン病: 中等症から重症の患者さんには、トシリズマブが推奨されます 。これは、炎症の原因となるIL-6の働きを抑える薬で、全身症状や検査異常を劇的に改善させることが示されています 。重症例では、初期治療としてステロイド大量投与との併用が推奨されます 。 ほか、抗CD20抗体であるリツキシマブも有効性が示されていますが2025年8月時点で本邦において保険適用外です。
キャッスルマン病になりやすい人・予防の方法
キャッスルマン病は原因が完全に解明されていないため、なりやすい人や予防法を特定することは難しいです。 しかし、いくつかの傾向が報告されています。
・ 年齢と性別: 単中心性キャッスルマン病は30歳代に多く、小児例も見られ、女性にやや多い傾向があります 。特発性多中心性キャッスルマン病とHHV-8関連多中心性キャッスルマン病は40〜50歳代に多く、男性に多い傾向があります 。
・ 人種・地理的要因: この病気は世界的にまれですが、欧米、中国、韓国からは単中心性キャッスルマン病の報告が多いです。特発性多中心性キャッスルマン病は日本からの報告が多いです。HHV-8関連多中心性キャッスルマン病は白人や黒人の患者さんに多く見られます 。
・ HIV感染: HHV-8関連中心性キャッスルマン病は、HIV感染者に高頻度でみられます 。
現時点では、この病気を予防する確実な方法はありません。しかし、早期発見と適切な治療は重要です。体の不調や、腫れたリンパ節に気づいた場合は、速やかに医療機関を受診し、専門家への相談を検討することが大切です。
参考文献
- 1. van Rhee F, et al: International evidence-based consensus diagnostic and treatment guidelines for unicentric Castleman disease. Blood Adv 2020; 4(23): 6039-6050
- 2. Hoffmann C, et al: The clinical picture of Castleman disease: a systematic review and meta-analysis. Blood Adv 2024; 8(18): 4924-4935
- 3. キャッスルマン病診療ガイドライン 令和2年度初版(キャッスルマン病診療ガイドライン統括委員会、作成ワーキンググループ)




