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低カリウム血症
眞鍋 憲正

監修医師
眞鍋 憲正(医師)

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信州大学医学部卒業。信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学教室博士課程修了。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会健康スポーツ医。専門は整形外科、スポーツ整形外科、総合内科、救急科、疫学、スポーツ障害。

低カリウム血症の概要

低カリウム血症は、血液中のカリウム濃度が3.5mEq/L未満に低下した状態をいいます。カリウムは人体に必要なミネラルの一種です。ナトリウムを身体の外に排出しやすくしたり、筋肉や神経の働きを正常に保ったりといった働きをします。そのため、カリウムが不足した低カリウム血症という状態は、身体にさまざまな影響を及ぼします。低カリウム血症の原因が、カリウム欠乏の場合は、体内に貯蔵されているカリウムが10%喪失すると血清カリウム濃度は1mEq/L低下すると言われています。

低カリウム血症の原因

低カリウム血症の主な原因は、カリウムの摂取不足、カリウムの過剰な排泄、細胞内へのカリウムの移動などがあげられます。

  • カリウムの摂取不足 長期間にわたるカリウムが不足した食事や飢餓、極端なダイエットなどによるカリウムの摂取が不十分な場合に起こる可能性があります。
  • カリウムの過剰な排泄 利尿薬を使用することで腎臓からのカリウム喪失が促進されます。また、マグネシウムが欠乏すると、尿細管におけるカリウムの再吸収が妨げられるため、重症患者で、特に利尿薬を投与されている場合は、マグネシウム喪失がカリウム喪失の惹起と持続において重要な役割を果たしている可能性があります。そのほかに、慢性的な下痢、嘔吐によるカリウムの排泄が続くことで起こる可能性があります。
  • 細胞膜を介したカリウムの移動 カリウムの細胞内への移動は、筋細胞膜β2受容体の刺激によって促進されます。β受容体刺激性の気管支拡張薬は、血清カリウム濃度を低下させる作用があります。通常の投与量ではその効果は弱いといわれています。しかし、β刺激薬がブドウ糖とインスリンや、利尿薬と同時に投与された場合は、血清カリウム濃度を低下させる作用は顕著になります。そのほかにアルカローシスや低体温、インスリンなどがあげられます。

低カリウム血症の前兆や初期症状について

低カリウム血症の前兆や初期症状は、特に目立たないことが多い傾向です。中等度の低カリウム血症(血清カリウム濃度2.5〜3.5mEq/L)では無症候の場合が多いようです。進行すると、全身の倦怠感、しびれ、不整脈、筋肉痛などの症状が現れます。重度の低カリウム血症(血清カリウム濃度2.5mEq/L未満)は広範囲にわたる筋力低下を伴いやすいです。 その他には、心電図変化や不整脈があります。

  • 心電図変化 突出した1mm以上の高さをもつU波の出現や、平坦または逆転したT波の出現、またはQT延長が半数以上の症例でみられると言われています。しかし、これらの変化はジギタリス投与や左室肥大、低カルシウム血症や低マグネシウム血症でもみられます。そのため、低カリウム血症に固有の症状とは言えません。
  • 不整脈 低カリウム血症そのものが不整脈を惹起することはありません。低マグネシウム血症やジギタリス、心筋梗塞といった不整脈を起こしやすい別の病態に、低カリウム血症を伴うことがあり、これらの病態において不整脈誘発作用を増悪させる可能性があります。

低カリウム血症は基本的に軽症時は無症状であり、症状が出たとしても特異的なものではありません。症状だけで低カリウム血症を疑うことは難しいので、それまでみられなかった症状が出た際には、まず内科またはかかりつけ医を受診するようにしましょう。

低カリウム血症の検査・診断

低カリウム血症の診断では、主に下記の検査が有用です。

  • 血液検査 血清カリウム濃度を測定します。血清カリウム濃度の基準値は、3.5〜5.0mEq/Lです(あくまで基準値のため、施設によって異なる可能性があります)。
  • 心電図 低カリウム血症固有の変化ではありませんが、U波の出現、平坦または逆転したT波の出現、QT延長の有無などを確認します。
  • 尿検査 臨床的に低カリウム血症の発生機序が不明な場合には、24時間の尿中カリウム排泄および血清カリウム濃度の測定を行います。

