

監修医師:
眞鍋 憲正(医師)
目次 -INDEX-
IgA血管炎の概要
IgA 血管炎(IgA vasculitis)は,2013 年に公表された新しい Chapel Hill Consensus Conference 分類(CHCC2012)によって HenochSchönlein 紫斑病(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)から名称変更された疾患です。過去にはアレルギー性紫斑病と呼ばれたこともありました。
IgA血管炎は、主に皮膚、関節、消化管、腎臓に影響を及ぼす血管炎の一種です。この病気は免疫系の異常により小さな血管が炎症を起こすことで発症します。特に子どもに多く見られますが、大人にも発生することがあります。典型的な症状は、紫斑(皮膚に現れる紫色の斑点)、関節痛、お腹の痛み、血尿などです。早期に適切な治療を行うことで、多くの場合、完治が可能です。
IgA血管炎の原因
IgA血管炎の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、免疫系の異常反応が関与していると考えられています。具体的には、IgAという抗体が血管の壁に沈着し、そこで炎症を引き起こします。この免疫反応がなぜ起こるのかについては、以下のような要因が関与している可能性があります。
- 感染症: ウイルスや細菌の感染が引き金となることが多いです。風邪や喉の痛みなど、上気道感染症に続いて発症するケースがよく見られます。
- 薬剤: 一部の薬剤が免疫反応を引き起こし、IgA血管炎を発症することがあります。
- 遺伝的要因: 家族内での発症が多いことから、遺伝的要因も関与していると考えられています。
- その他: 食物アレルギーやワクチン接種が発症のきっかけとなることもあります。
IgA血管炎の前兆や初期症状について
IgA血管炎は、免疫系が血管を攻撃する病気で、皮膚、関節、消化器、腎臓に症状が現れます。以下に、IgA血管炎の典型的な症状について説明します。
- 皮膚症状(75〜100%)
- 関節炎(85%)
- 消化器症状(50〜60%)
- 腎症状(40〜76%)
紫斑:主に両足の前面やお尻に左右対称に現れる赤紫色の発疹です。触ると少し盛り上がっているのが特徴です。重力の影響を受けやすい部位に現れるため、下肢だけでなくお尻にも見られます。
関節痛:紫斑と同時またはその前に現れることが多く、膝や足首など下肢の関節に痛みが現れます。
腹痛:心窩部(みぞおち)からおへその周りにかけて強い痛みが現れます。時には腸閉塞(イレウス)、吐血や下血を伴うこともあります。小児の場合、腸重積(腸が重なり合う状態)に至ることもあります。
血尿や蛋白尿:紫斑や関節症状が現れた後に出現することが多く、尿に赤血球が混じる(血尿)や蛋白尿が見られます。時にはネフローゼ症候群や急速進行性糸球体腎炎(RPGN)という重篤な腎障害を引き起こすこともあります。成人では診断時に既に腎機能障害が見られることが多いですが、小児では1%以下です。
これらの症状がみられたら、子どもであれば小児科、大人であれば皮膚科、内科を受診しましょう。
IgA血管炎の検査・診断
IgA血管炎は、特定の検査だけで診断することは難しく、主に臨床症状から診断されます。米国リウマチ学会の分類基準によれば、以下の条件のうち2つ以上を満たす場合にIgA血管炎と診断されます。
- 隆起性の紫斑:皮膚に赤紫色の盛り上がった発疹が見られます。
- 急性の腹部疝痛:急にお腹が痛くなることがあります。
- 生検組織での小動脈壁の顆粒球の存在:組織検査で小さな血管に白血球が見られます。
- 年齢が20歳以下:この病気は子どもや若い人に多く見られます。
日本では、小児にIgA血管炎が多く見られ、特徴的な臨床症状と血液検査で診断されることが一般的です。
診断のための検査
- 血小板数の正常:血小板数が正常であればIgA血管炎の可能性が高いです。
- 出血時間の正常:出血時間が正常であれば、他の出血性疾患の可能性を除外できます。
- 凝固時間の正常:PTやAPTTなどの凝固時間が正常であれば、IgA血管炎が疑われます。
- 皮膚生検:診断が難しい場合、皮膚生検を行い、白血球破壊性血管炎の像を確認することがあります。
IgA血管炎の診断は、これらの臨床症状と検査結果を総合して行われます。
