

監修医師:
大坂 貴史(医師)
肝吸虫症の概要
肝吸虫症は、肝吸虫という寄生虫による病気です。人が淡水魚を生や十分に加熱しないで食べたときに体に入ることで起こる病気です。肝吸虫は胆管という、肝臓から腸へ胆汁を送る細い管に住みつきます。肝吸虫の数が少ないと感染しても症状がないこともありますが、肝吸虫の数が多いと発熱や腹痛、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)などが出ることがあります。長い間寄生され続けると、肝硬変や胆管がんの原因にもなります。診断は、便の検査で肝吸虫の卵を確認することが基本です。治療は駆虫薬を使い、寄生虫を体から取り除きます。予防には、生の川魚を食べないことが最も大切です。特に東アジアや東南アジアの流行地に旅行で訪れる場合は必ずしっかりと加熱したものを食べるようにしましょう。
肝吸虫症の原因
肝吸虫が寄生した魚を食べると肝吸虫症になります。肝吸虫は人や犬、猫の胆管に寄生し、成虫は便とともに卵を外に出します。その卵が水辺に流されると巻貝に取り込まれ、幼虫へと成長します。この巻貝を魚が食べると、魚の筋肉に住みつきます。この状態の魚を人が食べると、体内に入り、胆管で成虫になります。このように、便 → 巻貝 → 魚 → 人というサイクルで感染が広がります。
肝吸虫は魚の中でもモツゴ、モロコ、フナ、ウグイ、コイなどの淡水魚に寄生します。十分に加熱されていないこれらの淡水魚を食べると感染する可能性があります。フナやウグイに比べてモツゴやモロコは特に感染率が高いと言われており、注意が必要です。
肝吸虫症の前兆や初期症状について
肝吸虫が少数の場合、多くは症状が出ません。肝吸虫の数が多いと、全身のだるさ、食欲不振、腹部の痛み、肝臓の腫大などの症状が見られます。そしてその後に下痢が続くことがあります。通常2〜4週間で落ち着きます。
肝吸虫に寄生され続けると、胆管の炎症、肝臓の萎縮、門脈の繊維化(繊維のように硬くなること)が起きることもあります。寄生虫が多い場合には胆管が詰まり、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)が出たり、貧血や腹水、浮腫、胆石、膵炎などを起こしたりすることもあります。胆管に膿が溜まって炎症を起こす化膿性胆管炎を引き起こすこともあります。さらに長期間感染が続くと、胆管がんになる危険性が高まります。
肝吸虫症の検査・診断
淡水魚を生で食べた、または東南アジアなどの流行地へ渡航した人が発熱、腹痛、黄疸、下痢などの症状をきたした場合に肝吸虫症が疑われます。そして、便から肝吸虫の虫卵が見つかれば肝吸虫症と診断されます。
しかし肝吸虫は1日にあまり多くの虫卵を産まないため、便を遠心分離機にかけて虫卵を沈殿させることで集める沈殿集卵法を行います。また、血液検査で抗体を調べたり、好酸球の増加を確認したりする方法もあります。これらは便に虫卵が出ていない早期でも有効な場合がありますが、肝吸虫が寄生していても必ずしも抗体や好酸球が増えるとは限らない点に注意が必要です。
肝吸虫症の治療
治療には、プラジカンテルという駆虫薬が使われます。この薬は体内に寄生している肝吸虫を駆除する薬で、通常1~3日間飲み続ける必要があります。プラジカンテルは副作用として吐き気や嘔吐、下痢、頭痛、腹痛、眠気、食欲不振、だるさ、発疹などが生じる可能性がありますが、いずれも一時的ですぐ消えることが多いです。また、妊婦さんや妊娠の可能性のある人は服用を避ける方が望ましいとされています。
プラジカンテルを数日飲むことで症状は収まることが多いですが、肝吸虫によって胆道が詰まってしまった場合は手術が必要になることもあります。
肝吸虫症になりやすい人・予防の方法
肝吸虫症は2010年代に感染者が世界全体で1,500万〜2,000万人に増加したと推定されています。中国、韓国、ベトナム、極東ロシアなどの東日本に多く分布し、淡水魚が感染源であることから河川流域や湖、沼の周辺で流行が見られます。。日本ではかつて秋田県、宮城県、石川県、岡山県、徳島県、佐賀県など各地の河川流域で発生が見られていましたが、現代はほぼみられなくなっています。
東南アジアのラオスではメコン川などの河川や湖、水田で採れる淡水魚を生食や発酵調味料で食べる習慣があります。そのため、これらの河川の淡水魚に寄生するタイ肝吸虫に感染して生じる肝吸虫症が問題になっています。住民の間では「ライム汁をかければ虫が死ぬ」と信じられていることも多いですが、科学的にはその効果は確認されていません。ラオスでは母親の92.9%、子どもの82.9%が肝吸虫に感染しているという報告もあり、感染者数はラオスとタイだけで1,000万人と推定されています。
予防の基本は、淡水魚を必ずよく加熱して食べることです。東アジアや東南アジアなどの流行地域では特に注意が必要です。発酵させた魚であっても発酵期間が短いと感染する可能性があります。また、ライム汁をかけても寄生虫は死なないため、誤った信じ込みに注意が必要です。
参考文献
- 矢崎義雄 et al.「内科學第11版」(朝倉書店、2017年) 357-358ページ
- 上村清 et al. 「寄生虫学テキスト 第4版」(文光堂、2019年)83-84ページ
- 石上盛敏「ラオスの肝吸虫について」(国立感染症研究所、最終閲覧日2025年8月22日)
- 宮崎利夫 et al. 「薬の辞典」(朝倉書店、2001年)545-546ページ




