

監修医師:
大坂 貴史(医師)
C型急性肝炎の概要
C型肝炎は、C型肝炎ウイルス(HCV)が肝臓に感染することで発症する病気です。急性肝炎として発症することもあれば、慢性的に進行し、最終的に肝硬変や肝がんへと移行することがあります。C型急性肝炎を発症した場合は体のだるさや食欲不振が主な症状となります。感染経路としては血液を介した感染が主で、特に静脈注射や医療従事者の針刺し事故などが原因となります。C型急性肝炎の治療は基本的に対症療法を行うのみで、自然に回復していきます。しかし、60~70%という高確率で慢性肝炎に移行するため、その場合は抗ウイルス薬で治療します。(参考文献1)
C型急性肝炎の原因
C型肝炎ウイルス(HCV)は主に血液を介して感染します。以前は輸血による感染が主な原因でしたが、日本では1989年以降、献血時のHCV抗体スクリーニングが導入され、輸血による感染は大幅に減少しました。現在では、静脈注射薬の使用、針刺し事故、感染者との血液接触、性的接触などが感染経路として知られています。妊娠中の母子感染もまれに報告されています。(参考文献1,2)
C型急性肝炎の前兆や初期症状について
C型肝炎の症状は非常に多様です。急性C型肝炎では、初期に体のだるさや食欲不振が見られ、その後、吐き気や嘔吐、右上腹部の痛み、上腹部膨満感、茶色の尿などの症状が出現し、続いて黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)が現れることもあります。しかし、C型急性肝炎はA型やB型急性肝炎に比べて症状が軽く、意識障害などの重篤な症状を起こすことはまれです。
C型肝炎ウイルスに感染しC型急性肝炎を発症した場合、30~40%では症状が治まると共にウイルスは検出されなくなり、肝機能も正常化します。しかし、残りの60~70%ではC型肝炎ウイルスは持続的に感染し、慢性肝炎に移行します。慢性肝炎となってしまった場合、自然にウイルスが排出されていなくなる確率は0.2%と非常にまれです。10~16%では初感染の時から平均で20年後に肝硬変に進展します。そして肝硬変となった場合は年に5%以上の高確率で肝細胞癌を発症すると言われています。(参考文献2)
C型急性肝炎の検査・診断
C型肝炎の診断は、血液検査によって行われます。採取した血液を用いて主に以下の2つの検査が行われます。
HCV-RNA検査:C型肝炎ウイルスの遺伝子を検出する。感染初期に陽性になる。 HCV抗体検査:C型肝炎ウイルスに対する抗体を検出する。感染初期は陰性で、数週間後に陽性になる。
また、肝機能検査ではALTやASTの上昇、総ビリルビン高値(特に直接ビリルビンの上昇)が認められます。
発症初期にHCV-RNAが陽性となり、その後、HCV抗体が陽転化することでC型急性肝炎であると確定診断されます。ただ、医療機関受診時にすでにHCV抗体が陽性であると、慢性肝炎との鑑別が難しくなります。このような場合は以前C型急性肝炎にかかったことがあるかを確認されたり、肝生検が必要になったりすることがあります。(参考文献2)
C型急性肝炎の治療
急性C型肝炎では、原則として薬物療法を行わず、安静と低たんぱく食による対症療法を行います。発症から6週間後にもHCV-RNAが陽性でC型肝炎の慢性化が見られた場合には、直接作用型抗ウイルス薬DAA(Direct-acting Antiviral Agents)による治療が検討されます。 慢性C型肝炎の治療では、以前はインターフェロン(IFN)療法が主流でしたが、現在ではDAAが治療の中心となっています。DAAはC型肝炎ウイルスの増殖に必要なタンパク質を直接阻害し、高い治療成功率を誇ります。特にプロテアーゼ阻害剤、ポリメラーゼ阻害剤、NS5A阻害剤といった薬剤の併用療法により、多くの患者で「持続的ウイルス陰性化(SVR)」が達成されています。 これは、C型肝炎ウイルスが検査で検出されないほど排除できた状態が継続していることを意味します。また、インターフェロン療法が無効で肝機能障害が認められる場合には、肝細胞の損傷や線維化の進行を抑える肝庇護療法という治療が行われます。(参考文献1,2)
C型急性肝炎になりやすい人・予防の方法
C型急性肝炎の発生は、日本では年間50例程度と報告されています。急性肝炎全体のうち約10%を占め、劇症化することはまれ(0.5%)ですが、慢性化するケースが多いことが特徴です。慢性肝炎に進行すると、20~40年の経過で肝硬変や肝細胞癌へと移行するため、早期の検査と適切な治療が重要です。現在、日本では年間約3万人が肝細胞癌で亡くなっていますが、その約8割がC型肝炎を伴っています。(参考文献1,2)
C型肝炎のワクチンは現在のところ実用化されていません。C型肝炎ウイルスは遺伝子が非常に多様で、ウイルスを無効にするような抗体が産生されにくいという特徴があります。これがワクチンの開発を難しくしています。
そのため、C型肝炎の予防には、感染経路を遮断することが重要です。日本では1999年以降、輸血用血液の安全性を確保するため、HCVの核酸増幅検査(NAT)が導入され、輸血による感染リスクは大幅に低下しました。しかし、血液を介した感染リスクが完全になくなったわけではなく、針刺し事故や静脈注射薬の使用などに注意が必要です。(参考文献2)
参考文献
- 1. 矢崎義雄「内科學第11版」(朝倉書店、2017年)1064‐1066ページ
- 2. 国立感染症研究所 ウイルス第二部「C型肝炎とは」(国立感染症研究所、最終更新日2013年6月19日、最終閲覧日2025年2月28日)




