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林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
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肝血管腫の概要

肝血管腫(かんけっかんしゅ)は、肝臓に発生する頻度の高い良性腫瘍の一つで、肝臓内の血管が拡張してスポンジ状の構造を形成することから海綿状血管腫とも呼ばれます。 年齢や性別を問わず見られますが、特に中年以降の女性に多い傾向があるようです。腫瘍の大きさは数ミリから数cm程度が一般的ですが、まれに10cmを超える巨大肝血管腫となる場合もあります。

通常は症状を伴わず、健康診断や人間ドックで行われる腹部超音波検査やコンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴画像(MRI)といった画像検査によって偶然に見つかることが多いです。悪性化の報告はまれで、命に関わるリスクはごく限られています。したがって、多くの例では定期的な経過観察のみで対応され、積極的な治療を必要としません。 ただし、腫瘍の拡大により周囲の臓器を圧迫するようになると、自覚症状が出現する場合があり、その際には治療の必要性を再評価することがあります。また、まれながら腫瘍内出血や凝固障害などの合併症を生じることもあるため、画像検査所見や症状の変化には注意が必要です。

肝血管腫の原因

肝血管腫の発症には、胎児期における血管構築の異常、すなわち先天的な血管形成異常が関与していると考えられています。生まれつき存在する異常な血管構造が、加齢に伴って徐々に拡張・増大し、腫瘍として認識されるようになるとされています。 さらに、女性に多くみられることから、ホルモンの影響も注目されています。特に妊娠や経口避妊薬の使用など、エストロゲン分泌が関与する状況下で腫瘍が大きくなることがあるため、女性ホルモンが成長に影響を与える可能性が示唆されています。

一方で、アルコール摂取、肝疾患、生活習慣、外傷、特定の食品などとの直接的な因果関係については、現時点では明確な科学的根拠が示されていません。また、複数の病変が同時に存在する多発性肝血管腫や、ほかの血管性腫瘍との合併がみられる例もあり、背景に複雑な因子が関与している可能性があると考えられています。個人差の大きい病変といえるでしょう。

肝血管腫の前兆や初期症状について

肝血管腫は大部分が無症状で経過し、日常生活に支障をきたすことはまれです。しかし、腫瘍が一定以上の大きさになると、周囲の臓器や組織への圧迫が生じ、身体の不快感として症状に現れることがあります。具体的には、右上腹部の重苦しさや不快感、腹部の張り、鈍い痛みなどが報告されており、特に10cmを超える巨大肝血管腫でこれらの症状が目立ってきます。

また、腫瘍によって消化管の動きが妨げられると、早期の満腹感や食欲低下、吐き気といった消化器症状がみられることもあります。進行すると便秘や下痢など排便習慣の変化を訴えるケースもあります。これらの症状はほかの消化器疾患と似通っており、肝血管腫との関連が見落とされることも少なくありません。

さらに、ごくまれではありますが、腫瘍内出血をきたすと激しい腹痛や腹部の硬直、血圧低下などのショック症状が出現し、緊急の対応が必要になる場合もあります。重篤なケースとしては、カサバッハ・メリット症候群(Kasabach-Merritt症候群)と呼ばれる合併症があり、これは血小板の著明な減少や播種性血管内凝固(DIC)を伴って全身状態が急激に悪化する重篤な病態です。

このように、肝血管腫に伴う症状は多彩であり、ほかの肝疾患や消化器疾患との鑑別が難しいこともあります。画像検査で腫瘍が見つかった場合や、持続する腹部症状がある場合には、消化器内科や肝臓専門医の診察を受け、必要に応じて定期的な経過観察を行いましょう。

肝血管腫の検査・診断

肝血管腫は、主に健康診断や人間ドックで実施される画像検査をきっかけに発見されます。初期段階では無症状であることがほとんどのため、症状から診断に至ることは少なく、偶然に見つかるケースが大部分を占めます。

診断の初期に用いられるのは腹部超音波検査で、肝血管腫は境界が明瞭で内部が高エコーの結節として描出されることが多く、典型的な所見であればこの段階でかなりの確度で診断がつきます。 さらに詳しい評価や診断の確定には、造影CTやMRIといった詳細な画像検査が行われます。なかでも造影CTは、腫瘍の血流パターンを調べるのに有効で、肝血管腫に特徴的な所見が確認されます。具体的には、検査の初期段階(動脈相)で腫瘍の外側(辺縁)部分にだけ造影剤が集まり、時間の経過とともに内側(中心部)まで徐々に広がっていくという辺縁染まりから中心へ向かう造影パターンが現れます。 同様に、MRIではT2強調画像という撮影方法で、肝血管腫が水分を多く含んでいるために白く明るく(高信号)写ることが多く、造影剤を使った場合にも造影CTと似たようなパターンがみられます。

これらの典型的な画像所見がそろっている場合は、肝血管腫と診断できる根拠が十分であり、多くのケースで追加検査を行わずに診断が確定されます。また、腫瘍が変化していないかを確認するためには、こうした画像検査を定期的に行い経過を観察していくことが重要です。 一方で、画像所見が非典型的であったり、転移性肝腫瘍や肝細胞がんなどほかの腫瘍性病変との区別が困難な場合には、造影超音波や肝シンチグラフィ、さらには組織診断のための生検を検討することがあります。ただし、肝血管腫は血管性病変であるため、生検には出血のリスクが伴い、慎重な判断が必要です。

肝血管腫の治療

肝血管腫は良性の腫瘍であり、症状がなければ治療の必要はなく、経過観察が基本となります。定期的な画像検査によって腫瘍の大きさや性状に変化がないかを確認しながら、半年〜1年ごとの間隔で超音波やCTを用いたフォローアップを行います。

ただし、腫瘍が拡大傾向にある場合や、10cmを超える巨大肝血管腫により腹部の圧迫症状や不快感が強く現れている場合には、治療を検討することがあります。主な治療法としては、外科的切除(肝部分切除)やカテーテルを用いた動脈塞栓術(TAE:Transcatheter Arterial Embolization)などが挙げられます。 外科手術は、症状が顕著で、出血やカサバッハ・メリット症候群などの合併症のリスクがある場合に行われますが、侵襲が大きく合併症のリスクもあるため、慎重な判断が求められます。一方、TAEは腫瘍への血流を遮断して縮小を図る低侵襲な治療法で、手術の代替手段として選択されることがあります。ただし、長期的な有効性や安全性についてはさらなる研究が必要とされています。

肝血管腫になりやすい人・予防の方法

肝血管腫の発症には、胎児期の血管形成異常が関与しているとされ、現時点で有効な予防法は確立されていません。しかし、女性に多く見られることや、妊娠中や経口避妊薬の使用中に腫瘍が増大する傾向があることから、エストロゲンなどの女性ホルモンが腫瘍の成長に影響を及ぼす可能性が指摘されています。

これらの状況下で新たに腫瘍が発生するわけではなく、もともと存在していた腫瘍がホルモン環境の変化によって拡大しやすくなると考えられています。そのため、妊娠中やホルモン製剤の使用中には、経過観察の頻度や検査間隔を調整することが検討されます。 生活習慣や食事、飲酒との直接的な関連性は明確ではありませんが、肝臓全体の健康を維持するという意味では、肝機能に配慮した生活を送ることが望ましいでしょう。また、定期的な健康診断を受けることで、無症状のうちに肝血管腫を発見し、必要に応じて適切な対応をとることが可能になります。

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