監修医師:
鎌田 百合(医師)
急性骨髄性白血病の概要
急性骨髄性白血病は、血液の細胞ががん化する病気です。
骨の中にある骨髄という場所で血液はつくられます。
ここにある造血幹細胞は、血液の細胞のもとになる細胞です。
この細胞は骨髄系幹細胞、リンパ系幹細胞に分かれます。
骨髄系幹細胞は赤血球、白血球(好中球や単球)、血小板がつくられ、リンパ系幹細胞からはリンパ球(B細胞、T細胞、NK細胞など)がつくられます。
白血球になる前の未熟な段階で異常が起こり、細胞が正常に分化できずがん化し無制限に増殖する病気を白血病といいます。
このがん化した白血病細胞のことを芽球と呼びます。
芽球が増え続けた血液を採取し置いておくと、白血球が白い層状にみえるようになります。
このため白い血の病気、白血病と呼ばれるようになりました。
この記事では、急性骨髄性白血病の原因、検査方法、治療について詳しく説明します。
急性骨髄性白血病の原因
急性骨髄性白血病の原因はよくわかっていません。
ほかのがんと同じように、細胞分裂する過程でなんらかの遺伝子異常が加わり急性骨髄性白血病が発生すると考えられています。
また、骨髄異形成症候群、骨髄線維症などの血液疾患がある場合、ときに急性骨髄性白血病に進展することがあるとされています。
急性骨髄性白血病の前兆や初期症状について
芽球が増えることで骨髄で正常な細胞をつくることができなくなるため、血液中の細胞である白血球数、赤血球数、血小板数が低下し、そのため以下のようなさまざまな症状が現れます。
起こりやすい症状
発熱
白血球は体の中に入った細菌やウイルスを排除する働きがあります。
白血球が減少すると体の中に細菌が入った場合に排除することができなくなります。そのため、感染症により高熱を出すことがあります。
息切れ、動悸
赤血球は体に酸素を運ぶ細胞です。赤血球が減ることで貧血症状が出現します。
十分な量の酸素を全身に運ぶことができなくなるため、少しの動作ですぐ息切れを起こすようになります。
また、血液が薄いため心臓が動いて賄おうとして、動悸が出現するようになります。
出血
血小板は出血したときに止血するかさぶたの働きがあります。
血小板が減少すると出血しやすくなります。
鼻血が止まりにくくなる、歯を磨いていたら歯肉からの出血が止まりにくくなる、ぶつけていないのに皮膚にあざができやすくなるという症状が出現します。
まれに起こる症状
芽球は体のあらゆる場所に広がります。そのため、まれですが以下のような症状が出ることもあります。
頭痛
頭蓋内などの中枢神経に芽球が浸潤すると頭痛が生じることがあります。
骨痛
骨髄中で芽球が著増し骨髄内の圧が高まると、骨痛が出現することがあります。
特に造血の盛んな腰部の痛みが出現することがあります。
急性骨髄性白血病は血液内科での治療が必要です。
しかし、さまざまな症状が出るため急性骨髄性白血病をいきなり疑うことはたいへん難しい病気です。そのため、発熱が続く、動機や息切れがある、出血が止まりにくいといった症状が続く場合は内科を受診してください。
急性骨髄性白血病の検査・診断
検査
急性骨髄性白血病を疑った場合は、血液を作っている骨髄の状態を調べるため骨髄検査(骨髄穿刺・骨髄生検)を行います。
一般的には腸骨という腰の骨に針を刺し、骨髄を採取します。
骨髄の細胞の形態を顕微鏡で詳細に観察し、芽球の数や割合を調べます。
また、染色体、遺伝子、表面マーカー(芽球の表面抗原)の検査も行います。
急性骨髄性白血病は遺伝子検査や染色体検査が治療方針に大きく関わるため、とても大切な検査です。
診断
血液は全身を巡るため、芽球は全身に広がります。そのためステージという分類は使わず、病型分類を行います。
FAB分類とWHO分類の2つがあり、それぞれ以下のような特徴があります。
FAB分類
どの分化段階の細胞ががん化したかにより、M0~7の8種類に分類されます。
顕微鏡による肉眼的観察で分類され、1970年代から使用されている古典的な分類方法です。
FAB分類では、骨髄中の芽球比率が30%以上の場合、急性骨髄性白血病と診断されます。
WHO分類
おもに遺伝子による分類で、おおきく7つの分類があります。
近年は遺伝子異常によって予後が変わり治療戦略が異なることから、FAB分類よりWHO分類のほうが重要視されることが増えています。
WHO分類では、骨髄中の芽球比率が20%以上の場合、急性骨髄性白血病と診断されます。
ただし、急性骨髄性白血病に特徴的な遺伝子異常がある場合は20%未満でも診断が可能です。
急性骨髄性白血病の治療
急性骨髄性白血病には、さまざまな治療法が存在します。
急速に進行する病気のため、早急な治療が必要になることがあります。
抗がん剤治療
抗がん剤による化学療法を行います。急性骨髄性白血病の分類や年齢、合併症などに応じて細胞障害性抗がん剤や分子標的薬を組み合わせて複数回用いて治療を行います。
通常の治療の流れは、まず寛解導入療法を行います。
寛解導入療法で完全寛解(骨髄中の芽球が5%以下になること)を達成した場合、地固め療法を複数回行います。これによって芽球をさらに減らします。
少量の内服抗がん剤による維持療法が行われる場合もあります。
完全寛解が維持できれば治療を終了し経過観察を行います。
寛解とは、検査でがんがみつからない状態を指します。
遺伝子検査で検出できなくとも芽球が若干残存している可能性があるため、完治とは異なる概念です。
白血病の治療目標は完全寛解を維持することです。
完全寛解には、以下の2種類があります。
血液学的完全寛解
血液中に芽球が認められず、骨髄芽球が5%未満
分子遺伝学的完全寛解
PCR法で検出できない
分子遺伝学的完全寛解のほうが、より芽球が少ない状態です。
造血幹細胞移植
治療中に再発する場合や十分な効果が得られず寛解に至らない場合には、造血幹細胞移植が行われることもあります。
しかし造血幹細胞移植はとても強力な治療のため、体が治療に耐えられない場合もあります。
年齢や合併症などの全身状態をよく調べ、治療のメリットがデメリットを上回ると判断される場合に行われます。
分子標的薬
特徴的な遺伝子異常がある場合はそれに対する分子標的薬を用いて治療を行う場合があります。
たとえば、FLT3-ITD変異という変異があった場合、FLT3阻害薬を使用し治療を行います。
近年分子標的薬の発展が著しく、さまざまな薬が開発されています。
ビタミンA誘導体
急性前骨髄球性白血病は、急性骨髄性白血病の中でも特徴的な病気です。
ビタミンA誘導体であるオールトランス型レチノイン酸が著効します。細胞障害性抗がん剤と組み合わせることによって分化誘導療法を行います。
以前は急性骨髄性白血病の中でも出血を起こしやすく最も予後不良な白血病でしたが、この特効薬が発見されたことで急激に生命予後が改善しました。
急性骨髄性白血病になりやすい人・予防の方法
急性骨髄球性白血病は誰にでも発症しうる病気です。
そのため特別な予防法はありません。
しかしながらひとたび発症すると急激に病状が進行するため、早めの診断と治療が必要です。
発熱が続く、出血が続くなどといった症状が出現する場合は、内科を受診し医師に相談するようにしてください。