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鎌田 百合

監修医師
鎌田 百合(医師)

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千葉大学医学部卒業。血液内科を専門とし、貧血から血液悪性腫瘍まで幅広く診療。大学病院をはじめとした県内数多くの病院で多数の研修を積んだ経験を活かし、現在は医療法人鎗田病院に勤務。プライマリケアに注力し、内科・血液内科医として地域に根ざした医療を行っている。血液内科専門医、内科認定医。

血友病の概要

血友病は、出血を止める凝固因子というタンパク質がうまく働かなくなることで出血が止まりにくくなる病気です。
血が固まるには、血管、血小板、凝固因子の3つの因子が協調して作用することが必要で、これにより止血を行います。
出血すると、まずは血管が収縮して傷口を小さくします。さらに、血小板という小さな細胞がたくさん集まって傷口をふさぎます。
その血小板の隙間を埋めて強固にする糊の役割を果たすのが凝固因子です。
凝固因子は第Ⅰ〜ⅩⅢの12種類(第Ⅵ因子は欠番)が存在し、それらが連鎖反応のように順番に反応し、最終的にフィブリンという糊を作り血小板を強固に補強し止血を行います。
血友病患者さんは、この凝固因子の一部が欠ける、もしくは正常に機能しないため、止血異常をきたします。
第Ⅷ因子が欠乏、もしくは機能低下しているものを血友病A、第Ⅸ因子が欠乏、もしくは機能低下しているものを血友病Bとよびます。
日本の血友病患者数は、血友病Aが約5000人、血友病Bが約1000人とたいへんまれな疾患です。
この記事では、血友病の原因、検査方法、治療について詳しく説明します。

血友病の原因

血友病は先天性血友病と後天性血友病があり、それぞれ別の原因で発症します。

先天性血友病

一般的に血友病と呼ぶとき、先天性血友病のことを指します。
そのため、本記事でも先天性血友病のことを血友病と記載します。
血友病Aは第Ⅷ因子血友病Bは第Ⅸ因子の異常です。
第Ⅷ、第Ⅸ因子は、性染色体であるX染色体上に存在します。
男性はXY、女性はXX染色体を持ちます。
男性はX染色体が1つのため、遺伝子変異があると発症します。
女性はX染色体を2つ持つため、1つに遺伝子変異があっても正常なX染色体で凝固因子を作ることができます。
そのため、女性が血友病を発症することは基本的にありません。
女性がX染色体の1つに血友病の遺伝子変異を持つ場合、これを保因者と呼びます。
保因者は、自身は血友病を発症しなくても、遺伝子変異をもつX染色体が子どもに遺伝することで、子どもが血友病や保因者になる可能性があります。

後天性血友病

後天性血友病は、何らかの自己免疫的なメカニズムで血液凝固因子に対する自己抗体が産生される病気です。
自己抗体により体で作られた凝固因子が破壊され、凝固反応が阻害されることで出血が止まりにくくなります
後天性血友病の出血は、広範囲で重篤になりやすいとされています。
先天性血友病とは異なり関節内出血はまれで、皮下出血、筋肉内出血が多いとされています。
また、高齢者に多いことも特徴です。
後天性血友病が疑われる場合、第Ⅷ因子活性に加えて第Ⅷインヒビターを測定し診断を行います。

血友病の前兆や初期症状について

ここからは先天性血友病について説明します。
凝固因子が軽度の低下にとどまる場合は、手術前の検査などで行われる血液の凝固能検査で異常を指摘され発見されることもあります。
多くの場合は小児期に出血症状が起こり発見されます。
血友病の症状は、関節内出血筋肉内出血が特徴的です。
関節内で出血を繰り返すと関節の滑膜で炎症が起こり、次第に関節の軟骨や骨が破壊されます。
進行すると関節変形や拘縮を生じ、血友病性関節症となります。
症状が重い場合は人工関節置換術が必要になる場合もあります。
血友病性関節症は、強い痛みを起こし、関節の動きを制限するため生活の質を低下させます。
血友病の生活の質を低下させる主原因のため、関節症状が出る前の予防が大切です。
軽度の場合は手術や抜歯の際に血が止まりにくいということで発見される場合があります。
また、消化管出血血尿皮下出血などさまざまな出血が起こることがあります。
新生児期には分娩時の吸引分娩、鉗子分娩により頭蓋内出血が起こる場合があります。
血友病Aと血友病Bでは症状に大きな違いはありません。
血友病を指摘された、血友病の家族歴がある場合は、血液内科を受診し相談するようにしてください。
血友病は小児期に発症することが多いため、子どもの場合は小児科や小児血液内科を受診する必要があります。

