監修医師:
高宮 新之介(医師)
急性大動脈解離の概要
急性大動脈解離は、大動脈の内膜に亀裂が生じ、血液が亀裂に流れ込むことで発生する重篤な疾患です。この状態は、血管壁が内側と外側の層に分かれる「解離」を引き起こし、結果として血液の流れが妨げられたり、血管が破裂したりする危険性があります。
急性大動脈解離は、主にスタンフォード分類に基づいてA型とB型に分けられます。A型は上行大動脈に解離が及ぶもので、緊急手術が必要です。放置すると、心タンポナーデや心筋梗塞などの致命的な合併症を引き起こす可能性があり、死亡に至ることがあります。一方、B型は上行大動脈には影響がなく、通常は血圧降下療法や安静によって管理されますが、場合によっては手術が必要になることもあります。大動脈解離は、血管内膜に亀裂が生じることで起こり、痛みは想像を絶するほど強いと言われています。大動脈解離の発症が多い年齢は男女とも70代とされていますが、40代や50代で発症することも稀ではありません。
急性大動脈解離は冬場や日中(特に午前中)に多く発生する傾向があります。発症後48時間以内に約半数の患者さんが死亡する可能性があると言われており、急性大動脈解離が疑われた場合には、ただちに救急車を呼ぶ必要があります。
急性大動脈解離の原因
急性大動脈解離は、主に以下の要因によって引き起こされます。
高血圧
高血圧は急性大動脈解離の最も重要なリスク因子です。血圧が高いと、大動脈の壁にかかる圧力が増加し、内膜に亀裂が生じやすくなります。大動脈解離を発症した患者さんの多くが、高血圧を抱えています。
動脈硬化
動脈硬化は、血管の内壁が厚くなり、弾力性を失う状態です。この状態になると、大動脈の壁が弱くなり、解離を引き起こすリスクが高まります。動脈硬化は加齢や生活習慣によって進行するため、高齢者に多く見られ、心血管疾患のリスクを増大させます。
喫煙
喫煙は動脈硬化を促進し、血管の健康を損なう要因です。喫煙者は非喫煙者に比べて大動脈解離のリスクが高いとされています。タバコに含まれる有害物質が血管にダメージを与え、解離の発生を助長すると言われています。
ストレス
精神的および身体的なストレスも急性大動脈解離のリスクを高める要因と言われています。ストレスは血圧を上昇させることがあり、これが解離を引き起こす一因となります。また、ストレスによって心拍数や心臓への負担も増加します。
糖尿病
糖尿病は血管に悪影響を及ぼし、動脈硬化を進行させる要因です。糖尿病患者は心血管疾患のリスクが高く、急性大動脈解離もその1つです。
遺伝的要因
マルファン症候群やエーラス・ダンロス症候群などの遺伝性疾患は、大動脈の壁を弱くし、解離のリスクを増加させます。これらの疾患は細胞の結合組織に影響を与え、大動脈の構造的な安定性を損なうと言われています。
急性大動脈解離の前兆や初期症状について
急性大動脈解離は、突然発症する危険な疾患であり、多くの場合前兆がないことが特徴です。しかし、一部の症例では軽い胸痛や背中の痛みなどの前駆症状が報告されているため、異常を感じた場合は早急に医療機関を受診することが重要です。
急性大動脈解離の最も顕著な初期症状は、突然の激しい胸痛または背中の痛みです。この痛みは「引き裂かれたような痛み」や「杭で刺されたような痛み」と表現されることがあり、耐え難いほど強い痛みだと言われています。通常、痛みは胸部から始まり、解離が進行するにつれて背中や腹部へと移動することがあります。また、急性大動脈解離は全身を循環するはずの血液が解離した部分に流れ込むことで血流障害を引き起こすため、ほかの症状も現れることがあります。
意識障害
脳への血流が遮断されることで意識を失うことがあります。
呼吸困難
心臓周囲に出血が起こると心タンポナーデを引き起こし、呼吸困難や胸部圧迫感を感じることがあります。
血圧の左右差
左右の上肢で血圧の差が生じる可能性があります。心臓から拍出された血液が解離した部分に流れ込むことが原因で、左右の血圧に差が生じます。
麻痺
手足への血流が減少することで麻痺やしびれが生じることがあります。
このように、急性大動脈解離を発症した場合には、危険な状態に陥ります。そのため、初期症状には注意が必要です。何の前触れもなく突然発症するため、早期の認識と迅速な対応が生存率を大きく左右します。ただちに心臓血管外科、循環器科を受診するようにしましょう。
