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膵神経内分泌腫瘍
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

膵神経内分泌腫瘍の概要

膵神経内分泌腫瘍は、膵臓に存在する神経内分泌細胞が腫瘍化した、比較的まれな疾患です。ホルモンを過剰に分泌して特有の症状を引き起こす「機能性」のものと、ホルモン症状がみられない「非機能性」のものに分類されます。機能性の場合、インスリノーマやガストリノーマなどの病型によって、低血糖、潰瘍、皮膚症状など多彩な臨床像を呈します。一方で非機能性の膵神経内分泌腫瘍は無症状で経過することも多く、偶然の画像検査で発見されることもあります。診断には血液・尿検査、画像診断、病理診断が重要です。手術での治療が可能な場合には手術が第一選択であり、進行例には薬物療法や放射線療法など集学的治療が行われます。遺伝性疾患との関連も指摘されており、多発性内分泌腫瘍1型やvon Hippel-Lindau 病の患者で発症しやすいことが知られています。

膵神経内分泌腫瘍の原因

神経内分泌細胞はホルモンや神経伝達物質といった体の働きを調節する物質を作る細胞です。これらの細胞は、膵臓や消化管、肺、副腎などの臓器に幅広く存在します。何らかのきっかけで、これらの細胞が無秩序に増殖するようになると神経内分泌腫瘍になります。神経内分泌細胞は全身に存在するため、様々な部位に神経内分泌腫瘍ができることがありますが、消化器に発生するものが全体の 60%で、中でも代表的なものが膵神経内分泌腫瘍です (参考文献 1) 。

神経内分泌腫瘍は2000年あたりまで「カルチノイド」と呼ばれていました。カルチノイドは「がんもどき」という意味ですが、カルチノイドと分類されていた腫瘍でも遠隔転移をする例が少なくなく、「がんもどき」だと誤ったイメージを持ちかねないということで神経内分泌腫瘍と名前が変わった経緯があります (参考文献 1) 。

膵神経内分泌腫瘍の前兆や初期症状について

膵神経内分泌腫瘍には、分泌するホルモンによって症状が出る「機能性」のタイプと、ほとんどホルモン関連の症状が出ない「非機能性」のタイプがあります。機能性の場合は、分泌されるホルモンによって症状が異なります。代表的な膵神経内分泌腫瘍の初期症状は次のようなものです (参考文献 2)。

  • インスリノーマ: 血糖値を下げるインスリンというホルモンを出しすぎることによる、めまいや動悸、手足のふるえ、ひどいときには意識がぼんやりするなどの低血糖症状が起こりやすくなります。
  • ガストリノーマ: 胃酸を増やすホルモンが過剰に出るため、胃や十二指腸の潰瘍や腹痛、胸やけといった症状が出ることがあります。慢性の下痢や体重の減少も症状のひとつです。
  • グルカゴノーマ:皮膚の発赤・発疹が症状として現れるほか、体重が減ることがあります。
  • ソマトスタチノーマ:食べ物の消化に関わる様々なホルモンや消化管の動きを抑制するホルモンが分泌されます。症状としては腹痛、高血糖、胆石症、便が白く脂っこくなる (脂肪便)、下痢があります。
  • カルチノイド症候群(胃腸や肺など): 顔がほてったり(紅潮)、下痢、息苦しさなどが起こります。

これらの機能性の膵神経内分泌腫瘍を疑うような症状があれば内科を受診してください。

一方で、非機能性の膵神経内分泌腫瘍はホルモン分泌過剰による症状が出づらいです。そのため検診や人間ドックで偶然見つかったり、腫瘍が大きくなってから「なんだかお腹が痛い」「食欲が落ちた」といった、漠然とした症状に対する検査で見つかることがあります。

膵神経内分泌腫瘍の検査・診断

膵神経内分泌腫瘍が疑われる場合には、血液検査や尿検査でホルモンや関連するマーカーの測定をします。 血液検査の結果や症状、家族歴から膵神経内分泌腫瘍疑わしいと考えられる場合には、エコーやCTやMRなどの画像検査を行い、腫瘍がどこにあるのかや、大きさ、ほかの場所への転移がないかを調べます。

分泌するホルモンのタイプによっては内視鏡で特徴的な初見が得られる場合があります。例えばガストリノーマは胃酸分泌が増えるため、消化性潰瘍ができやすくなります。また、内視鏡検査と同時に腫瘍の生検も行われます。

生検組織の病理診断の結果、膵神経内分泌腫瘍のなかでも特に増殖能が高く悪性度が高いと判断されるものは「膵神経内分泌がん」と呼ばれるほか、それ以外のものも病理診断によりグレード1~3まで細かく分類されます (参考文献 2)。

膵神経内分泌腫瘍のタイプや進行度を総合的に判定して、適切な治療方針を組み立てていきます。

膵神経内分泌腫瘍の治療

腫瘍を物理的に取り除くことで治癒を目指せると判断されれば、手術での切除が第一選択です (参考文献 2) 。手術が難しい場合や、すでにほかの臓器に転移している場合には、様々な治療法を組み合わせて疾患をコントロールします。

薬物療法としては従来から用いられているような抗がん剤に加えて、ホルモン分泌を抑える薬剤、標的を選択的に攻撃する分子標的薬を使うことが一般的です (参考文献 2, 3) 。最近ではホルモン受容体に放射性物質をくっつけた薬剤を投与して、治療標的を選択的に放射線で攻撃する治療 (放射性核種標識ペプチド治療; PPRT) が注目されています。

薬物療法の他にはカテーテルで腫瘍に流れる血液を止める方法や、転移巣への放射線照射、腫瘍の減量によってホルモン症状や閉塞症状などを改善することを目的とした腫瘍減量手術などの方法があります (参考文献 2) 。

膵神経内分泌腫瘍になりやすい人・予防の方法

膵神経内分泌腫瘍には一部遺伝性疾患の側面があります。多発性内分泌腫瘍1型 (MEN1) やvon Hippel-Lindau (フォン・ヒッペル・リンドウ) 病などの遺伝性疾患の患者やその家族で発生しやすいことが知られています (参考文献 3) 。

膵神経内分泌腫瘍と分かったときに遺伝子検査の提案をされる場合があります。遺伝性素因を有していることが明らかとなれば、患者本人は、遺伝素因ごとに知られている罹患リスクの高い疾患に対して、先手先手での検査が可能になります。他の血縁者にとっても関連疾患の早期発見や重症化予防につながるでしょう。しかしながら「遺伝性疾患である」と分かることは本人や血縁者、関係者にとって大きなイベントですので、検査をするかどうかを家族や医療スタッフとよく相談することをお勧めします。

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