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井林雄太

監修医師
井林雄太(田川市立病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

急性リンパ性白血病の概要

急性リンパ性白血病(ALL)は、リンパ球という血液の細胞が未熟な段階でがん化する病気です。このがん化した細胞は、骨髄やリンパ節、胸腺、肝臓、脾臓などで無制限に増殖します。骨髄は血液を作る重要な器官ですが、ALL細胞が増えすぎると、正常な血液細胞が作れなくなり、貧血や感染症、出血などの症状が現れます。

ALLは特に子どもに多く見られる病気で、小児がんの中で最も多い種類です。小児がん全体の約95%が急性白血病で、そのうち約70%をALLが占めています。一方、成人では急性骨髄性白血病(AML)の発症が多く、ALLは白血病全体の約20%程度です。ALLは治療が必要な病気ですが、現在では多くの子どもたちが治療によって寛解(病気の症状がほぼ消える状態)に達することができるようになっています。治療には化学療法や放射線療法、場合によっては骨髄移植が用いられます。早期発見と適切な治療が重要です。

急性リンパ性白血病の原因

急性リンパ性白血病(ALL)は、血液の中でB細胞やT細胞と呼ばれる免疫を担当する細胞が未熟な状態でがん化し、骨髄で無制限に増殖する病気です。この病気は、いくつかの遺伝子の変異が積み重なって発症することがわかっています。ALLの発症メカニズムを簡単に説明すると、まず最初に、造血幹細胞(血液を作る元となる細胞)に染色体転座という異常が起こります。この異常により、細胞が必要以上に増えるようになり、正常な細胞に成長する能力が損なわれます。しかし、この段階だけではまだ白血病にはなりません。それに加えて、さらに別の遺伝子変異が起こると、がんの抑制機能が働かなくなり、最終的にALLが発症します。ALLの原因となる遺伝子変異には、生まれつき持っているものと、後天的に発生するものがあります。生まれつきの遺伝子異常には、例えばダウン症候群などがあり、これらの疾患があるとALLのリスクが高くなります。しかし、これらの異常があっても必ずしもALLを発症するわけではありません。一方で、後天的に発生する変異は、放射線や特定の薬剤、ウイルス感染などが原因とされることがありますが、ほとんどの場合、正確な原因を特定するのは難しいです。

急性リンパ性白血病の前兆や初期症状について

急性リンパ性白血病(ALL)の初期症状は、風邪と似ていて、はっきりしないものが多いです。これは、ALL細胞が骨髄で増殖し、正常な血液細胞(白血球、赤血球、血小板など)が減少することで起こります。具体的な症状としては、次のようなものがあります。

発熱
ALLでは、原因不明の熱が出ることがあります。
全身のだるさ
体がだるく、疲れやすくなります。
食欲不振
食べる気がしない、食べてもおいしく感じないことがあります。
腹痛
お腹が痛くなることもあります。

さらに、ALL細胞が骨髄やリンパ節、肝臓、脾臓などに広がると、次のような特有の症状が現れることがあります。
骨や関節の痛み
ALL細胞が骨髄に広がることで、骨や関節が痛くなります。特に小児では、痛みをうまく伝えられず、手を動かさなかったり、歩かなくなったりすることもあります。
出血しやすくなる
血小板が減少するため、体にあざができやすくなったり、鼻血が出やすくなったり、歯茎から出血することがあります。出血が止まりにくいこともあります。
リンパ節の腫れ
ALL細胞がリンパ節に広がることで、首や脇の下、足の付け根などのリンパ節が腫れることがあります。
肝臓や脾臓の腫れ
ALL細胞が肝臓や脾臓に広がることで、これらの臓器が腫れることがあります。

これらの症状はほかの病気でも見られることが多いため、自分でALLかどうかを判断することはできません。
もしこれらの症状が現れた場合は、すぐに内科、血液内科を受診し、医師の診察を受けることが大切です。

急性リンパ性白血病の検査・診断

急性リンパ性白血病(ALL)が疑われる場合、医師は以下のような検査を行います。
血液検査
まず、血液を調べます。ALLがあると、白血球の数が増えたり、正常だったり、逆に減ったりすることがあります。また、貧血や血小板の減少も見られることがあります。この検査では、白血球、赤血球、血小板の数や、LDH、尿酸の値なども調べます。
骨髄検査
血液検査でALLが疑われる場合、確定診断のために骨髄検査を行います。骨髄検査では、骨の中の骨髄液を採取して調べます。顕微鏡で細胞を観察したり、細胞の表面にあるマーカーを検査したり、染色体や遺伝子の異常を確認したりします。ALLと診断するには、骨髄中の芽球(未成熟な白血球)が全体の20%以上である必要があります。特殊な染色を使って、急性骨髄性白血病(AML)との違いを調べることもあります。
髄液検査
ALL細胞が中枢神経(脳や脊髄)に広がっているかを調べるために、髄液検査を行います。これは腰椎穿刺という方法で髄液を採取し、顕微鏡で調べます。中枢神経にALL細胞が入り込んでいる場合、治療方法が変わるため、この検査は重要です。

