アメーバ性肝膿瘍
岡本 彩那

監修医師
岡本 彩那(淀川キリスト教病院)

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兵庫医科大学医学部医学科卒業後、沖縄県浦添総合病院にて2年間研修 / 兵庫医科大学救命センターで3年半三次救命に従事、近大病院消化器内科にて勤務 /その後、現在は淀川キリスト教病院消化器内科に勤務 / 専門は消化器内科胆膵分野

アメーバ性肝膿瘍の概要

アメーバ性肝膿瘍とは、腸に寄生したアメーバの原虫(赤痢アメーバ)が血流に乗って肝臓に移行し、膿の塊(膿瘍)を形成する疾患です。
赤痢アメーバ症としては、大腸に病変が見られる「赤痢アメ−バ性大腸炎」が症例の大半を占めますが、一部の患者は「腸管外アメーバ症」を発症することもあります。アメーバ性肝膿瘍は、そうした腸管外アメーバ症としては、もっとも多く見られる症例として知られています。

アメーバ性肝膿瘍を発症すると、発熱、上腹部痛、肝腫大などの症状がおきますが、初期症状に乏しいケースもあり、原因不明の発熱として発見が遅れることもあるため注意が必要です。赤痢アメ−バ性大腸炎を先に発症してからアメーバ性肝膿瘍を併発するケースでは、粘血便、下痢、排便痛などの大腸炎の症状もみられるため、これらの症状から診断される場合もあります。

アメーバ性肝膿瘍の治療では、抗原虫薬を用いた薬物療法が主におこなわれます。肝臓にできた膿瘍の内容物を排出させるための外科的治療がおこなわれることもあります。

赤痢アメーバについて

熱帯・亜熱帯の地域を中心に、世界中で存在が確認されている病原体です。主な感染経路は、赤痢アメーバで汚染された飲食物を口にすることですが、感染者との性行為など接触を介しても感染する可能性があります。

開発途上国など、衛生環境の整わない地域での流行が見られ、飲み水を含め、さまざまな飲食物が汚染されるケースが知られています。赤痢アメーバは体内に入ると腸管内で増殖し、多くの場合は大腸炎の症状を引き起こします。まれに肝臓やその他の臓器に病変を形成することもあります。感染から発症までに、数週間から数年の潜伏期間を経ることが知られています。

赤痢アメーバによって引き起こされる「赤痢アメーバ症」は、日本の感染症法において五類感染症に指定されています。

アメーバ性肝膿瘍の原因

アメーバ性肝膿瘍の原因となるのは「赤痢アメーバ」と呼ばれるアメーバ原虫への感染です。赤痢アメーバ主に飲食物によって経口感染し、感染者との性行為によって感染することもあります。

病原体としての赤痢アメーバは、加熱や冷凍には弱く、適切な衛生管理がなされた環境や、加熱調理済みの食品では感染リスクは低いと言えます。一方、感染者あるいは他の宿主である動物等の糞便、それに汚染された水などに接触する機会があると、感染リスクは高まります。

赤痢アメーバは、体内に入る段階では「シスト」と呼ばれる強靭な包嚢を形成しているため、胃酸では死滅せず、小腸で「トロフォゾイト」という増殖可能な栄養体となったのち、主に大腸で活動します。

増殖した赤痢アメーバが、そのまま大腸で病変を形成すると赤痢アメ−バ性大腸炎を発症します。血液を介してさまざまな臓器に到達する例もあり、それらは腸管外アメーバ症と呼ばれます。アメーバ性肝膿瘍は肝臓に到達した赤痢アメーバが病変を形成する例で、腸管外アメーバ症の中では、もっとも多く見られる症例です。

アメーバ性肝膿瘍の前兆や初期症状について

アメーバ性肝膿瘍では、赤痢アメーバに感染後、数か月から数年の潜伏期間を経て初期症状が現れます。感染から数週間で発症することもある赤痢アメーバ性大腸炎に比べると、やや長い潜伏期間を経ることが知られています。

大腸炎を先に発症したことによる下痢や粘血便などの消化器症状がアメーバ性肝膿瘍の前兆となり得ますが、大腸炎を発症しないままアメーバ性肝膿瘍を発症する例もあるため、確実ではありません。

