監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
悪性リンパ腫の概要
悪性リンパ腫は血液がんの一つで、白血球の中のリンパ球ががん化し、無制限に増殖する病気です。リンパ球は骨髄にある造血幹細胞から分化・成熟し、成熟したリンパ球はリンパ管や血管を通って全身に分布します。
発生部位は、リンパ節、脾臓などのリンパ組織に発生することが多い(節性病変)ですが、胃、腸管、肺、皮膚、脳などのリンパ系以外の組織(節外臓器)にも発症します。
おおまかな分類として、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫の2つに分類されます。日本では90%以上が非ホジキンリンパ腫です。非ホジキンリンパ腫はがん化するリンパ球の種類によってB細胞、T細胞、NK細胞リンパ腫に分類されます。また、進行する速さから以下の3つに大別されます。
年単位で進行(低悪性度)
月単位で進行(中悪性度)
週単位で進行(高悪性度)
主な非ホジキンリンパ腫には以下のようなものがあります。
低悪性度
濾胞性リンパ腫、MALTリンパ腫
中悪性度
びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫、末梢性T細胞性リンパ腫
高悪性度
バーキットリンパ腫、リンパ芽球性リンパ腫
悪性リンパ腫は、罹患率は人口10万人あたり29.0例の発症ですが、血液腫瘍の中では最も頻度が高い疾患です。
悪性リンパ腫の原因
悪性リンパ腫の原因はほとんどわかっていません。
一部の悪性リンパ腫では原因が判明しているものもあり、たとえば MALTリンパ腫はヘリコバクター・ピロリ菌感染による慢性胃炎より発症します。ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は成人T細胞白血病リンパ腫の原因ウイルスです。
悪性リンパ腫の発症には遺伝子異常が関与しているとされています。染色体異常に伴う遺伝子の異常発現によってがん遺伝子が活性化し、リンパ系細胞ががん化すると考えられています。しかし遺伝子異常が起こる原因はわかっていません。
悪性リンパ腫の前兆や初期症状について
最初は首や脇、足の付け根などに痛みのないしこりが出現します。数週間〜数ヶ月かけて徐々に増大します。さらに進行するとしこりが全身に広がります。このしこりは通常痛みはなく、触ると弾性硬と呼ばれるゴムのような硬さです。高悪性度のような急速に進行するタイプの悪性リンパ腫は痛みを伴うことがあります。
お腹の中など体表に触れないリンパの腫れであれば、大きくなって周囲の臓器を圧迫するまで気が付かないこともあります。
また、B症状といわれる以下のような症状が出現することがあります。
38℃以上の発熱
6ヶ月で10%以上の体重減少
大量の寝汗(盗汗)
そのため、はじめは風邪症状と間違われることもあります。B症状は20%以下の患者さんに出現します。
悪性リンパ腫が出現する部位によってさまざまな症状が出現します。胃に出現すれば食思不振が出現し、脳であれば頭痛や精神症状、大腸であれば便秘など、部位によって症状が大きく異なります。リンパ腫によって気道を圧迫すると呼吸困難や、尿管を圧迫すると水腎症が起こり、その場合は緊急で治療が必要となる場合もあります。
悪性リンパ腫の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、血液内科、腫瘍内科です。悪性リンパ腫はリンパ系の悪性腫瘍であり、血液内科や腫瘍内科での診断と治療が行われます。
悪性リンパ腫の検査・診断
病型を調べる検査
病理検査
悪性リンパ腫はおよそ60種類以上の分類があります。この分類によって治療方針が異なるため、病理診断を正確に行うことが大変重要です。
診断のために腫れているリンパ節を生検し、採取された組織の細胞の形態やリンパ節構造の変化を観察し、免疫検査なども行い病理診断を行います。さらに、がん細胞にどういった表面抗原が発現しているかをみる細胞表面マーカー検査や染色体検査を確認し、総合的にどの病型のリンパ腫か確定診断を行います。
病期や予後を調べる検査
血液検査
