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上田 莉子

監修医師
上田 莉子(医師)

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関西医科大学卒業。滋賀医科大学医学部付属病院研修医修了。滋賀医科大学医学部付属病院糖尿病内分泌内科専修医、 京都岡本記念病院糖尿病内分泌内科医員、関西医科大学付属病院糖尿病科病院助教などを経て現職。日本糖尿病学会専門医、 日本内分泌学会内分泌代謝科専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本医師会認定産業医、日本専門医機構認定内分泌代謝・糖尿病内科領域 専門研修指導医、内科臨床研修指導医

膵島細胞腫瘍の概要

膵島細胞腫瘍とは、膵島とよばれるホルモンを産生する小集団にできた腫瘍を指します。膵島細胞腫瘍は、膵臓神経内分泌腫瘍(NET)ともよばれ、機能性腫瘍と非機能性腫瘍に分けられます。機能性腫瘍では、インスリンやグルカゴンなど、増殖した細胞によって産生されるホルモンが過剰に分泌され、分泌されたホルモンに応じた症状を来します。 非機能性腫瘍では、ホルモンの過剰分泌はなく、症状を来しません。よって、症状を来す機能性腫瘍は早期に発見されることが多く、予後がよい傾向があります。非機能性腫瘍は、症状がないため、進行するまで発見されず、予後が悪くなる傾向があります。発見されるきっかけとしては、検診や、進行した結果、黄疸や、背部痛、膵炎などを来して受診するなど、さまざまなケースがあります。

膵島細胞腫瘍では、悪性度をstageⅠ期~ Ⅳ期で評価し、stageが上がるほど、腫瘍が悪化していることを示します。stageは、T(腫瘍の大きさと隣接する臓器への転移の有無)、M(リンパ節への転移の有無)、N(離れた臓器への転移の有無)で評価され、I〜 Ⅳ期へ分類されます。 機能性腫瘍は過剰分泌されるホルモンによってさまざまな種類があります。代表的な腫瘍を以下に示します。

ガストリノーマ

ガストリノーマは、胃酸の分泌を調節するホルモンガストリンを産生する細胞に生じた腫瘍です。ガストリンが過剰分泌されることにより、胃酸が増加します。その結果、消化性潰瘍や、逆流性食道炎による症状(腹痛、出血、胸やけなど)、下痢などを誘発します。ガストリノーマによる潰瘍は、再発しやすく治りにくい傾向があります。

インスリノーマ

インスリノーマは、血糖値を下げるホルモンインスリンを産生する細胞に生じた腫瘍です。インスリンが過剰分泌されることにより、低血糖発作を引き起こします。その結果、ほてり、発汗、倦怠感、食欲亢進、震えなどの自律神経症状や、意識障害、視覚異常、健忘症などの中枢神経症状を生じます。

グルカゴノーマ

グルカゴノーマは、血糖値を上げるホルモングルカゴンを産生する細胞に生じた腫瘍です。グルカゴンが過剰分泌されることにより、糖尿病や糖尿病予備軍の状態になったり、体重減少、遊走性壊死性紅斑という皮膚疾患、貧血などを生じたりします。

膵島細胞腫瘍の原因

膵島細胞腫瘍の原因はわかっていません。ただ、一部(5~10%)は、生殖細胞系遺伝子の病的変異に伴って遺伝的に発生します。また、多発性内分泌腫瘍症(MEN-1型)やフォン・ヒッペル・リンドウ病といった難病に合併して発症するケースが知られています。

膵島細胞腫瘍の前兆や初期症状について

膵島細胞腫瘍の初期症状は、腫瘍の種類によって異なります。主な腫瘍の初期症状は、以下のとおりです。膵島細胞腫瘍は、該当する腫瘍によって、多彩な症状を呈するため、初めは症状に応じた診療科を受診することになるかもしれません。実際に膵島細胞腫瘍が疑われる、もしくは確定診断が降りた後は、消化器内科や腫瘍内科などで治療を進めます。

