

監修医師:
大坂 貴史(医師)
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特発性門脈圧亢進症の概要
特発性門脈圧亢進症は、消化管から肝臓に血流を送る門脈の圧力が上がってしまう原因不明の疾患です。日本では1000人前後の患者さんがいて、男性に比べて女性に多いということが知られています。主な症状は側副血行路の発達と脾腫で、進行すると食道胃静脈瘤の破裂・出血や血球減少に関連する症状が出てきます。治療は食道胃静脈瘤の管理、破裂した場合の止血、血球減少に対する対症療法です。場合によっては脾臓の動脈の一部を血管内治療で詰めたり、外科的に脾臓を摘出する場合もあります。
特発性門脈圧亢進症の原因
特発性門脈圧亢進症は、肝硬変や血栓症といった明らかな原因疾患を伴わないにもかかわらず、門脈圧が上昇するまれな疾患です。これまで多くの研究がなされてきましたが、正確な原因は明らかになっていません。免疫系の異常によって発症するのではないかというのが今日の主流な考えで、現在研究が進められているところです。
特発性門脈圧亢進症の前兆や初期症状について
この病気は進行が比較的緩やかであるため、初期には自覚症状が乏しいことが多いです。病状が進行してくると、門脈圧の上昇に起因するいくつかの特徴的な症状が現れてきます。
多くみられる症状は側副血行路の発達と脾腫 (脾臓の腫れ) です (参考文献 1, 2) 。 本来であれば門脈を通って肝臓へ流れていたはずの血液が、門脈の圧が高くて肝臓に入れず、代わりに通る迂回路のことを側副血行路といいます。門脈圧亢進症では側副血行路が発達して、それによる症状が出ることが多いです。代表的な側副血行路には腹壁や食道・胃の静脈があります。臍周りの静脈が張ることがあり「メデューサの頭」ともよばれます。食道・胃静脈は破裂・出血することがあり、そうなると吐血や黒色便として症状が現れ、程度によっては命に関わります。 脾腫は腹部の違和感や膨満感として自覚されることがあります。また、脾腫に伴って脾機能が亢進することで、赤血球、白血球、血小板が減少します。すると貧血症状や出血、感染症にかかりやすくなるといった症状が出ます。
代表的な症状である食道胃静脈瘤が破裂、吐血して初めて症状を自覚することもあります。このような場合には速やかな内視鏡的止血が必要ですので救急車を呼んでください。「最近おなかが張る」「疲れやすい」「痣 (あざ) がよくできる」という症状は脾腫や血球減少による症状の場合がありますので、こちらはお近くの内科を受診してください。
特発性門脈圧亢進症の検査・診断
血液検査のほか、画像検査、肝生検の結果を総合的に判断して診断します。門脈圧が病的に上がる疾患は他にも存在するため、それらの疾患を除外することが重要です。 食道胃静脈瘤の原因としては肝硬変のほうが圧倒的に多いですし、その場合には肝硬変の原因を治療しなければならず、治療方針が大きく変わってきます。
検査結果が特発性門脈圧亢進症として矛盾せず、肝硬変や肝外門脈閉塞症などの他疾患が除外されたときに、特発性門脈圧亢進症と診断されます。 後述しますが特発性門脈圧亢進症は指定難病であり、医療費助成の対象です。診断の過程で重症度の判定も行い、治療を要すると判定される場合には医療費助成の対象になります (参考文献 2) 。
特発性門脈圧亢進症の治療
本疾患には特異的な治療法は存在せず、治療は合併症の予防と管理を目的とした対症療法が中心となります。特に重要なのが食道胃静脈瘤の破裂予防、破裂した際の出血の管理と、脾臓の機能が亢進することによる血球減少への対処です (参考文献 2) 。 食道胃静脈瘤の破裂を予防するために、定期的な内視鏡検査を行い、必要に応じて内視鏡的硬化療法や結紮術が実施されます。破裂した場合には緊急で止血術が必要なため、内視鏡を用いて出血を止めます。 脾腫に伴う血球減少が著しい場合には、部分的脾動脈塞栓術や脾臓摘出といった血管内治療・手術が検討されることがあります (参考文献 2) 。これにより血球減少による症状の改善が期待できます。 これらの合併症のコントロールができているのであれば、特発性門脈圧亢進症患者の予後は良好であることが知られています。具体的には、静脈瘤が適切にコントロールされている患者では、肝癌や肝不全による死亡率が2%弱にとどまると報告されています (参考文献 2) 。
特発性門脈圧亢進症になりやすい人・予防の方法
特発性門脈圧亢進症は稀な疾患であり、日本における患者数は1000人前後です。 男女比では女性にやや多い傾向があり、また若年〜中年成人での発症が比較的多く報告されています (参考文献 1-3)。 原因不明であるため、発症予防に有効な手段は明らかになっていません。健康診断で指摘された異常を放置せずに医療機関を受診することが早期発見・重症化予防につながります。 また、本疾患は厚生労働省の定める「指定難病」に認定されており、医療費助成制度の対象にもなっています (参考文献 1, 2) 。診断された場合には、自治体を通じて早めに支援制度を活用することも長期的な療養を支える上で重要です。治療に関して経済的な不安がある場合には、担当の医療機関へ相談してください。
参考文献