低カリウム血症の治療

低カリウム血症の治療において重要なのは、アルカローシスなど細胞外から細胞内へカリウムを移動させるような病態の治療をしたり、原因を取り除くことです。しかし、低カリウム血症の原因がカリウム欠乏による場合や、不整脈などの心電図異常や筋力低下などの症状がある場合は、カリウム補充療法が必要になります。 カリウムを補充する場合は、カリウム補充による高カリウム血症を生じて、致死的な不整脈を誘発する可能性に注意する必要があります。 低マグネシウム血症を併発している場合は、カリウムの補充に加えて、マグネシウムを補充する必要があります。

カリウムの補充は、経口投与が原則となります。経口の補正でも、20〜30分でカリウム濃度の上昇が見られます。また、一度不足したカリウムが充足されると血清カリウム濃度は急速に上昇します。そのため、カリウムの補充は、血清カリウム濃度が3.0〜3.5mEq/Lで維持できていれば終了として、医原性の高カリウム血症には十分に注意する必要があります。 経口的にカリウム製剤を投薬する場合は、原則として無機カリウム製剤である塩化カリウムでの補充が好ましいとされています。それは、細胞外液に分布しやすく代謝性アルカローシス合併時にも有効と言われているからです。有機酸カリウム製剤であるグルコン酸カリウムはアシドーシス合併時に適しています。無尿の慢性腎臓病患者であっても、1mEq/kg/日のカリウム補充は許容されています。

経静脈的にカリウム製剤を投薬する場合は、通常塩化カリウム溶液を用いて補充します。塩化カリウム溶液は浸透圧がきわめて高いため原則として希釈して投与する必要があります。リン酸カリウム溶液の使用も可能であり、特に糖尿病性ケトアシドーシスでは、アシドーシスに伴うリン酸欠乏が起こるために、リン酸カリウム溶液が使われることが多い傾向です。カリウムを静脈内投与する場合は、一般的には20mEqのカリウムを100ミリリットルの生理食塩液に希釈して1時間かけて投与します。カリウムの静脈内最大投与速度は、通常20mEq/hとされています。しかし、血清カリウム濃度が1.5mEq/Lを下回ったり、重篤な不整脈が出現している場合には、40mEq/hで投与される場合があります。カリウム製剤は浸透圧が高く刺激性があるため、中心静脈からの投与が推奨されています。ただし、20mEq/hより速い速度で中心静脈から投与する場合には、右心系の一過性高カリウム血症により心停止を起こす危険性があります。この場合は、2本以上の末梢静脈路を確保して、希釈したカリウムを補充する必要があります。

カリウム補充に対する反応性について、カリウムを投与しても、投与してしばらくは血清カリウム濃度は緩やかに上昇します。体内カリウム量の回復には、カリウム喪失が進行している場合は通常2〜3日かかります。低カリウム血症が、カリウムの補充に抵抗するようであれば血清マグネシウム濃度のチェックも重要になります。それは、マグネシウムの欠乏が腎臓からのカリウム喪失を促進するため、補充抵抗性の低カリウム血症を引き起こす可能性があるためです。

低カリウム血症になりやすい人・予防の方法

低カリウム血症になりやすい人・予防の方法は、下記の通りです。

  • 利尿薬を長期間使用している人 特にリスクが高い人は、左室機能低下・ジゴキシン内服中・糖尿病・喘息でβ作動薬服用中の人などです。この場合は、定期的に血清カリウム濃度を測定して確認する必要があります。
  • 慢性的な下痢や嘔吐が続いている人 下痢や嘔吐によるカリウムの喪失が起こるため、原因の治療を行うとともに、カリウムの補充が必要になる場合があります。
  • 過度なダイエットや、栄養状態が不良な人 過度で極端なダイエットは行わないことや、バランスのとれた食生活を心がける必要があります。厚生労働省が推奨する成人のカリウム摂取量は、成人男性で2,500mg、成人女性で2,000mgです。バナナ、オレンジ、ほうれん草、ポテト、トマト、ナッツ類、魚類などカリウムを豊富に含む食材をバランスよく食事に取り込み、カリウムを摂取することで十分に予防が可能だと言われています。

関連する病気

参考文献

  • AHAガイドライン
  • THE ICU BOOK FOURTH EDITION
  • 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト

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