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井林雄太

監修医師
井林雄太(田川市立病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

慢性骨髄性白血病の概要

慢性骨髄性白血病は血液のがんの一種です。造血幹細胞に異常が起きることで、血球細胞が無制限に増殖します。
骨髄で作られる血球細胞は、骨髄系の細胞とリンパ系の細胞に大別されます。慢性骨髄性白血病では、骨髄系の細胞である赤血球血小板、そして白血球のうち顆粒球単球が増えるのが特徴です。それぞれの成長過程の細胞も増えて、血液中に現れます。年間で成人約1,000人、小児約20人の患者さんが、新たに慢性骨髄性白血病と診断されます。小児の患者さんでも、後述する遺伝子異常が成人と同じであることから、成人の治療に準じた治療が行われます。

急性骨髄性白血病との違い

急性骨髄性白血病と慢性骨髄性白血病では、白血病細胞の性質が異なります。

急性骨髄性白血病の場合、白血病細胞には分化・成熟する能力がないため、血球の赤ちゃんである芽球が大量に増えます。芽球が増えすぎることで、赤血球や白血球、血小板が減り、急激に症状が現れます。治療も急を要します。

慢性骨髄性白血病の場合、異常の起きた細胞にも分化・成熟する能力があり、正常な血球とほぼ同じように働きます。血球数は次第に増えるものの、最初の3~5年ほどは、貧血や発熱などの症状は乏しいことが多い傾向です。この時期を慢性期といいます。 白血病細胞が増殖し続ける過程で分化・成熟する能力が失われてくると、移行期へ進行します。(3〜9ヶ月持続)
さらに芽球が増加すれば、急性白血病に似た症状が現れる急性転化期に至ります。(約3〜6ヶ月持続)

慢性骨髄性白血病患者さんの約85%は、健康診断などをきっかけに慢性期の段階で診断されています。

慢性骨髄性白血病の治療目標は、以前は急性転化期への移行を防ぐことでした。ところが今は、チロシンキナーゼ阻害薬という薬により、多くの患者さんが安定した状態を長期間保てるようになりました。このような患者さんの一部は薬を中止しても安定状態を維持できると報告されており、無治療寛解が新しい治療目標となっています。現在も臨床研究が行われ、薬の中止が可能な条件や、中止後の定期的な経過観察について慎重にデータを集めています。

慢性骨髄性白血病の原因

慢性骨髄性白血病の原因は、造血幹細胞の突然変異により、白血病細胞を増殖させるシグナルが出続けることです。この場合の突然変異とは、造血幹細胞内の染色体が組み換わってフィラデルフィア染色体ができることを指します。
染色体が組み変わることにより、別々の位置にあったBCRという遺伝子と、ABL1という遺伝子がくっついてBCR-ABL1融合遺伝子が生まれます。この融合遺伝子から作られるBCR-ABL1チロシンキナーゼというタンパク質が、白血病細胞を増殖させるシグナルを出し続けてしまうのです。
この突然変異は遺伝するものではなく、偶然に発生するものです。

慢性骨髄性白血病の前兆や初期症状について

慢性骨髄性白血病は、初期(慢性期)には自覚症状がほとんどありません健康診断で白血球の異常な増加や脾臓の腫れを指摘され、発見につながることも多いようです。

気付かないまま移行期急性転化期に進むと、以下のような急性白血病に似た症状が現れるかもしれません。

  • 息切れや動悸(貧血の症状)
  • 出血傾向(鼻血が出やすい、歯茎から出血しやすいなど)
  • 倦怠感
  • 発熱
  • おなかの張り(脾臓や肝臓が腫れるため)

これらの症状は、風邪をはじめとするさまざまな病気で起きる可能性があります。心配な症状があれば、まずはかかりつけの内科を受診するとよいでしょう。
診察の結果、白血病の疑いがあると判断されれば血液内科を紹介されるでしょう。

慢性骨髄性白血病の検査・診断

慢性骨髄性白血病の診断には、血液検査および骨髄検査を行います。

血液検査(血算、血液像)

血算と血液像は、慢性骨髄性白血病の治療において身近な検査です。血算では血液細胞の数を調べます。血液像とは、血液細胞を専用の色素で染めて顕微鏡で観察し、形態を調べる検査です。 治療開始前に調べるほか、治療開始後も1〜2週間ごとに検査します。

