

監修医師:
林 良典(医師)
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医、禁煙サポーター
【診療科目】
総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科
化膿性肝膿瘍の概要
化膿性肝膿瘍(かのうせい かんのうよう)は、細菌による感染によって、肝臓の中に膿(うみ)がたまる病気です。
肝臓に侵入した細菌が炎症を起こし、その部分の組織が壊れて膿がたまり、膿瘍(のうよう)と呼ばれる病変を作ります。この状態を放置すると、感染が全身に広がって敗血症や多臓器不全などの重篤な症状につながるおそれがあるため、早めの診断と治療が重要です。
肝臓は、身体にとって欠かせない解毒や代謝などを担う臓器です。そこに膿瘍ができると、全身の調子に大きな影響を及ぼします。病気が進むと、高熱が出たり、代謝のバランスが崩れたり、免疫の働きが異常に高まりすぎたりと、体全体が危険な状態になることがあります。
以前は、この病気で命を落とすことも珍しくありませんでしたが、今では抗菌薬の発達やCT・MRIといった画像検査の進歩により、早く見つけて治療することができるようになり、治療成績も大きく向上しています。ただし、高齢の方や糖尿病などの病気を持っている方は重症化しやすいため、特に注意が必要です。
化膿性肝膿瘍の原因
化膿性肝膿瘍の原因は、細菌が肝臓に侵入することによって起こります。もっとも多いのは、胆道系からの感染です。胆石や胆道の閉塞、胆管ステントの挿入といった処置をきっかけに胆道内で感染が起こり、そこから細菌が肝臓に波及して膿瘍が形成されます。また、胆管と腸をつなぐ手術(胆管腸管吻合)後や、総胆管・胆嚢・膵臓・乳頭部の悪性腫瘍がある場合にも、胆道感染を介して発症することがあります。
腸から細菌が門脈という血管を通って肝臓に届くケースもあります。例えば、虫垂炎、大腸憩室炎、腹膜炎、膵炎、あるいは消化管のがんや炎症性腸疾患などがきっかけになります。これらの病気によって腸内で炎症が生じ、細菌が血流に乗って肝臓へと運ばれることで感染が起こります。
さらに、口腔内の感染症や感染性心内膜炎、耳や鼻、喉の感染などから、細菌が血流(肝動脈)を通じて肝臓に到達することもあります。このような場合、全身感染や敗血症の一環として膿瘍が形成されることがあります。
その他、腹部の外傷や外科手術、ラジオ波焼灼術、化学塞栓術など、医療処置に伴って細菌が直接肝臓に侵入する場合もあります。隣接する臓器の炎症が肝臓に直接広がって感染が起こることもあり、いずれも背景にある病気や治療歴を丁寧に確認することが重要です。
化膿性肝膿瘍の前兆や初期症状について
初期の化膿性肝膿瘍では、はっきりとした症状が出にくく、見過ごされやすいのが特徴です。代表的な症状には、発熱と右上腹部の痛みがあります。熱は38度以上の高熱になることも多く、悪寒やふるえを伴う場合もあります。肝臓が腫れることにより右の肋骨下部に鈍い痛みや圧痛が出現し、進行すると吐き気や全身のだるさ、食欲不振がみられるようになります。
症状は非特異的で、風邪やインフルエンザと誤認されることもありますが、持続性がある場合には注意が必要です。また、膿瘍が大きくなったり複数形成されると、肝臓の機能に影響を及ぼし、黄疸や意識障害、ショックなど重篤な症状に進展することもあります。慢性化して発見が遅れると、膿瘍が破裂して腹膜炎を引き起こす危険性もあるため、早期の対応が求められます。
症状が発熱や倦怠感だけにとどまる場合でも、数日から1週間以上続くようであれば検査を受けるべきです。これらの症状がみられた場合には、速やかに消化器内科や感染症内科を受診し、血液検査や画像検査を受けましょう。
化膿性肝膿瘍の検査・診断
化膿性肝膿瘍が疑われる場合、まず血液検査が行われます。発熱や炎症反応の原因を調べるため、白血球数やCRP(C反応性タンパク)などの炎症マーカーが上昇していないかを確認します。肝機能検査でもASTやALT、ALP、γ-GTPの上昇がみられることがあります。さらに、血液培養により原因菌が特定されることもあり、抗菌薬の選択にも役立ちます。
画像診断は診断の決め手となります。腹部超音波検査(エコー)は非侵襲的で簡便なため、初期スクリーニングとして有用です。より詳細な評価には造影CTやMRIが使用され、膿瘍の大きさ、個数、位置、被膜の有無などが詳しく把握できます。膿瘍内部が低吸収域(液体)として映ることで診断がつきやすく、周囲臓器との関連や膿瘍の破裂リスクの判定にも有用です。
