目次 -INDEX-

体質性黄疸
中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

プロフィールをもっと見る
1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

体質性黄疸の概要

体質性黄疸は、先天的な要因によりビリルビンが体外に適切に排出されず体内に蓄積し、黄疸が見られる病態です。

肝臓は代謝機能の一環として、古くなった血液中の赤血球を分解するはたらきがあり、その過程でビリルビンという色素物質が生成されます。 通常、ビリルビンは胆汁に流されて体外に排出されますが、何らかの影響で排出が妨げられると、体内で異常に増加し眼球や皮膚が黄色くなる黄疸が生じます。

ビリルビンには肝臓で処理される前の間接ビリルビンと、肝臓で処理された後の直接ビリルビンの2種類があります。 体質性黄疸は、原因となるビリルビンの種類によって分類されます。

間接ビリルビンが蓄積することで発症する黄疸には、ジルベール(ギルバート)症候群とクリグラー・ナジャー症候群があります。 一方、直接ビリルビンが蓄積することで発症する黄疸には、デュビン・ジョンソン症候群とローター症候群があります。

これらのなかで最も頻度が高いのはジルベール症候群で、人口の3〜7%に見られ、男性に多いとされています。 ジルベール症候群は、通常健康に大きな影響を及ぼすことはありませんが、過度なストレスや疲労、風邪などにより一時的に症状が悪化することがあります。

(出典:日本小児血液学会雑誌「Gilbert症候群と血液疾患」

クリグラー・ナジャー症候群は非常にまれな疾患で、出生時から明らかな黄疸を認めるまれな病状です。 重篤な状態であり、適切な治療をおこなわないと生命に関わる可能性があります。

一方、ジルベール症候群、デュビン・ジョンソン症候群、ローター症候群は通常治療を必要としません。 これらの体質性黄疸は、自身の状態を認識しておくことが大切ですが、日常生活に大きな影響を与えることは少ないとされています。

体質性黄疸の原因

体質性黄疸は、常染色体劣性遺伝などによって生まれつき遺伝子に異常が生じていることが主な原因です。 遺伝子の異常により、肝臓の代謝機能に先天的な障害が起こります。

ジルベール症候群とクリグラー・ナジャー症候群では、ビリルビンを処理する「グルクロン酸抱合酵素」の活性が低下もしくは欠如しています。 一方、デュビン・ジョンソン症候群では、直接ビリルビンを胆汁へ排出するタンパク質が欠損しています。

これらの異常により、肝臓でのビリルビンの代謝や排泄が適切に行われず、結果として体内にビリルビンが蓄積し、黄疸が引き起こされます。 ローター症候群については、具体的な発症メカニズムは明確になっていません。

体質性黄疸の前兆や初期症状について

体質性黄疸の初期症状は、主に白目や皮膚が黄色くなることで、血中のビリルビン濃度が上昇することで引き起こされます。

一部では、皮膚のかゆみ、食欲不振、全身倦怠感などの症状も現れることがあります。 ジルベール症候群ではみぞおちや右上腹部の痛みが生じるケースもあります。

クリグラー・ナジャー症候群では、筋緊張の低下や傾眠傾向、けいれんなどの神経学的症状が生じることがあります。 さらに進行すると、アテトーゼ(不随意運動)や感音性難聴などの深刻な症状も見られます。 適切な治療が遅れると、重篤な後遺症が残ったり、最悪の場合は死に至ったりする可能性があります。

体質性黄疸の検査・診断

体質性黄疸の検査は、主に血液検査と尿検査を中心におこなわれます。 総ビリルビン値とともに、間接ビリルビンと直接ビリルビンの値を個別に測定し、黄疸の種類を鑑別します。 AST、ALT、ALPなどの肝機能マーカーも併せて検査し、肝臓の状態を評価します。 赤血球数や、炎症の程度を反映するCRPや白血球数なども測定項目に含まれます。

腹部超音波検査をおこない、肝臓の状態や、ビリルビンが流出する胆管の閉塞の有無も確認します。 これらの検査結果を総合的に判断し、体質性黄疸の診断をおこないます。

体質性黄疸の治療

体質性黄疸のなかでも、クリグラー・ナジャー症候群では早期に治療を開始する必要があります。

クリグラー・ナジャー症候群の治療は、主に高ビリルビン血症に対する対策から始まります。 高ビリルビン血症を落ち着かせるために、輸液療法や光線療法をおこないます。 光線療法は青色のLED光を体に照射する方法で、LED光によってビリルビンの分解を促すことで体外への排泄を助ける効果があります。

クリグラー・ナジャー症候群の根本的な治療として、可能であれば肝臓移植が検討されます。 グルクロン酸抱合酵素の活性を誘導する薬である「フェノバルビタール」を継続的に投与することもあります。

肝臓移植を受けた場合、生涯にわたって免疫抑制療法を続ける必要があります。 免疫抑制療法には感染リスクや悪性新生物の発生の恐れもあるため、継続的な経過観察が必要です。

肝臓移植を受けていない場合、対症療法として光線療法を長期的に続けることがあります。この場合、定期的にビリルビン値をモニタリングし、必要に応じて治療の強度を調整します。

いずれの場合も、患者の状態を慎重に観察し、個々の症例に応じた治療法を選択することが重要です。 患者とその家族に対する適切な説明と支援も、長期的な治療管理において欠かせない要素となります。

体質性黄疸になりやすい人・予防の方法

体質性黄疸は遺伝的要因によって引き起こされる疾患であるため、特に一親等の家族や親族に発症者がいる人がなりやすいとされています。 両親のどちらかが保因者である場合も、遺伝子変異により子どもが発症する可能性があります。 ジルベール症候群は主に常染色体優性遺伝によって発症しますが、ほかの種類では遺伝形式が異なる場合もあります。

体質性黄疸の予防方法はありません。 しかし、自身が体質性黄疸であることを認識しておくことは重要です。 特に過度の疲労やストレス、妊娠、出産などが黄疸を悪化させる可能性があるため、これらに配慮することで症状への対策を図れます。

関連する病気

  • ジルベール症候群
  • クリグラー・ナジャー症候群
  • デュビン・ジョンソン症候群
  • ローター症候群

この記事の監修医師