骨髄検査

骨髄検査は、慢性骨髄性白血病の診断に欠かせない検査です。骨髄細胞の染色体を検査し、フィラデルフィア染色体の有無と、さらなる染色体異常がないか確認します。
骨髄組織の採取方法は、腰の骨に針を刺す方法が一般的です。骨髄検査は、治療効果が思わしくなかったり、悪化を疑ったりしたときには再度行います。

血液検査(RT-PCR)

RT-PCR検査は、慢性骨髄性白血病の治療効果を判定するために行います。BCR-ABL1チロシンキナーゼが作られる際の型枠であるmRNAの量を、国際指標に沿って調べる検査です。
最初は3ヶ月ごとに調べますが、治療効果が十分に現れれば6ヶ月に1回となるかもしれません。

慢性骨髄性白血病の治療

慢性骨髄性白血病の治療は、チロシンキナーゼ阻害薬の内服が基本です。BCR-ABL1チロシンキナーゼを選択的にブロックすることで、白血病細胞を増やす指令を抑える効果を期待します。
本章では、チロシンキナーゼ阻害薬をTKIと略して説明していきます。

慢性期の治療

慢性期の段階で診断された場合、最初に選択可能なのは以下の4剤です。

  • 第一世代TKI:イマチニブ
  • 第二世代TKI:ニロチニブ/ダサチニブ/ボスチニブ

第二世代TKIは、効果が優れている一方、長期にわたって服用した場合に心血管系事象の発生頻度が高いとされます。ほかにも4剤それぞれ副作用の特徴が異なるため、治療開始前のリスク判定結果や、患者さんの合併症などを考慮して選択します。

効果が思わしくない場合や、副作用などで継続できない場合は、薬の変更を検討します。この場合は以下が候補となります。

まだ使用していない第二世代TKI

  • 第三世代TKI:ポナチニブ
  • STAMP阻害薬:アシミニブ(2剤以上のTKIに抵抗性・不耐容の場合)

STAMP阻害薬とは、TKIとは異なる部分に結合してBCR-ABL1チロシンキナーゼの活性を鎮める薬です。2種類以上のTKIで効果が出ない場合、もしくは副作用などで使えなかった場合に使用を検討します。

また、BCR-ABL1チロシンキナーゼにT315I変異という突然変異が現れた場合は、第二世代TKIが効きません。このケースでは、第三世代TKIであるポナチニブが選択肢となります。
複数のTKIおよびアシミニブを使用しても治療がうまくいかなければ、造血幹細胞移植を考慮します。
一方で、薬が効いて長期間安定していれば、薬の減量や中止を検討することも可能です。薬を中止できた場合も、定期的な血液検査は欠かさず行います。

進行期の治療

進行期(移行期~急性転化期)の段階で診断された場合や、治療中に進行期(移行期~急性転化期)に進んだ場合は、まず内服薬や化学療法によって慢性期の状態を目指します。そして造血幹細胞移植の時期を検討します。
内服薬は慢性期と同じくTKIが基本です。急性転化期の段階で診断された場合は、最初から効果の高い第二世代を用いるのが望ましいとされます。

化学療法を併用することもあります。増殖している細胞の種類によって、急性骨髄性白血病または急性リンパ性白血病の化学療法に準じた点滴薬を使用します。多彩な副作用が出るため、副作用に対する支持療法も併用しながら行います。

造血幹細胞移植は、進行期では重要な選択肢のひとつです。慢性骨髄性白血病において、治癒を目指せる唯一の治療法となります。
進行期では、内服薬による治療で慢性期に戻れたとしても、短い期間で進行期に戻るケースが珍しくありません。最初から移植も視野に入れて治療を進めることが多いでしょう。

慢性骨髄性白血病になりやすい人・予防の方法

慢性骨髄性白血病のリスクは、以下の場合に上がるとの報告があります。

  • 喫煙(1日20本以上)
  • 肥満(BMI30以上)
  • ベンゼンやホルムアルデヒドへの職業暴露
  • 高線量の放射線への被曝

禁煙および体重のコントロールにより、発症予防につながるかもしれません。しかし多くのケースは原因不明です。予防方法も不明であるため、早期発見が大切となります。定期的に健康診断を受け、白血球数の異常な増加に気付くことができれば、慢性骨髄性白血病を早期に発見するヒントとなります。
早く治療を開始できれば、内服薬で進行を抑えて暮らし続けることもじゅうぶん期待できます。


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