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林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
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アルコール性肝硬変の概要

アルコール性肝硬変(あるこーるせいかんこうへん)は、長期間にわたって過度の飲酒を続けることによって、肝臓に慢性的な炎症が生じ、肝細胞が徐々に破壊され、それに伴って線維化が進行し、最終的に肝臓の構造や機能が大きく損なわれる疾患です。
これはアルコール性肝障害の終末像にあたり、前段階としてアルコール性脂肪肝アルコール性肝が知られています。初期にはほとんど自覚症状がないため、健康診断などで異常を指摘されるまで病気に気付かないことも少なくありません。

肝硬変にまで進行すると、肝臓の持つ本来の再生能力では回復が追いつかず、肝機能は著しく低下します。これにより、門脈圧亢進症に起因する食道静脈瘤、腹水、黄疸、肝性脳症などの重篤な合併症が出現し、日常生活や社会活動に支障を来すばかりでなく、生命予後にも深刻な影響を及ぼすことになります。特に、肝性脳症による認知機能の低下や行動異常は、患者さん本人のみならず家族や周囲にも大きな負担となります。

アルコール性肝硬変と診断された場合、何よりもまず完全な断酒が治療の出発点となります。断酒の可否はその後の治療経過に大きな影響を与える要素であり、断酒が困難な場合には再燃や症状の悪化が避けられません。そのため、患者さんの生活習慣を見直し、周囲の支援体制を整えることも、治療の一環として重要です。

アルコール性肝硬変の原因

アルコール性肝硬変の最大の要因は、長年にわたる過剰なアルコール摂取です。肝臓はアルコールの主な代謝臓器であり、アルコールを代謝する過程で生成されるアセトアルデヒドは、強い細胞毒性を持ち、肝細胞を直接傷害します。さらに、アセトアルデヒドの蓄積によって免疫反応が活性化され、慢性的な炎症を引き起こすとともに、肝臓内の星細胞を刺激してコラーゲン産生を促進し、線維化の進行を助長します。

また、アルコール代謝に伴って発生する活性酸素種は、酸化ストレスを増加させ、細胞膜やミトコンドリアを傷害し、肝細胞の機能をさらに低下させます。こうした肝障害の進行には、飲酒量や期間のみならず、遺伝的な酵素活性の差、性別、年齢、栄養状態、肥満、糖尿病の有無、B型およびC型肝炎ウイルスとの共感染といった多くの因子が影響します。特に女性は、アルコール脱水素酵素やアルデヒド脱水素酵素の活性が男性よりも低いため、同じ飲酒量でもより強い肝障害を受けやすいとされています。

一般に、男性では日本酒5合相当(純アルコール約100g)の飲酒を20〜30年間継続することで、肝硬変へ進行するリスクが高まるとされており、女性ではそのおよそ3分の2の飲酒量を12〜20年続けた場合でも同様の進展がみられます。これらはあくまで目安であり、実際のリスクは遺伝的素因や性別、併存疾患、栄養状態などによって大きく左右され、より少量・短期間で肝障害を発症する例も少なくありません。

アルコール性肝硬変の前兆や初期症状について

アルコール性肝硬変の初期段階では、明確な症状が現れにくく、多くの場合は倦怠感や疲れやすさ、食欲不振、軽度の体重減少、腹部の不快感や膨満感など、一般的な体調不良と区別がつきにくい非特異的な症状のみがみられます。これらの症状はストレスや生活習慣の乱れによるものと誤解されやすく、医療機関の受診が遅れる一因となります。

やがて病状が進行すると、肝臓の機能が著しく低下し、黄疸(皮膚や白目の部分が黄色くなる)、腹水の貯留、下肢の浮腫、皮下出血や歯茎からの出血などの出血傾向、手のひらの赤み(手掌紅斑)、くも状血管腫といった身体所見が明らかになってきます。また、肝性脳症が生じると、軽度の注意力低下や日中の傾眠傾向から始まり、次第に意識障害や異常行動、昏睡に至ることもあります。

