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エコノミークラス症候群
小鷹 悠二

監修医師
小鷹 悠二(おだかクリニック)

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福島県立医科大学医学部卒業 / 専門は循環器内科 / 2009/4月~2013/3月 宮城厚生協会坂総合病院 / 2013/4月~2017/3月 東北大学病院循環器内科・同大学院 医員 / 2017/4月~2018/5月 仙台オープン病院 循環器内科医長 / 2018/5月~ おだかクリニック 副院長 / 診療所での外来業務に加え、産業医、学校医としての業務も行っている。 また、医師業務以外の副業も積極的に行っており、ビザスクなどを通して企業の医療アドバイザー業も副業として行っており、年間70社以上の会社にアドバイザーとして助言を行うなどしている。 ライティングも行っており、m3.comや、Ubie病気のQ&A(https://ubie.app/byoki_qa/doctors/yn8ueqd6kjn)などにて定期的に執筆活動を行っている。

エコノミークラス症候群の概要

エコノミークラス症候群は、長時間の飛行機移動や車移動など、狭い空間に長時間同じ姿勢で座り続けることにより、血行不良が起こり血栓(血のかたまり)が生じる病態で、医学的には「深部静脈血栓症(DVT)」と呼ばれます。

主に足の深部静脈に血栓が形成されることが特徴で、この血栓が血流にのって肺動脈に詰まると「肺血栓塞栓症(PE)」となり、急な胸の痛みや、呼吸の苦しさなどの症状が起こり、程度が重いと死亡する可能性もあります。軽度の下肢の痛みやむくみなどから命に関わる重篤な症状まで、症状はさまざまです。

エコノミークラス症候群は飛行機や車などに長時間乗ったときだけでなく、長時間同じ姿勢が続く震災時の避難生活などでも発症リスクが高まることが問題となっています。

エコノミークラス症候群は突然死につながる可能性もある危険な病気ですが、足の運動やストレッチ、十分な水分補給などの予防対策により発症のリスクを下げることが可能です。また、発症した場合も早期に適切な治療を行うことで重症化を防ぐことができるので、早期発見・早期治療が重要です。

 

エコノミークラス症候群

エコノミークラス症候群の原因

長時間狭い空間で同じ姿勢を続けることで、下肢(太ももやふくらはぎ)の深い静脈の血流が滞り、血栓が生じやすくなります。血栓が生じる原因には、血管がなんらかの理由で傷ついた場合や静脈の血流が滞っている場合、血液が固まりやすい体質などがあります。

また、経口避妊薬(ピル)などの血液が固まりやすい薬を内服している場合も血栓が生じやすくなります。

エコノミークラス症候群の前兆や初期症状について

エコノミークラス症候群の症状の程度は軽症から重症までさまざまです。

初期症状は、下肢(太ももやふくらはぎ)の発赤(皮膚が赤くなる)、腫れ、痛みなどがあらわれることが多くなっています。このような症状が出現したときは、足の深部静脈に血栓が生じていることが考えられるため、すぐに医療機関を受診するようにしましょう。

足に生じた血栓が血管を通って心臓から肺へと流れ、肺の血管に詰まると肺血栓塞栓症を引き起こします。肺血栓塞栓症になると、胸の痛みや息切れ、突然の呼吸困難、意識障害、心停止などの症状があらわれます。

そのほか、冷汗、動悸、呼吸回数の増加、背中の痛み、咳、血痰、発熱などの症状がみられることもあります。これらの症状は命の危険性があり、緊急の対応が必要となる場合があるため、症状に気づいた時点で速やかに医療機関を受診することが重要です。

エコノミークラス症候群の検査・診断

急な呼吸困難や胸の痛みなどの症状があらわれた場合、体内の酸素濃度や血圧の確認、胸部レントゲン検査や心電図検査、血液検査などが行われます。

しかし、これらの検査だけでエコノミークラス症候群と確定診断することは難しいため、造影剤による下肢(太ももやふくらはぎ)の肺動脈造影CT検査、肺血流スキャンなどの検査で診断します。

造影検査では、本来であれば造影される血管が一部造影されないことにより肺動脈や下肢の静脈の血栓の有無を確認することができます。

エコノミークラス症候群の治療

血栓が比較的少なく、血圧や呼吸状態が落ち着いている場合は、抗凝固薬(ヘパリン、ワーファリンなど)による治療が行われます。抗凝固薬には血液を固まりにくくする作用があります。

血栓が多く、血圧が低下し全身への血流が保てなくなるなどのショック状態がみられる場合は、詰まった血栓を早く溶かして肺の血流を回復させる必要があり、血栓溶解剤(組織プラスミノーゲン活性化因子、ウロキナーゼなど)が使用されます。

心停止などの重症な症状がみられる場合は、手術により直接、血栓を取り除く治療が行われることがあります。

下肢にまだ血栓が残っていて肺に飛ぶことが懸念される場合、腹部の静脈にフィルターを入れ、血栓が血液にのってもフィルターで捉えて肺まで達することのないようにする治療もあります。

エコノミークラス症候群は治療が遅れると重症化し、命にかかわる危険性が高まるため、早期に診断・治療を行うことが重要です。

エコノミークラス症候群になりやすい人・予防の方法

以下にあてはまる人はエコノミークラス症候群になるリスクが高くなると考えられます。

  • 高齢者や肥満のある人
  • 妊婦・出産直後の人
  • 4時間以上の長時間飛行する場合
  • 短期間に飛行機を利用した場合
  • 経口避妊薬(ピル)を服用中の人
  • 最近大きな手術を受けた人
  • がんのある人
  • 慢性の心肺疾患や自己免疫性疾患のある人 など

また、災害などによる避難所生活で長時間座ったままや横になったままの姿勢が続いている人、車中泊をしている人なども発症率が高まるとされています。

エコノミークラス症候群を予防する方法として、ストレッチや軽い体操・運動などが推奨されています。長時間同じ姿勢が続く場合は、足の血流が滞るのを防ぐため、かかとの上げ下ろし運動をしたり、ふくらはぎをもんだりしましょう。飛行機に乗っている場合は、2〜3時間に1度は通路を歩くなどして体を動かすのもおすすめです。弾性ストッキングの着用も効果が期待できると考えられています。

また、水分は十分かつこまめに摂取し、アルコールは脱水を起こしやすいため控えるようにしましょう。

手術後に長期間の安静を必要とするような大きな手術を受けた人は、手術後のリハビリテーションや予防体操、適切な体位の交換により血栓が生じるのを予防します。


関連する病気

  • 肺血栓塞栓症(PE)
  • 深部静脈血栓症(DVT)

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