

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
再生不良性貧血の概要
再生不良性貧血は、骨髄が正常に血液を作れなくなる病気です。これにより、赤血球、白血球、血小板の全ての血球が減少し、貧血や感染症、出血のリスクが高まります。通常、骨髄はこれらの血球を絶えず作り出していますが、再生不良性貧血ではこの機能が著しく低下します。
再生不良性貧血の原因
再生不良性貧血には、先天性と後天性の2つの病型があります。先天性の再生不良性貧血は、遺伝子の異常によって造血機能に障害が生じるものです。
一方、後天性の再生不良性貧血は、さらに一次性(特発性)と二次性に分類されます。一次性(特発性)の再生不良性貧血は、明らかな外的誘因がなく発症するもので、後天性の再生不良性貧血の90%以上を占めます。二次性の再生不良性貧血は、薬剤や化学物質、放射線などへの曝露が原因で発症します。
また、特殊な病型として肝炎関連再生不良性貧血があります。これは、急性肝炎に罹患した数ヶ月後に発症するものです。
再生不良性貧血の前兆や初期症状について
再生不良性貧血の初期症状は、血球が減少することで現れます。以下のような症状が見られることがあります。
- 疲労感
貧血による酸素供給不足で常に疲れやすくなります。 - 息切れ
少しの運動でも息切れが生じます。 - 頭痛やめまい
脳への酸素供給が不足するため、頭痛やめまいが頻繁に起こります。 - 皮膚の蒼白
血液の不足により、皮膚が青白く見えることがあります。 - 頻繁な感染症
白血球が減少するため、感染症にかかりやすくなります。 - 出血しやすい
血小板が減少するため、鼻血や歯茎からの出血が起こりやすくなります。
これらの症状が見られた場合は、内科や血液内科を受診することをおすすめします。
再生不良性貧血の検査・診断
再生不良性貧血の診断は、主に以下の検査を通じて行なわれます。
- 血液検査
血球の数や種類、ヘモグロビン濃度を測定します。これにより、血球の減少を確認します。 - 骨髄検査
骨髄液を採取し、顕微鏡で骨髄の状態を調べます。これにより、骨髄が血球を作る能力が低下しているかを確認します。 - 染色体検査
遺伝的要因を調べるために染色体の異常を確認します。 - ウイルス検査
ウイルス感染の有無を調べるために、血液中のウイルス量を測定します。
厚生労働省が定めた基準によって診断され、ヘモグロビンの量が10g/dL未満、好中球が1500/μL未満、血小板が5万/μL未満のうち、2つ以上に当てはまり、骨髄の働きが低下している場合に診断されます。ただし、ほかの原因で汎血球減少(血液中の赤血球、白血球、血小板が全て減少する状態)が起きている場合は除きます。
診断が確定したら、血液の減少の程度を見て重症度を判定します。重症度は治療方針を決める上で重要です。
鑑別診断
赤血球、白血球、血小板の3系統の血球減少をきたす疾患としては、以下の疾患があります。
白血病、悪性リンパ腫、骨髄異形成症候群、骨髄線維症、発作性夜間ヘモグロビン尿症、巨赤芽球性貧血、癌の骨髄転移、多発性骨髄腫、脾機能亢進症(肝硬変,門脈圧亢進症など)、全身性エリテマトーデス、血球貪食症候群、感染症
再生不良性貧血の治療
軽い場合(ステージ1、2)
もし、病気が軽くて、血球があまり減っていないなら、治療はせずに様子を見ます。血球が減っていく場合は「免疫抑制療法」という治療をします。これは、身体の免疫を少し弱めることで血液を作りやすくする方法です。その一つが「抗胸腺細胞グロブリン(ATG)」の投与です。
ATGは5日間の短期間で行ないますが、副作用があります。発熱や蕁麻疹(じんましん)、アナフィラキシーというアレルギー反応があるため、病院に入院して治療をします。現在、ウサギ由来の「サイモグロブリン」というATGが使われています。ATGを投与した後の1~2ヶ月間は、感染症のリスクが高まるため注意が必要です。感染症の兆候が見られた場合は、すぐに治療を始めます。
もし患者さんがATGを希望しない場合は、「シクロスポリン」や「プリモボラン」という薬を使います。シクロスポリンの副作用には腎臓の問題や毛が増えること、歯茎の腫れ、血圧の上昇などがあります。プリモボラン(メテノロン酢酸エステル)はアンドロゲン製剤であり、副作用として肝機能障害、男性化徴候(多毛・声変化)、嘔気、頭痛などが報告されています。これらの副作用については、治療前にしっかり説明します。シクロスポリンは効果が出るまでに2~3ヶ月かかります。
重い場合(ステージ3以上)
病気が重く、40歳未満で適合するドナー(提供者)がいる場合は、骨髄移植が第一の選択肢になります。この治療の成功率は80%以上です。適合する非血縁のドナーからの骨髄移植の場合、成功率は約60%です。この場合は、免疫抑制療法で改善しないときに検討します。移植は早く行なうほど成功率が高くなります。
40歳未満で適合するドナーがいない場合や、40歳以上の場合は免疫抑制療法を行ないます。通常、ATGとシクロスポリンを一緒に使います。この治療で70%の患者さんが輸血不要になります。最も重い場合(ステージ5)は、G-CSFという薬も使います。免疫抑制療法には、骨髄異形成症候群や白血病を発症するリスクがあります。
輸血について
赤血球輸血は、ヘモグロビンが7.0g/dL以下になった場合に行なわれます。ただし、明らかな貧血症状がなければ輸血をしないこともあります。血小板輸血は、血小板数が1万/μL以上になるように行ないますが、出血の兆候がなければ輸血しないこともあります。血小板数が5000/μL未満が続く場合は、脳出血などのリスクがあるため計画的に輸血を行ないます。
頻繁な輸血による合併症として、鉄過剰症や輸血不応症があります。輸血は必要最小限に留めるべきです。鉄過剰症の治療として、「デフェロシロクス(エクジェイド®)」を使います。
再生不良性貧血の治療には、それぞれメリットとリスクがあります。最適な治療を受けるために、医師としっかり相談しながら進めていきましょう。
再生不良性貧血になりやすい人・予防の方法
再生不良性貧血になりやすい人は以下のような特徴があります。
- 自己免疫疾患を持つ人
自己免疫反応が原因となる場合が多いため、自己免疫疾患を持つ人はリスクが高いです。 - 特定の薬剤を使用している人
抗がん剤や一部の抗生物質など、骨髄に影響を与える薬剤を使用している人。 - 有害化学物質に暴露されている人
ベンゼンなどの化学物質に長期間さらされている人はリスクが高くなります。 - ウイルス感染歴のある人
肝炎ウイルスやHIVなどの感染歴がある人。
予防の方法
再生不良性貧血の予防は難しいですが、以下の方法でリスクを減らすことができます。
- 定期的な健康診断
早期に異常を発見し、適切な対応をすることが重要です。 - 薬剤の管理
医師と相談し、骨髄に影響を与える可能性のある薬剤の使用を慎重に行ないます。 - 有害物質への対策
職場や生活環境で有害化学物質に触れるリスクを最小限に抑えるようにしましょう。 - 感染予防
手洗いや予防接種を徹底し、感染症を防ぐことが重要です。
参考文献
- 日本血液学会「再生不良性貧血診療の参照ガイド 令和4年度改訂版」
- 臨床雑誌内科 127巻 4号 pp. 917-919(2021年04月)
- 小児内科 55巻 13号 pp. 616-621(2023年11月)
- 検査と技術 51巻 3号 pp. 246-252(2023年03月)