必要に応じて、エコーガイド下またはCTガイド下で膿瘍に針を刺して穿刺吸引することもあります。この処置により、膿を直接取り出して細菌培養や薬剤感受性検査を行い、起因菌を同定します。
化膿性肝膿瘍の治療
治療の基本は抗菌薬療法と膿瘍ドレナージです。まず、経験的に広域抗菌薬(セフェム系やカルバペネム系)を点滴で開始し、血液培養や膿培養の結果に基づいて、効果的な薬剤に切り替えます。治療期間は膿瘍の大きさや数、症状の重さにより異なりますが、一般に2〜6週間程度の投与が必要になります。
膿瘍の大きさが5cm以上であったり、症状が強い場合、あるいは抗菌薬のみでの改善が見込めない場合には経皮的ドレナージが適応となります。超音波やCTを使って、皮膚から肝臓内の膿瘍へチューブを留置し、膿を排出させます。これにより炎症を早期に鎮めることが可能となり、抗菌薬の効果も高まりやすくなります。ドレナージは1回の処置で終わるとは限らず、状態に応じて数日から数週間チューブを留置し、連日の洗浄や排膿が必要となる場合もあります。
ドレナージを行っても改善しない場合や、多発性膿瘍でチューブ挿入が困難なケースでは、外科的切開排膿が検討されることもあります。手術は侵襲が大きいため、一般的にはほかの治療が奏功しない場合に限って行われます。また、再発予防の観点からも、膿瘍の完全な排膿と原因菌の除去が重要となります。
加えて、基礎疾患(糖尿病・胆道感染など)のコントロールも同時に進めることが、再発の予防や全身状態の改善に不可欠です。血糖コントロールや胆管ドレナージなどの併用治療が求められることもあります。重症例では集中治療室での管理が必要となり、呼吸循環管理や補液・栄養管理、輸血など包括的な全身管理が必要です。入院期間は長期化することが多く、体力の回復と社会復帰には時間を要することもあります。
化膿性肝膿瘍になりやすい人・予防の方法
化膿性肝膿瘍は、免疫力が低下している方に起こりやすいとされています。特に糖尿病、高齢者、がん治療中などの方では、細菌に対する防御力が弱まっており、少量の菌でも膿瘍を形成しやすくなります。胆道感染や胆管ステント留置後の方、虫垂炎や腸管穿孔といった腹腔内感染症を経験した方も、肝臓に菌が波及しやすいため注意が必要です。
また、アルコールの多飲や栄養不良など、肝機能を低下させる生活習慣も発症リスクを高めます。衛生管理が不十分な医療環境や、感染予防対策の不徹底も背景要因となることがあります。外傷や手術の既往がある場合にも、血行性あるいは直接的に細菌が肝臓に到達する経路が生じることがあります。
予防には、まず基礎疾患の適切な管理が重要です。糖尿病の血糖コントロール、胆道疾患の治療、栄養状態の改善といった基本的な健康管理が膿瘍の発症を防ぐうえで有効です。また、発熱や腹部の不調が続いた場合には早めに医療機関を受診すること、感染症の治療を途中で中断しないことなど、日常的な注意も大切です。特に免疫力が低下している方では、些細な感染でも重篤化しやすいため、常に体調変化に敏感である必要があります。
関連する病気
- 肝膿瘍
- 胆道感染症
参考文献
- Lardière-Deguelte S, Ragot E, Amroun K, Piardi T, Dokmak S, Bruno O, Appere F, Sibert A, Hoeffel C, Sommacale D, Kianmanesh R. Hepatic abscess: Diagnosis and management. J Visc Surg. 2015 Sep;152(4):231-43.
- Huang CJ, Pitt HA, Lipsett PA, Osterman FA Jr, Lillemoe KD, Cameron JL, Zuidema GD. Pyogenic hepatic abscess. Changing trends over 42 years. Ann Surg. 1996 May;223(5):600-7; discussion 607-9.
- 青木武士, 清水喜徳, 安田大輔, 草野智一, & 草野満夫. (2006). 肝臓 肝膿瘍に対する治療. 臨床雑誌 外科, 68(12), 1545–1549.




