監修医師:
鎌田 百合(医師)
多血症の概要
多血症は、血液中の赤血球の数が異常に増加する状態をいいます。
赤血球が何らかの原因で増加すると血液の粘稠度が高くなり、血液がドロドロの状態になります。
通常無症状ですが、粘稠度がとても高くなると血液の流れが悪くなり、頭痛、めまい、だるさなどが起こります。
さらに症状が進行すると血管内に血の塊である血栓ができ、血管を詰まらせることがあります。
多血症は、大まかに以下の3種類に分類されます。
真性多血症
二次性多血症
相対的多血症
この記事では、多血症の原因、検査方法、治療について詳しく説明します。
多血症の原因
多血症には主に3つに分類されます。
真性多血症
真性多血症はJAK2という遺伝子異常が原因です。
JAK2のV617F変異(617番目のアミノ酸のバリンがフェニルアラニンに置き換わる変異)がおよそ95%の患者さんにみられるため、この遺伝子異常の有無が診断にたいへん重要です。
血液のもとである造血幹細胞にJAK2遺伝子変異が起こることで、赤血球が過剰に作られるようになります。
すると赤血球数が増え血液の粘稠度が増し、血管内に血栓ができやすくなります。
その結果、脳梗塞、心筋梗塞、下肢静脈血栓症などのリスクが高まります。
診断基準はWHO分類改定第4版(2017年)では以下のように定められています。
真性多血症の診断基準
大基準
1. ヘモグロビン値:男性>16.5g/dL、女性>16.0g/dL
または
ヘマトクリット値:男性>49%、女性>48%
または
循環赤血球量の増加
2. 骨髄生検で過形成を示し、赤血球系、顆粒球系、巨核球系の増殖、大小さまざまな巨核球を認める
3. JAK2 V617F変異またはJAK2 exon12変異を認める
小基準
血清エリスロポエチンの低下
大基準3つをすべて満たすか、大基準1、2と小基準を満たす場合に真性多血症と診断する。
二次性多血症
身体の組織で酸素不足が生じると腎臓で作られるエリスロポエチンという造血因子が増加し、酸素を運ぶための赤血球の産生を促します。
その結果、赤血球数が増加します。
喫煙習慣や肺の病気、睡眠時無呼吸症候群などで身体に十分な酸素を取り込めない状態が原因となります。
また、心不全などの心疾患でも身体に酸素を運べなくなるため、多血症の原因となります。
また、腎細胞がん、肝細胞がんなどの腫瘍がエリスロポエチンを産生し多血症となる場合もあります。
このような腫瘍を、エリスロポエチン産生腫瘍とよびます。
相対的多血症
赤血球数が増えているわけではなく、血液の液体成分が少なくなることで見かけ上濃度が上昇したようにみえることがあります。
水分摂取量不足、下痢、嘔吐、利尿剤の使用などで身体の水分が減ることで多血症のようにみえることがあります。
点滴や飲水などで脱水の補正を行うことで改善します。
また、ストレスが引き金となって起こることもあり、ストレス性多血症と呼ばれることもあります。
中年男性に発症することが多く、高血圧、糖尿病などの生活習慣病や肥満を合併していることが多い傾向にあります。
多血症の前兆や初期症状について
多血症は軽症であれば症状が起こることは少なく、健診で偶然発見される場合も多い病気です。
進行すると以下のようなさまざまな症状が出現する場合があります。
疲労感、倦怠感
多血症が進行すると血液の粘度が高くなり、血液の流れが悪くなることで疲労感や倦怠感が出現します。
頭痛、めまい
血液の粘稠度が高くなることで脳への血流が不十分になり、頭痛やめまいが生じることがあります。
集中力の低下を起こすこともあります。
皮膚の赤み、かゆみ
赤血球数が増加することで皮膚の赤みが増し、赤ら顔になることがあります。
四肢のしびれ、痛み
手足の末梢の血流が悪くなることでしびれや痛みを感じることがあります。
腹部膨満感
真性多血症の場合、脾臓が腫れることがあります。
脾臓が圧迫することで腹部膨満感を起こすことがあります。
血栓症
血液の粘稠度が増すことで体内で血栓が形成されます。
血栓が脳の血管に詰まると脳梗塞、心臓の冠動脈という血管に詰まると心筋梗塞、足の静脈に詰まると下肢静脈血栓症を発症します。
健康診断で多血症を指摘された場合は、原因を調べる必要があるため血液内科を受診してください。
多血症の検査・診断
多血症を指摘された場合は、以下のような問診やさまざまな検査を行い診断をします。
問診
脱水の有無の確認を行い、相対的多血症かどうかを確認します。
二次性多血症の原因になりうる肺の病気や睡眠時無呼吸症候群、心疾患などの有無を検索します。
また、喫煙歴を確認します。
血液検査
白血球、血小板といった赤血球以外の血液の細胞が増えているかを確認します。
また、必要に応じてエリスロポエチンの値も測定します。
真性多血症が疑われる場合はJAK2遺伝子変異の有無を調べます。
骨髄検査
真性多血症が疑われる場合は、骨髄での造血を調べるため骨髄穿刺や骨髄生検を行います。
画像検査
肝細胞がんや腎細胞がんが二次性多血症の原因となっている場合もあります。
そのため、CTやMRI検査でがんの検索を行う場合があります。
多血症の治療
多血症は、原因によって以下のように治療を行います。
真性多血症
真性多血症と診断された場合は、血栓症の予防が最も重要とされています。
血栓症のリスク分類を行い、低リスクの場合は血液を抜く瀉血に加え低用量アスピリン療法で治療を行います。
年齢60歳以上である、または血栓症の既往がある場合は血栓症のリスクが高い、高リスクに分類され、低用量アスピリン療法、瀉血に加えて薬で赤血球を減らす細胞減少療法を行います。
瀉血の目標は、ヘマトクリット値を45%未満に維持することを目標に、血液検査を定期的に確認しながら行います。
喫煙、睡眠時無呼吸症候群、高血圧、高脂血症などの血栓症のリスクがある場合は同時に治療を行います。
二次性多血症
二次性多血症は、原因に対して治療を行います。
肺や心臓に原因がある場合は、その治療を行うことで多血症の改善が期待できます。
睡眠時無呼吸症候群が原因である場合は、就寝時にCPAPを使用するなど行い睡眠時の酸素低下を防止します。
喫煙歴がある場合は、禁煙することで改善が期待できるため禁煙を行います。
エリスロポエチン産生腫瘍が原因である場合は、外科的切除により改善する場合があります。
相対的多血症
脱水が疑われる場合は点滴を行ったり、飲水を促したりすることで治療を行います。
ストレス性多血症が疑われる場合はストレス解消を心がけます。
高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病がある場合は治療を行うことで多血症の改善が期待できます。
多血症になりやすい人・予防の方法
肺や心臓の病気がある患者さん、生活習慣病を持つ患者さんは多血症になりやすいため適切な予防を行いましょう。
喫煙をしている場合は多血症の原因となるため、禁煙をしましょう。
睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合、適切な治療を行いましょう。
肥満は睡眠時無呼吸症候群の原因となるだけでなく生活習慣病のリスクを高めるため、減量を行ってください。
高血圧、糖尿病、高脂血症などの病気がある患者さんは治療をしましょう。
ストレスがある場合はストレス解消できるよう気分転換やリラックスをするようにしましょう。
血液検査で多血症を指摘された場合は、血液内科を受診し医師に相談するようにしてください。