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動脈瘤
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

動脈瘤の概要

動脈瘤はその名の通り、動脈に瘤 (こぶ) ができる病気の総称です。瘤ができる場所によって名前が変わりますが、今回は特に有名な大動脈瘤や脳動脈瘤について扱っていきます。
大動脈瘤は大動脈と呼ばれる、体の中で最も太い動脈に瘤ができてしまう病気です。大動脈のなかでも胸部大動脈瘤 (上行大動脈瘤、弓部大動脈瘤、下行大動脈瘤) 、腹部大動脈瘤といったように瘤ができる場所によって細分化されていて、症状や治療方針が異なります (参考文献 1) 。
脳動脈瘤は、脳の動脈の枝分かれ部分にできることが多く、人口の3%程度が保有しているとされています。
大動脈瘤は大動脈解離や大動脈瘤破裂、脳動脈瘤はくも膜下出血などの命にかかわる緊急疾患につながります (参考文献 1,2)。

動脈瘤の原因

動脈瘤は動脈の壁が弱くなっている部分に血流による負荷がかかって、だんだんと膨らんで瘤になってしまうという説が有力です (参考文献 1, 2)。
乱れた生活習慣やいわゆる生活習慣病が血管を脆くして動脈瘤のリスクをあげることはイメージしやすいかもしれませんが、大きなエネルギーのかかる外傷や感染症、血管の炎症も発症に関連しているとされています (参考文献 1) 。脳動脈瘤に関していえば脳血管の構造上、血管の枝分かれ部分には比較的大きな圧力がかかり、瘤ができやすいことが知られています (参考文献 2) 。

動脈瘤の前兆や初期症状について

瘤ができたからといって即症状が現れるとは限らず症状が出ないまま進行する人が多いですが (参考文献 1, 3)、瘤が近くの構造を圧迫することによって出ることがある症状があるため、それらについて解説します。
胸部大動脈瘤では、瘤の近くに声帯の調整をする神経 (反回神経) が通っているため、反回神経が圧迫されることによる声のかすれ (嗄声) や、食べ物や飲み物でむせてしまうといった症状、場合によっては胸や背中の痛み、息苦しさなどを自覚することがあります (参考文献 1) 。
腹部大動脈瘤が大きくなると、痩せた人では体表からお腹に拍動のある瘤を触れられるようになることがあります (参考文献 1)。
脳動脈瘤では、瘤が動眼神経という目の動きにかかわる神経を圧迫して、物が二重に見えたりまぶたが思ったように動かないという症状が出ることがあります (参考文献 3)。

動脈瘤に関しては無症状のことが多いですが、気になる症状がある場合は近くの内科を受診しましょう。
大動脈解離や大動脈破裂、くも膜下出血は速やかな治療が必要不可欠です。激烈な症状が出たらすぐに救急車を呼んでください。場合によっては激しい症状が出ないことがありますが、すぐに検査や治療が必要なことに変わりはないので、普段と違うことがあれば近くの病院や診療所を受診しましょう。

動脈瘤の検査・診断

無症状のことが多い大動脈瘤や脳動脈瘤は、他の病気の診察や人間ドックで偶然に発見されることが多いとされています (参考文献 1, 2)。
動脈瘤が発見された後は詳しい画像検査をしたり、経過を見ながら治療のタイミングや、その治療方法について探っていくことになります (参考文献 1, 2)。

動脈瘤の治療

瘤自体が大きくなり自覚症状が出ることもありますが、動脈瘤で本当に怖いのは、大動脈解離や大動脈瘤破裂、くも膜下出血といった非常に重篤な病態に進展した場合です。これらの疾患の発症は命の危険を意味します。これらの致死的病態について簡単に説明した後に、それらを防ぐための動脈瘤の治療法について解説します。

大動脈解離は血管の壁の内側が裂けて、壁の外側との隙間に血液が流れ込むことによって、血管壁の内側と外側が離れてしまう病態のことをいいます (参考文献 1) 。
大動脈解離は前ぶれなく突然発症するとされており、特に上行大動脈に解離が及ぶタイプでは発症から1時間に 1% ずつ死亡率が上昇していくとされています。大動脈解離で膨らんだ場所は特に血管の壁が破れやすくなっているため、血管や瘤のあった場所が破裂するリスクもあります (参考文献 1)。
また、胸部大動脈は脳、腹部大動脈は消化管や腎臓などをはじめとした重要臓器に送る血液を送るルートであるため、大動脈解離でこれらの経路が障害されてしまうことがあります (参考文献 1) 。また、動脈瘤自体がいきなり破裂することによって大量出血、命が危険にさらされることもあります (参考文献 1) 。
これらの緊急疾患を予防するために動脈瘤への治療介入が必要と判断されたならば、まずは血圧をあげるような生活習慣を見直したうえで、瘤のできた動脈の周辺を人工血管に置き換えたり、カテーテル治療によって瘤の縮小を目指すこともがあります (参考文献 1) 。

脳動脈瘤が破裂すると「くも膜下出血」という状態に陥ります。くも膜下出血を発症すると半数は死亡または昏睡状態、発症前の状態に戻れるのは4人に1人という大変恐ろしい病態です (参考文献 3) 。したがってくも膜下出血発症前に脳動脈瘤を治療することが重要で、治療選択肢としては瘤の中にワイヤーを詰めて破裂しないようにするカテーテル治療や、解開頭手術で脳動脈瘤をクリップで潰してしまう治療があります (参考文献 2, 3) 。

動脈瘤になりやすい人・予防の方法

大動脈瘤の発生には動脈硬化、高血圧、喫煙、ストレス、脂質異常症、糖尿病、睡眠時無呼吸などが関連するといわれていますが、まだ明らかになっていない部分も多いです (参考文献 1)。一部の遺伝性疾患の患者さんでは大動脈瘤になる確率が高いことが知られています (参考文献 4)。
脳動脈瘤は高血圧や喫煙、飲酒などがリスクとされているほか、遺伝性の要因があることが知られています (参考文献 5) 。
遺伝性の要因を変えることは難しいですが、生活習慣の見直しが予防につながるといえるのではないでしょうか。


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