FOLLOW US

目次 -INDEX-

西田 陽登

監修医師
西田 陽登(医師)

プロフィールをもっと見る
大分大学医学部卒業。大分大学医学部附属病院にて初期研修終了後、病理診断の研鑽を始めると同時に病理の大学院へ進学。全身・全臓器の診断を行う傍ら、皮膚腫瘍についての研究で医学博士を取得。国内外での学会発表や論文作成を積極的に行い、大学での学生指導にも力を入れている。近年は腫瘍発生や腫瘍微小環境の分子病理メカニズムについての研究を行いながら、様々な臨床科の先生とのカンファレンスも行っている。診療科目は病理診断科、皮膚科、遺伝性疾患、腫瘍全般、一般内科。日本病理学会 病理専門医・指導医、分子病理専門医、評議員、日本臨床細胞学会細胞専門医、指導医。

血管腫の概要

血管腫は血管の異常によってできる良性の腫瘍です。
最近は「血管奇形」と呼ばれる場合があり、血管腫・脈管奇形診療の国際学会が提唱しているISSVA分類に則ると、従来「血管腫」と呼ばれていたものに「血管奇形」に分類される病変が含まれている場合があります。

未だ統一されていませんが、日本形成外科学会は血管を形作る血管内皮細胞の増殖があるものを「血管腫」、血管内皮細胞の増殖がなく血管が異常に集合・増加しているものを「血管奇形」としています。
血管腫はいくつかの種類に分類されており、以下で主なものの特徴をご紹介します。

乳児血管腫

乳児期で最も頻度が高い腫瘍の1つです。
女児または早期産児、体出生体重児に多く、発生頻度には人種差が存在します。
白人での発症は2〜12%、日本人での発症は0.8〜1.7%とされています。
多くは孤発例であり、家族性の発生は稀です。
出産直後にはなかったものが、生後2〜3週間ほどで出現して赤い斑点ができるのが典型的です。
斑点が出来て盛り上がり始め、数ヶ月で大きくなります。この形がイチゴに似ているのが「イチゴ状血腫」とも呼ばれている理由です。
1歳頃がピークであり、その後は次第に退色し、多くの場合は5歳〜小学校低学年頃までの間に赤みは引きます。

毛細血管奇形(単純性血管腫)

生まれつき存在する赤い平らなあざです。
先天的な毛細血管の異常なので、厳密には血管奇形に分類されます。
皮膚に広がる細くて薄い毛細血管が異常に増殖して集まった状態となっています。
だんだん大きくなったり色が濃くなったりするものもあり、自然に消失しません。
大人になると、平らだったものが盛り上がることもあります。
発生頻度は0.3%程度で、性差はないとされています。家族例の報告もありますが、多くの場合が散発例です。

静脈奇形(海綿状血管腫)

生まれつき静脈の成分が拡張して腫瘤となったものです。
嚢胞状静脈瘤状拡張静脈様の管腔様構造海綿状とさまざまな形態で存在します。
脈管血管奇形の中では最も頻度が高く、44~64%を占めます。
発症率の男女比は1:1~2で女性に多いです。
ほとんどが孤発性又は散発性で9割以上を占める一方、1%程度は家族性が見られる遺伝性のものや症候群を呈するものも存在するとされています。
発生する部位や大きさ、深さはさまざまで、CTやMRIなどの画像検査で性状や位置を調べます。
体表面から青く透けて見えることがあります。
手足に発生したものは、降ろした状態で膨らむことが多く、静脈石を触れることもあります。

動静脈奇形

正常構造の血管では、心臓から拍出された血液が動脈から毛細血管、さらに静脈へと流れます。
動静脈奇形は、病変の中に動脈と静脈が混在した病変です。
動脈と静脈の間にシャントと呼ばれる癒合部分を生じているため動脈から直接静脈に血液が流れ、血流の早い病変が形成されます。
動脈の血圧が静脈にかかってしまうため、病変の多くは進行性です。
最初は皮膚の赤あざや拍動性の瘤の状態ですが、大きくなると出血や痛みが出てくることがあります。
さらに、血流過多になると心臓に負担がかかることもあります。
基本的に孤発性で、発症率の男女比はほぼ同じです。
家族性を有する疾患として、遺伝性出血性末梢血管拡張症(オスラー・ウェーバー・ランデュ病)、毛細血管奇形-動静脈奇形パークス・ウェーバー症候群などに合併する動静脈奇形があります。