急性大動脈解離の検査・診断
急性大動脈解離の検査には、下記のような検査方法があり、迅速かつ正確な診断を行うために重要です。
胸部レントゲン検査
レントゲンはX線を用いて行われる画像検査です。急性大動脈解離の初期診断として行われることが多く、大動脈解離が疑われる場合には、大動脈陰影の拡大や上縦隔の拡大が見られることがあります。これは初期診断の一つとして重要です。
心エコー検査
心エコー検査は、超音波を用いて、心臓の動きや心臓周囲の状態を確認する検査です。緊急時には、ベッドサイドで比較的容易に実施できる利点があります。特に、上行大動脈内に波状に動くフラップ(偽腔と真腔を隔てる血管壁)が認められる場合があり、心筋梗塞や心タンポナーデなどの合併症の有無を確認するのに役立ちます。
CT検査
造影CT検査は急性大動脈解離の診断において重要な検査です。この検査では造影剤を使用してX線で断層撮影を行い、大動脈解離の有無やその形態、進展具合を詳細に評価します。また、大動脈解離のエントリー(流入口)やリエントリー(再流入口)の位置も特定でき、治療方針を決定するための重要な検査です。
MRI(磁気共鳴画像)検査
MRIは非侵襲的であり、さまざまな断面で鮮明な画像を提供し、解離の範囲や状態を把握するのに役立ちます。ただし、MRI検査は撮影に時間を要するために、患者さんの状態に合わせて検査を検討する必要があります。
急性大動脈解離は危険な状態であり、迅速な診断と治療が求められます。特に胸部X線や心エコーで異常が見つかった場合には、すぐに造影CT検査を行うことが推奨されます。これにより、適切な治療法(手術または薬物治療)を迅速に決定することが可能になります。急性大動脈解離は放置すると致命的な結果を招くため、症状が現れた際にはすぐに医療機関を受診することが重要です。
急性大動脈解離の治療
急性大動脈解離の治療法は、そのタイプ(スタンフォードA型またはB型)によって異なります。
A型解離
上行大動脈に解離がある場合は緊急手術が必要です。手術では人工血管置換術を行い、損傷した部分を取り除いて人工血管で再建します。解離を起こしている部位によって術式が異なります。上行大動脈に亀裂を認める場合は上行置換、弓部大動脈小湾側に認める場合は上行半弓部置換、弓部三分枝近傍に認める場合は上行弓部置換、遠位弓部以降に認める場合は上行置換術が行われることが一般的です。
B型解離
上行大動脈に解離がない場合は、まず薬物療法で血圧を管理しながら、安静を保ちつつ経過をみる保存的治療を行うことが一般的です。破裂した場合や、破裂のリスクが高い場合は、人工血管置換術やステントグラフト内挿術が行われます。
ステントグラフト内挿術について
近年では、ステントグラフト内挿術は増えてきています。足の付け根から血管内にカテーテルを挿入し、解離を起こしている部位にステントを留置します。この方法は人工血管置換術に比べ、胸や腹を手術で大きく開ける必要がないため体への負担が小さいと言えます。また、以前に比べステントの性能や医療技術の進歩によって、ステントグラフト内挿術の適応が拡大されています。
急性大動脈解離はその発症後48時間以内に死亡率が高まるため、迅速な診断と治療が不可欠です。解離のタイプや患者さんの状態によって治療方法は異なりますが、いずれの場合も高度な医療技術と迅速な対応が求められます。
急性大動脈解離になりやすい人・予防の方法
急性大動脈解離になりやすい人
高血圧
高血圧は最も重要な危険因子と言われています。適切な血圧管理を行うことが予防において重要になります。
遺伝的要因
マルファン症候群など遺伝的疾患を持つ人々は特に注意が必要です。
予防の方法
生活習慣の改善
食事管理、禁煙、適度な運動など健康的な生活習慣を維持すること。
定期的な健康診断
血圧測定やコレステロール値チェック、糖尿病など、定期的に健康状態を確認し生活習慣病を予防・管理することが重要です。
ストレス管理
ストレスを軽減するための方法を見つけることも重要です。
関連する病気
- 高血圧症
- マルファン症候群
- エーラス・ダンロス症候群
- 動脈硬化
- 大動脈瘤
- 巨細胞性動脈炎
- 高安動脈炎
- 二尖大動脈弁