肝機能や腎機能を確認し、臓器にリンパ腫が浸潤していないかを調べます。また、全身状態を調べ、治療が可能な全身状態であるかを確認します。予後因子の一つであるLDHや、病気の勢いを反映する可溶性IL-2レセプターなどを測定します
骨髄検査
腸骨に針を刺して骨髄液を採取し、リンパ腫の浸潤の有無を調べます。骨髄にリンパ腫が存在する場合は、ステージⅣと診断します。
髄液検査
脳や、脳を守る髄液へのリンパ腫の浸潤が疑われる場合に行われます。
画像検査
CT、エコー、MRI、PET CTなどで全身を検査し、病気の詳細な部位を確認します。
特に重要なのがPET CTです。がん細胞が正常の細胞に比べてブドウ糖を多く取り込むことを利用し、放射性薬剤を体内に投与し、その薬剤が腫瘍に取り込まれているのを特殊なカメラで撮影する検査です。
これによって悪性リンパ腫の広がりを精査し病期を判定します。
病期はAnn Arbor分類によってI〜Ⅳ期に分類されます。
予後因子について
病型によってさまざまな予後分類がされていますが、中〜高悪性リンパ腫で使用される予後因子にR-IPIがあります。R-IPIは以下の5項目で点数をつけ、数が多いほど予後が悪いとされています。
- 年齢61歳以上
- ステージⅢ以上
- 血清LDH>正常上限
- Performance Status 2以上
- 節外病変数2以上
悪性リンパ腫の治療
悪性リンパ腫は①病型、②病期、③予後因子を総合的に判断して治療方針を決定します。
治療は化学療法、放射線治療が中心です。
化学療法
悪性リンパ腫は化学療法を中心に治療を行います。
化学療法に抗体療法を組み合わせて行います。複数の抗がん剤を併用する多剤併用化学療法が行われます。近年は抗体薬といわれる、がん細胞に発現している抗原を標的とした薬剤が増えており、治療の手段が増えています。抗体薬は一般的な抗がん剤と異なり腫瘍細胞のみを標的とするため、抗がん剤と比較して副作用は少ないとされています。
ホジキンリンパ腫に対する化学療法は、ABVD療法(ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジン併用療法)が一般的に行われます。細胞表面マーカー検査でCD30抗原が陽性であれば、抗CD30モノクローナル抗体のブレンツキシマブベドチンと化学療法を組み合わせた治療を行うこともあります。
非ホジキンリンパ腫に対する化学療法は、がん化した細胞の種類、病期や悪性度によってそれぞれ異なる治療法を選択します。化学療法はCHOP療法(シクロホスファミド、ドキソルビシン、オンコビン、プレドニゾロン併用療法)が標準的な治療法ですが、悪性度によってはさらに強力な治療が用いられます。
抗体薬が使用できれば化学療法と抗体薬を組み合わせて治療を行います。
たとえば、B細胞に現れるCD20抗原を対象としたリツキシマブという抗体薬は、CD20を発現しているB細胞性非ホジキンリンパ腫に使用されます。腫瘍にCCR4が発現していればヒト化抗CCR4モノクローナル抗体のモガムリズマブを使用する場合があります。
初回の治療で寛解が得られなかった、もしくは再発した場合は、前回と異なる薬剤を組み合わせた救援化学療法を行います。さらに強力な治療を行う必要がある場合は、造血幹細胞移植を行うこともあります。
放射線治療
I〜Ⅱ期の限局した病変に対して行われます。化学療法と組み合わせて行うこともあります。
経過観察
年単位の経過でゆっくり進行する低悪性度リンパ腫の場合、無症状であれば治療のメリットよりも抗がん剤の副作用のデメリットが上回るとされます。その場合は定期的な画像検査や血液検査を行い、病気が進行した場合に治療に踏み切ります。
その他の治療
胃MALTリンパ腫で限局期の場合、ピロリ菌の除菌によりリンパ腫が寛解します。
治療効果判定
化学療法や放射線治療で治療終了したあと、PET CTを施行し腫瘍が消失しているかを確認します。腫瘍が消失している状態を寛解といい、寛解を達成したらしばらくの間再発がないかを丁寧にフォローアップします。
悪性リンパ腫になりやすい人・予防の方法
悪性リンパ腫の原因ははっきりしないので、特別な予防法はありません。
しかしながら予後分類でお示ししたとおり、早期に発見される悪性リンパ腫のほうが予後は良いことがわかっています。体表にリンパの腫れのようなしこりができた場合は病院を受診し、必要に応じて検査を行いましょう。
参考文献