アメーバ性肝膿瘍で多く見られる初期症状は、発熱や上腹部の痛み、ひどい寝汗(盗汗)などです。初期では発熱以外の自覚症状に乏しいケースもあり、かぜやインフルエンザなどと混同され、発見が遅れるリスクがあります。

症状が進むと、発熱や上腹部痛は明確になります。病状の進行が放置され、膿瘍が破裂するような重症例となると、生命にも危険が及ぶリスクがあります。

アメーバ性肝膿瘍の検査・診断

アメーバ性肝膿瘍の診断では、体内にアメーバ原虫がいることを確認するための検査と、肝臓に膿瘍があることを確認するための検査がおこなわれます。

体内にアメーバ原虫がいることを確認するためには、血液検査「病理組織学的検査」がおこなわれます。

血液検査では、血球数や肝機能など一般的な検査項目について調べます。アメーバ原虫に感染している場合、高確率で血清アメーバ抗体の値が高くなります。また、検査データから貧血や肝機能の上昇などを認めることも多い傾向にあります。

一方、病理組織学的検査は、患部の組織を採取して顕微鏡で詳しく調べる検査です。アメーバ性肝膿瘍が疑われる場合には、血液を採取して培養する「血液培養検査」や検便のほか、肝臓にできた膿瘍を針で刺したり内容物を採取したりして顕微鏡でアメーバ原虫の有無を確認したりすることがあります。
ただし、血液や便、膿汁を利用した病理組織学的検査によるアメーバ原虫の検出率は低く、全ての患者さんに行われるわけではありません。状況に応じ、必要と判断された場合にのみ行われます。

このほか、症状によっては検便や大腸の粘膜を採取した病理組織検査がおこなわれることもあります。

肝臓に膿瘍があることを確認するためには、超音波検査やCT検査などの画像検査がおこなわれます。

アメーバ性肝膿瘍の治療

アメーバ性肝膿瘍を発症している場合には、症状に応じて薬物療法や外科的治療がおこなわれます。

薬物療法

アメーバ原虫に有効な抗原虫薬が用いられます。

抗原虫薬には「メトロニダゾール」が多く用いられ、一般的に10日前後内服します。重症の場合や内服が困難な場合には、注射にて投与することもあります。

メトロニダゾール内服中は吐き気や嘔吐、発疹などの副作用が出現する可能性があるため、治療中は医師が症状の変化に注意しながら経過観察をおこないます。

薬物療法の治療効果は高いとされ、通常は後遺症などもなく軽快し、治療に伴い病変も消失します。

侵襲的治療

肝臓にできた膿瘍があまりに大きい場合や、薬物療法で改善しない場合などは、膿瘍の膿を排出する「ドレナージ」と呼ばれる処置がおこなわれることがあります。ドレナージでは、皮膚から肝臓に「ドレーン」というチューブを挿入し、膿瘍の内容物を吸引します。

ドレナージには膿瘍が破裂したり入院期間が長くなったりするリスクもあるため、慎重に適応を判断しておこなわれます。

アメーバ性肝膿瘍になりやすい人・予防の方法

アメーバ性肝膿瘍になりやすい人は、旅行や仕事などで海外の流行地域を訪れる人です。特に長期滞在によって感染リスクが高まると考えられています。
国内では感染者との性交渉により感染する例が多く見られるため、流行地域を訪れていなくても感染リスクはあるといえます。

現在のところ、赤痢アメーバ症の予防に有効なワクチンはありません。したがって、アメーバ性肝膿瘍を含む赤痢アメーバ症を予防するにはアメーバ原虫に対する感染対策をおこなうことが重要です。

発展途上国などの流行地域では、汚染された食品類を口にしないような注意が必要です。衛生管理にはじゅうぶんに気を配り、生水を飲まないこと、極力加熱処理してから食品を口にすること、などを徹底しましょう。また、食事前などにしっかりと手を洗うことも重要です。

また、「感染者と性交渉を持てば、高い感染リスクがある」という事実を理解しておくことも、アメーバ性肝膿瘍の予防につながると言えるでしょう。


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