血友病の検査・診断

血友病を疑った場合は、まずは凝固検査を行います。
プロトロンビン時間(PT)活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の検査を確認します。
血友病では、PTは正常ですが、APTTが延長します。
この検査で血友病を疑ったら、凝固因子の検査、すなわち第Ⅷ因子と第Ⅸ因子の凝固因子の活性検査を行います。
第Ⅷ因子活性が低下している場合に血友病A、第Ⅸ因子活性が低下している場合に血友病Bと診断します。
凝固因子活性は、どれくらい凝固因子が働いているかを調べる検査です。
健康な人の凝固因子活性を100%としてどれくらい低下しているかをみます。
重症度は凝固因子活性に基づいて以下のように分類されます。

  • 重症

1%未満

  • 中等症

1%異常5%未満

  • 軽症

5%以上

血友病の治療

血友病は、不足している凝固因子を注射製剤で補うことで出血を予防します。
血友病Aは第Ⅷ因子製剤を、血友病Bは第Ⅸ因子製剤を投与します。

定期補充療法

従来からの定期補充では週3回の補充が行われていましたが、半減期延長型血液製剤が登場して週1〜2回の投与が可能となりました。
凝固因子活性を出血が起こらない一定レベル以上に保つように投与間隔を調整します。

予備的補充療法

運動を行うなどの活動前に凝固因子を注射し、出血を予防する方法です。
手術前などある程度の出血が予想される際にも、リスクに応じて凝固因子を補充します。

出血時補充療法(オン・デマンド注射)

予期せぬ出血などで緊急で止血をする必要がある場合に凝固因子を追加で注射し止血を行う方法です。
出血する場合は急速に凝固因子が使われるため、平常時よりも高用量の凝固因子を必要とします。
出血部位によって目標とする凝固因子の活性レベルが異なります。

インヒビターへの対応

凝固因子補充を続けると、製剤に対するインヒビターができることがあります。
インヒビターができると凝固因子を補充しても、破壊されて効果がなくなってしまいます。
その場合は、第Ⅷ、第Ⅸ因子を迂回する経路を用いて止血を行います。
バイパス製剤を用いることで迂回して凝固経路を活性化させることが可能です。
また、インヒビター中和療法といい、第Ⅷ、Ⅸ因子製剤を大量に投与することでインヒビターを中和し凝固因子活性を上昇させる方法も行われることがあります。

血友病は医療費助成制度があるため、血友病診療に関連する治療であれば自己負担無しで治療を受けることが可能です。
以下のようなさまざまな制度があり、安心して治療を受けることができます。

  • 特定疾病療養制度
  • 先天性血液凝固因子障害等治療研究事業(20歳以上)
  • 小児慢性特定疾患治療研究事業(20歳未満)

血友病になりやすい人・予防の方法

血縁者に保因者や血友病患者さんがいる場合は、遺伝形式によっては血友病の保因者や血友病である可能性があります。
しかし保因者診断を行っている施設は限られており、高額であるという費用の問題もあり、多くの課題があります。
もし血縁者の血友病患者さんが近くにいる場合は、その主治医に相談しても良いかもしれません。

出血しやすい、血がなかなか止まらないなどの症状がある場合は、血液内科を受診し医師に相談をしてください。
血友病と診断された場合は、出血を予防できるよう、血液内科を受診し治療方針についてよく相談してください。
重症化する前に定期的な補充療法を行いを行い、出血を防ぎましょう。

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