リンパ管奇形

大小さまざまなリンパ管やリンパ嚢胞の集まりから成る良性病変です。
内部構造によって嚢胞性、海綿状に大別されます。
体表に存在するものは柔らかく膨らんだ皮下腫瘤ですが、頸部、腋窩、縦隔などの深部を含めた全身に発生することがあります。
首に発生したものは気道を圧迫して呼吸困難となることがあり、その場合は呼吸管理などの注意が必要です。

難治性血管腫・血管奇形

血管奇形の中でも巨大病変や浸潤型病変として存在する血管腫のことを言います。
四肢全体や全身に病変が多発することもあり、生涯にわたって治療と管理が必要です。
日本での発生率は不明ですが、血管奇形全体の中うち、難治性血管奇形に該当する患者は約10,000人以下だと推測されています。

血管腫の原因

多くの血管腫の原因ははっきりわかっていません。
難治性血管腫・血管奇形については、多くが先天性です。
血管の発生異常によって生じたものと考えられていますが、未だに証明されていません。
その一方で、遺伝学的、分子生物学的な解析がすすめられており、遺伝子治療や分子標的創薬の可能性が出てきています。

血管腫の前兆や初期症状について

先天性の場合は血管腫が生まれつき存在しており、そのものの症状はさほどありません。
ただし、進行した動静脈奇形の場合は、出血や痛み、心臓に関わる症状などを示す可能性があります。
なお、難治性血管腫の場合、疼痛、発熱、感染、出血、醜状変形などの症状を示すことがあります。
また、患肢の肥大や変形、萎縮などのため運動機能障害を起こすことも珍しくありません。
巨大なものでは病変部で凝固因子が大量に使われるため、消費性凝固障害からDIC症状を認める場合もあります。

血管腫を疑った場合、皮膚科もしくは形成外科を受診しましょう。

血管腫の検査・診断

血管腫の診断法は確立していません。
視診の所見のほか、診断に用いられる検査としては画像検査(超音波検査、単純X線撮影、CT、MRIなど)、
それでも診断困難な場合は切除した組織の病理検査などがあります。

診断能と侵襲性の観点から、画像検査の中では超音波検査MRIが中心です。
血管腫を疑った場合、安価で低侵襲、簡便に行える超音波検査が第一選択となります。
MRIは軟部組織において高いコントラスト分解能を有するため、血管腫の診断に優れています。

血管腫の治療

血管腫の治療法は、種類によってさまざまです。
早期治療だと跡が目立たなく治せる可能性が上がるため、早めに形成外科や皮膚科を受診することをおすすめします。

乳児血管腫

基本的には経過観察のみで良いとされていますが、
巨大なものや出来た部位によって悪影響があるようなものは治療が必要となります。
最近では早期からプロプラノロールの内服治療色素レーザー治療を行う場合があります。
レーザー治療は痛みを伴うため、治療中に暴れてレーザー光線が目に入る危険を回避すべく
小児や乳幼児では全身麻酔が必要となります。

毛細血管奇形(単純性血管腫)

大きさや部位はさまざまですが、基本的にはレーザーや手術による治療が行われます。

静脈奇形(海綿状血管腫)

MRIやCT、超音波などの画像検査を行い、最適な治療法を検討します。
手術や硬化療法などの方法がありますが、硬化療法は保険認可されていません。

動静脈奇形

小さい病変は手術による切除が可能ですが、
大きな病変を切除すると出血や再増大の可能性があるため、あらかじめ塞栓療法で栄養血管を詰める必要が出てくる場合もあります。

リンパ管腫

手術、硬化療法、抗癌剤、インターフェロン療法、ステロイド療法、レーザー焼灼法などが行われます。
リンパ管腫の場合、硬化療法は保険認可されています。

難治性血管腫・血管奇形

外科的切除、硬化療法、レーザー照射などによる治療が行われます。
硬化療法は保険認可されていません。

血管腫になりやすい人・予防の方法

現在のところ、血管腫になりやすい条件や予防法は明らかになっていません。
孤発性のものが多く、家族に血管腫の人がいても心配し過ぎる必要はないと言えます。

この記事の監修医師