IgA血管炎の治療
IgA血管炎は特定の治療法がなく、主に症状に応じて治療を行います。原因となる食物や薬剤が明らかな場合は、それらを避けることが重要です。以下に、主な治療方法を説明します。
腎症の有無で治療が分かれる
腎障害があるかどうかによって治療方針が異なります。腎障害を伴う場合は、その重症度に応じた治療が必要です。腎障害の主なリスク因子としては、発症年齢が4歳以上、強い消化管症状、1か月以上続く紫斑、血漿第XIII因子活性の低下などが挙げられます。
- 軽度の症状
- 強い症状
- 重症の皮膚症状
- 消化器症状が強い場合
- 再燃や難治例
軽症の紫斑の場合は、安静にして経過を観察するだけで良いことが多いようです。軽い消化管症状(嘔気、嘔吐、腹痛など)も、安静や輸液、非ステロイド性抗炎症薬で改善します。
強い腹痛や下血がある場合は、副腎皮質ステロイド薬を使用します。経口プレドニゾロンを1〜2 mg/kg/日、1〜2週間投与します。経口摂取が難しい場合は、メチルプレドニゾロンやヒドロコルチゾンの経静脈投与が効果的です。
重症の皮膚症状(血疱、潰瘍が多い場合)には、副腎皮質ステロイドや潰瘍治療薬を用い、ジアフェニルスルホン(DDS)やコルヒチンを投与することもあります。DDSは小児に0.5〜1.5 mg/kg/日を投与し、数日から1週間で紫斑と関節症状が改善すると報告されています。しかし、副作用のリスクがあるため、注意が必要です。
強い消化器症状には、副腎皮質ステロイドの投与で速やかに改善しますが、減量・中止で再発することもあります。腸重積や腸管梗塞などの重篤な症状が現れた場合は外科的治療が必要になることもあります。
再燃を繰り返す場合や重症例では、副腎皮質ステロイドの使用量を抑えるために免疫抑制薬(シクロスポリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、アザチオプリン)やリツキシマブの併用療法が有効なことがありますが、保険適用は限られています。
このように、IgA血管炎の治療は個々の症状に応じたアプローチが必要です。医師と相談しながら適切な治療を受けることが重要です。
IgA血管炎になりやすい人・予防の方法
IgA血管炎は特定の人がかかりやすいわけではなく、誰にでも発症する可能性がありますが、以下のような要因でリスクが高まることがあります。
- 子ども: 特に2歳から10歳の子どもに多く発症します。
- 感染症: 上気道感染症を頻繁に起こす人は、IgA血管炎を発症するリスクが高まります。
- 遺伝的要因: 家族にIgA血管炎の既往がある場合、発症リスクが高まることがあります。
予防の方法
IgA血管炎の明確な予防方法は確立されていませんが、以下のような対策が推奨されます。
- 感染症予防: 手洗いやうがいなどの基本的な衛生管理を徹底し、感染症を予防します。
- 適切な医療管理: 風邪や喉の痛みなどの症状が現れた場合は、早期に医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。
- 薬剤の管理: 医師の指示に従い、適切に薬剤を使用します。特定の薬剤が引き金となる場合があるため、医師に相談することが必要です。
参考文献
- 小児IgA血管炎診療ガイドライン2023
- 小児内科2022年54巻増刊号 小児疾患診療のための病態生理
- Jennette JC, et al. 2012 revised International Chapel Hill Consensus Conference Nomenclature of Vasculitides. Arthritis Rheum 2013;65:1-11.
- Ozen S, et al. EULAR/PRINTO/PRES criteria for Henoch-Schönlein purpura, childhood polyarteritis nodosa, childhood Wegener granulomatosis and childhood Takayasu arteritis: Ankara 2008. Part II: Final classification criteria. Ann Rheum Dis 2010;69:798–806.




