

監修医師:
吉川 博昭(医師)
胆のう腺筋症の概要
胆のう腺筋症は、胆のうの壁が全体的もしくは部分的に厚くなる原因不明の良性疾患です。 胆のう壁の内部に「ロキタンスキー・アショフ洞(RAS)」という袋状の空間が現れ、それが増殖・拡張することで胆のう壁が厚くなっていきます。
40〜60歳代に多く、女性よりも男性のほうが発症率が高いことが報告されています。 出典:胆道「胆嚢腺筋腫症の疫学と診断」
胆のうは肝臓の下にある袋状の臓器で、胆管の途中につながっており、肝臓で作られた胆汁をためる役割を果たしています。 胆汁は食べ物の消化や吸収に重要なはたらきをします。
胆のう腺筋症は、病変の場所や広がりによって3つのタイプに分類されます。 胆のうの底を中心に肥厚する「限局型」、全体に肥厚する「びまん型」、胆のうの中央が肥厚してくびれができる「分節型」があります。 分節型では、胆汁が胆のう内にたまりやすくなり、胆石が形成されることがあります。
胆のう腺筋症は自覚症状が少なく、健康診断などで実施した腹部超音波検査などがきっかけで偶然発見されることが多いです。 しかし、胆のう腺筋症によって胆石症や胆のう炎を合併した場合は、右上腹部痛や腹部膨満感、吐き気、背中の痛みなどの症状が現れることがあります。
診断は主に腹部超音波検査などの画像診断でおこなわれます。 特に重要なのは、同じく胆のうの壁が肥厚する胆のうがんとの鑑別です。 鑑別のために、超音波内視鏡検査やMRI検査などの精密検査が必要になることもあります。
治療は主に経過観察が選択されます。 胆のう腺筋症の発症が発覚した後は、定期的に腹部超音波検査によって胆のうの状態を観察し、合併症の出現や胆のうがんのリスクについて確かめることが重要です。 胆のうがんの可能性が高い場合や、腹痛などの症状が伴う場合は、胆のう摘出術が検討されることもあります。
胆のう腺筋症の原因
胆のう腺筋症の明確な原因は解明されていませんが、いくつかの仮説が報告されています。 現時点では一部の研究で、胆のう内圧の上昇が胆のう壁の変化を引き起こす可能性や、加齢および性に関連する内分泌の変化が胆のう組織の増殖性変化を促す可能性があるとされています。
しかし、これらの仮説はまだ十分な科学的根拠を得る段階には至っておらず、さらなる研究が必要とされています。
胆のう腺筋症の前兆や初期症状について
胆のう腺筋症は多くの場合、無症状で経過し、特有の症状がありません。 しかし、胆石症や胆のう炎を合併している場合は、右上腹部やみぞうち辺りに痛みや違和感が生じます。
そのほか、腹部膨満感や吐き気、背中の痛みなどの症状が現れることもあります。 これらの症状は、胆石の形成や胆のうの炎症によって、胆汁の流れが妨げられることで引き起こされます。 特に脂肪分の多い食事を摂った後に、これらの症状が顕著に現れやすくなります。
胆のう腺筋症の検査・診断
胆のう腺筋症の診断は主に画像診断によっておこなわれます。 画像診断の第一選択として使用されるのは、腹部超音波検査です。 腹部超音波検査では、胆のう壁の肥厚やロキタンスキー・アショフ洞の存在、胆石の有無を確認します。
腹部超音波検査で胆のうがんとの鑑別が困難な場合、MRI検査やCT検査などのより詳細な画像診断が必要になることがあります。 特にMRI検査は、胆のうの立体像を映し出せることで、ロキタンスキー・アショフ洞を明確に確認できるため、診断の正確性が高いとされています。
さらに必要に応じて、消化管から直接超音波検査をおこなう「超音波内視鏡検査(EUS)」や、内視鏡によって胆管を造影する「内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)」などが検討されることもあります。
最終的な確定診断のためには、問診や画像診断からほかの疾患の可能性を除外し、胆のう壁の肥厚、肥厚した胆のう壁内部のロキタンスキー・アショフ洞の存在を確認する必要があります。
胆のう腺筋症の治療
胆のう腺筋症は多くの場合、無症状で経過するため、経過観察が基本となります。 通常、年に1回程度の腹部超音波検査による定期的な観察がおこなわれます。
右上腹部の痛みや違和感、吐き気などの自覚症状がある場合や、胆のうがんの可能性が否定できない場合は、胆のう摘出術が検討されます。 胆のう摘出術の方法は、患者への負担が少ない腹腔鏡下手術が選択されることが多くなっています。 腹腔鏡下手術はお腹に小さな穴を開けて器具を挿入し、モニターを確認しながら胆のうを摘出します。
胆のうがんの可能性が高い場合や、胆のう壁の肥厚が著しい場合などは、より詳細に観察できる開腹手術が選択されることもあります。
胆のう腺筋症になりやすい人・予防の方法
胆のう腺筋症は主に40〜60歳代の中年層に多く見られますが、現時点で胆のう腺筋症になりやすい明確な因子は特定されていません。 胆のう腺筋症を予防する確立された方法も存在しません。
胆のう腺筋症は早期発見が重要であるため、人間ドックなどで定期的に腹部超音波検査などの画像診断を受けることが推奨されます。 特に、右上腹部の痛みや違和感が持続する場合は、胆石症や胆のう炎を合併している可能性があるため、速やかに医療機関を受診することが大切です。
また、脂肪分の多い食事を控え、規則正しい生活習慣を心がけることで、胆のうの健康維持に役立つ可能性があります。
関連する病気
- 胆のうがん
- 胆石症
- 胆のう炎
参考文献