これらの検査結果をもとに、ALLの診断や病型分類、治療方針が決定されます。

急性リンパ性白血病の治療

ALLの治療では、複数の抗がん剤を組み合わせた「多剤併用化学療法」が標準的な方法です。治療は約3年間にわたり、次の3つの段階に分かれています。

寛解導入療法
まず最初に行う治療で、ビンクリスチン、ステロイド、L-アスパラギナーゼ、アントラサイクリン系薬剤を使って、約4〜6週間かけて行います。この治療の目的は、顕微鏡で白血病細胞が見えなくなるまで、がん細胞を減らすことです。
強化療法
寛解導入療法の後、すぐに始める治療です。L-アスパラギナーゼやアントラサイクリン、大量のメトトレキサートなどを使い、さらにがん細胞を減らします。
維持療法
寛解を維持するために、外来で6-メルカプトプリン(6-MP)とメトトレキサート(MTX)という経口薬を2年以上続けます。場合によっては、ビンクリスチンとステロイドを定期的に使うこともあります。

また、ALLでは、中枢神経(脳や脊髄)にがん細胞が広がることがあるため、予防としてメトトレキサートを髄腔内(脊髄の周りの空間)に注入する治療も行います。小児のALLでは、治療成績が良くなっており、90%以上の子どもたちが長期生存できるようになっています。これは、治療方法の進歩や、治療の効果を正確に評価できるようになったこと、感染症対策の向上などが要因です。

一方、成人のALLでは、特にフィラデルフィア染色体という遺伝子異常がある場合、治療成績が子どもほど良くありません。しかし、小児の治療方法を成人に適用することで、治療成績が改善することも報告されています。この治療法は「pediatric inspired-therapy(小児型治療法)」と呼ばれています。また、より強力な治療として、造血幹細胞移植が高リスクな症例や再発の早い症例で行われることがあります。ALLの治療は非常に専門的であるため、専門の医療施設で行うことが推奨されています。

急性リンパ性白血病になりやすい人・予防の方法

急性リンパ性白血病(ALL)は、特定の人種や年齢層において発症リスクが高くなる傾向があり、遺伝的な要因や特定の遺伝子変異も関連しています。しかし、ALLの予防法はまだ確立されていないため、発症リスクを高める可能性がある要因を避けることが重要です。

なりやすい人

年齢
ALLは、特に小児期、特に3〜5歳に発症のピークがあります。成人では、50歳代に発症が増える傾向があります。
人種
米国では、ヒスパニック系の人々がアフリカ系アメリカ人よりもALLの発症率が高いと報告されています。日本人では、100万人当たり30〜40人程度の発症があると推計されています。
遺伝的要因
ダウン症候群などの特定の疾患があると、ALLのリスクが高まります。ただし、遺伝的にALLになりやすい異常があっても、必ずしも発症するわけではなく、家族歴が不明瞭な場合もあります。
染色体異常や遺伝子変異
ALLの多くは、腫瘍細胞にのみ現れる体細胞遺伝子変異が原因です。例えば、フィラデルフィア染色体陽性やMLL遺伝子再構成、低二倍体、ETP-ALLなどは、予後が悪いことが知られています。

予防の方法

ALLの予防法は現在確立されていませんが、以下の要因が体細胞の遺伝子変異を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。

  • 放射線
  • 特定の薬剤
  • ウイルス感染症


関連する病気

  • 血小板減少症
  • 汎血球減少症
  • 中枢神経浸潤
  • 骨痛
  • リンパ節腫大
  • 腫瘍崩壊症候群

参考文献

  • 一般社団法人日本小児血液・がん学会・編:小児白血病・リンパ腫診療ガイドライン 2016 年版.金原出版
  • Berry DA, Zhou S, Higley H, et al: Association of minimal residual disease with clinical outcome in pediatric and adult acute lymphoblastic leukemia: A meta-analysis. JAMA Oncol 3(7): e170580, 2017. doi:10.1001/jamaoncol.2017.0580
  • Lee DW, Kochenderfer JN, Stetler-Stevenson M, et al: T cells expressing CD19 chimeric antigen receptors for acute lymphoblastic leukemia in children and young adults: a phase 1 dose-escalation trial. Lancet385(9967): 517–528, 2015.

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