男性では、肝機能の低下に伴いホルモンバランスが崩れ、女性化乳房や睾丸萎縮といった内分泌異常が出現することもあります。これらの症状は病気の進行を示すサインであり、早期に医療機関を受診する必要があります。特に長年飲酒を続けてきた方や、体調不良が慢性化している方は、消化器内科肝臓内科などの専門診療科を早めに受診し、血液検査や画像診断などを受けることが重要です。

アルコール性肝硬変の検査・診断

まず、問診では長期的な飲酒習慣や飲酒量、既往歴、家族歴、併存疾患(特に肝炎ウイルス感染や糖尿病など)の有無を詳しく確認します。身体診察では、黄疸、腹水、手掌紅斑、くも状血管腫、肝腫大、脾腫、浮腫など、肝硬変に特徴的な身体所見を評価します。

血液検査では、ASTやALT、γ-GTP、ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間(PT)、血小板数などを測定し、肝機能の低下や線維化の進行状況を把握します。また、Child-Pugh分類やMELDスコアなどの重症度・予後予測指標を用いて全体的な病態を評価します。画像検査としては、腹部超音波を第一選択とし、肝臓の表面不整、萎縮、脾腫、門脈の拡張、腹水の有無などを観察します。さらに必要に応じてCTやMRIを行い、肝臓の質的変化や肝細胞がんの合併の有無を詳細に確認します。

肝線維化の進行度を非侵襲的に評価する方法として、フィブロスキャン(肝硬度測定)MRエラストグラフィーを行うこともあります。診断の確定や詳細な病理評価が必要な場合には、肝生検を行うこともありますが、出血リスクなどを踏まえて慎重に適応を判断します。これらすべての情報を総合的に解析し、アルコール性肝硬変の診断と病期評価を行います。

アルコール性肝硬変の治療

アルコール性肝硬変の治療の中心は、断酒の徹底です。長期にわたって飲酒によって蓄積された肝障害は、断酒によってその進行を食い止めることができます。断酒を継続することは、病状の安定化や肝機能の回復を目指すうえで大変重要であり、これが行えなければ治療効果は期待できません。断酒が難しい場合には、アルコール依存症への対応が必要であり、精神科や依存症外来と連携して支援を行います。

また、栄養管理も治療において重要な役割を果たします。アルコール性肝硬変の患者さんでは栄養不良やサルコペニア(筋肉量の減少)がしばしばみられ、病気の経過に悪影響を及ぼします。エネルギーとたんぱく質を十分に摂取するよう指導し、ビタミンやミネラル(特に亜鉛やビタミンB群)の補給も必要に応じて行います。

病状や合併症に応じた対症療法も実施します。腹水や浮腫に対しては塩分制限とともに、利尿薬(スピロノラクトン、フロセミドなど)を使用します。肝性脳症にはラクツロースなどを処方します。出血傾向がある場合には、凝固因子製剤やビタミンKの投与を検討します。また、肝細胞がんの合併リスクが高いため、6ヶ月ごとの画像検査(超音波、CT、MRI)と腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-II)による定期的なモニタリングを行います。

進行した肝硬変で難治性の腹水、反復する肝性脳症、肝がんなどがみられる場合には、肝移植が治療選択肢となります。アルコール性肝硬変に対する肝移植では、術前に6ヶ月以上の断酒が求められることが一般的であり、精神的・社会的支援体制の有無も含めて専門施設で評価が行われます。

アルコール性肝硬変になりやすい人・予防の方法

アルコール性肝硬変は、長期間にわたって多量の飲酒を継続している方に多くみられます。目安としては、男性で日本酒5合相当(約100gの純アルコール)を20〜30年にわたり摂取した場合に、肝硬変へ進行する可能性が高まるとされています。また、女性はアルコール代謝酵素の活性が男性よりも低く、同量の飲酒でも肝障害を受けやすい傾向にあります。加えて、肥満、糖尿病、B型・C型肝炎ウイルスとの併存、栄養不良などがあると、少量の飲酒であっても肝障害が進行しやすくなるため、これらのリスクを持つ方は特に注意が必要です。

予防には、日常的な飲酒量の管理と、週2日以上の休肝日の確保が有効です。純アルコール摂取量は1日20g以下に抑えることが推奨されており、自身の飲酒パターンを記録しながら見直すことが効果的です。

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