ガストリノーマ

  • 消化性潰瘍による症状(みぞおちの痛み、黒色便、吐血など)
  • 逆流性食道炎による症状(腹痛、出血、胸やけなど)
  • 下痢

インスリノーマ

以下に示すような低血糖発作を起こします。空腹時の低血糖発作が多いですが、食事後に現れることもあります。

  • 自律神経症状(ほてり、発汗、倦怠感、食欲亢進、震え、動悸、不安など)
  • 中枢神経症状(意識障害、視覚異常(ものが複数見える、かすんで見えるなど)、健忘症、性格変化、てんかん、頭痛など)

また、低血糖発作を起こさず、けいれんや認知症症状が初期症状となる場合もあります。

グルカゴノーマ

  • 糖尿病、糖尿病予備軍
  • 体重減少
  • 遊走性壊死性紅斑
  • 貧血
  • 口唇炎、舌炎、胃炎

膵島細胞腫瘍の検査・診断

膵島細胞腫瘍の診断のために、問診、血液検査、画像検査、生理・病理検査が行われます。

血液検査

症状から推察される腫瘍から分泌されるホルモンの血中濃度を測定します。

画像検査

腫瘍が疑われた際は、超音波検査、CT検査、MRI検査などで腫瘍の場所や大きさ、数、転移の有無などを調べます。

生理・病理検査

画像検査において腫瘍と疑われる画像が確認された場合は、超音波内視鏡などを用いて細胞を採取します。採取した細胞ががん細胞であることを病理検査において確かめます。

膵島細胞腫瘍の治療

膵島細胞腫瘍の治療の第一選択は手術となります。進行していて手術が不可能な場合には、薬物療法を行います。

手術

手術により腫瘍の根治も期待できます。また、切除で腫瘍をすべて取り切ることが困難な場合でも、何割かを切除することによって、症状の緩和や予後の延長が期待できる可能性もあります。 ほかの臓器へ転移している場合でも、手術は可能です。膵島細胞腫瘍では腫瘍が肝臓に転移することが多く、肝臓に転移した腫瘍はすべてを切除できないことがあります。その場合は、カテーテルを使って肝臓のがん細胞を死滅させたり、針を用いて腫瘍を焼くラジオ波焼灼術などを行ったりします。 画像検査でリンパ節への転移が確認されない場合でも、検出されないほど小さな腫瘍が転移している可能性があるため、リンパ節を同時に切除するケースもあります。

薬物療法

ランレオチドや、エベロリムス、スニチニブが第一選択薬として推奨されています。ほかには、ストレプトゾシンやシスプラチンなどの化学療法も使用可能です。

ランオレチド(販売名;ソマチュリン)

成長ホルモンやインスリン、グルカゴンなどのホルモンの分泌を阻害する天然の抑制性ホルモンです。臨床試験にて投与された患者さんの約3.5%に徐脈(脈が遅くなること)の副作用が確認されています。ほかには、胃腸障害、注射部位痛、倦怠感などが5%以上の頻度で確認されています。また、長期間の使用により、胆石が形成されたとの報告もあります。

エベロリムス(販売名;アフィニトール)

がんが増殖するために細胞内で行われる情報伝達を止める薬です。高頻度で現れる副作用として、肺臓炎や間質性肺炎などの間質性肺疾患(11.6%)が報告されています。ほかのさまざまな感染症(28.9%)や、口内炎(62.1%)なども報告されています。

スニチニブ(販売名;スーテントカプセル)

がん細胞の血管新生や、増殖の情報伝達を止める薬です。高頻度で現れる副作用として、下痢(55.5%)、疲労(54.6%)、吐き気(46.8%)、口内炎(39.5%)などが報告されています。

膵島細胞腫瘍になりやすい人・予防の方法

膵島細胞腫瘍に特異的な予防法はありませんが、以下に示す一般的ながん予防を実践することが大切です。

  • たばこを避ける
  • 飲酒を控える
  • バランスのとれた食事をする
  • 適切な運動をする 歩行またはそれと同等以上の運動を1日60分、 息がはすみ汗をかくほどの運動を1週間に60分
  • 体重を適切な範囲内に保つ 中高年男性;BMI21~27、中高年女性;BMI21~25

関連する病気

  • インスリノーマ(Insulinoma)
  • ガストリノーマ(Gastrinoma)
  • グルカゴノーマ(Glucagonoma)
  • ソマトスタチノーマ
  • VIPoma(ヴァソアクティブ腸管ペプチド腫瘍)
  • 非機能性膵内分泌腫瘍(Non-functioning PNET)

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