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胆道感染症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

胆道感染症の概要

胆道感染症は胆汁が通る胆嚢や胆管で細菌が増殖し、炎症が起こる病気です。主な原因は胆石や腫瘍などにより胆汁の流れが滞る「胆汁うっ滞」です。胆嚢炎では右上腹部やみぞおちの痛み、吐き気や嘔吐、発熱が現れます。特に脂肪分の多い食事後に症状が出やすいです。一方、胆管炎では発熱、黄疸、右上腹部痛が典型的で、重症化すると意識障害やショックに至り、命の危険も伴います。診断には血液検査やエコー、CTが行われ、緊急性が高い場合は即治療が始まります。胆嚢炎は抗菌薬投与とともに腹腔鏡を用いた手術が一般的で、胆管炎では抗菌薬治療とともに胆汁の流れを改善する処置(ドレナージ)が重要です。胆道感染症は重症化すると致死的ですが、早期受診により治療で重症化予防が可能です。気になる症状があれば早めに内科を受診してください。

胆道感染症の原因

肝臓で作られた胆汁は肝内胆管を通って、一度胆嚢を経由して濃縮されます。濃縮された胆汁は総胆管を通って十二指腸内に放出され、食べ物の消化に使われます。
この胆汁の経路を総称して胆道と呼び、胆道の炎症を胆道炎というわけですが、臨床的には胆嚢炎と胆管炎の2つに分けて考えることが多いです。
今回のテーマである「胆道感染症」のメカニズムとして重要なのは「胆汁のうっ滞」です。胆道で胆石が詰まってしまう、膵癌や胆道癌などの腫瘍により圧迫されてしまうことなどより、胆道が狭くなってしまう、閉塞してしまうことが代表的な原因です。

胆道感染症の前兆や初期症状について

胆嚢炎の原因として重要な胆石症ですが、これだけでは症状が出ないことが多いです。胆石症が胆嚢炎に進展した場合に自覚資する症状として最も頻度の高いものは腹痛で、みぞおちの辺りの痛み (心窩部痛) と、右肋骨の辺りの痛み (右季肋部痛) を合わせると8割前後の方に腹痛が自覚症状として現れるとされています (参考文献 1) 。
受診される患者さんの話をよく聞いていいると「脂っこい食事をした後にお腹が痛くなった」ということがありますが、これは胆汁が脂肪の分解をするため、脂っこい食事をした後は胆嚢がよく動くためと考えられます。
腹痛の次に多い症状は吐き気と嘔吐で、38℃を超える発熱は3割程度の患者に現れるとされています (参考文献 1) 。
急性胆管炎の場合の典型的な症状は①発熱 ②黄疸 ③右上腹部痛 とされています。発熱と腹痛は約80% の患者で、黄疸は60~70% の患者でみられるといわれています (参考文献 1) 。
重症の胆管炎になると上の3つの症状に加えて意識障害やショック (血圧が下がり身体に十分な血流や酸素が供給されなくなること) が症状として現れることがあります。

これらの症状があれば内科を受診するのがよいかと思いますが、我慢できないような強い痛みであれば救急車をよんだり、救急外来受診も考えてみてください。
胆管炎は放置していると命に関わる状態になることも多いので、我慢は禁物です。

胆道感染症の検査・診断

まずはバイタルサイン (呼吸、循環、意識状態など) のチェックや、診察室でできるような身体診察 (お腹の触診など) をします。外来でできる検査として血液検査画像検査 (エコー・CT) が有用です。
これらの所見と急性胆嚢炎・急性胆管炎の所見を照らし合わせて診断を進めますが、「胆道感染症の疑い」に留まる場合にも緊急性ありと判断される場合には確定診断を待たずに治療を開始することが推奨されています (参考文献 1) 。

胆道感染症の治療

胆嚢炎の治療は絶食や点滴、抗菌薬投与といった保存的治療と、胆嚢を切除する手術に大きく分かれます。合併症や重症化のリスクを低減するために、可能であれば早期に手術をすることが推奨されています (参考文献 1) 。
手術と聞くとお腹を大きく切り開くものをイメージされる方もいるかと思いますが、現在主に行われている腹腔鏡を用いた手術では、お腹に小さな穴を数か所開けて、そこから先に手術器具のついた長い棒をいれて操作することで手術を行うため、開腹手術に比べれば身体的負担は少ないです。

胆管炎の治療方法は抗菌薬によるものと、胆汁の詰まりを解除するドレナージの2つが中心になります。
胆管炎は胆管で菌が増殖し、血流やリンパ液に細菌が逆流することで重症化する感染症ですから、速やかな抗菌薬による治療が大切です。
胆道が詰まっていると菌が増殖した胆管で胆汁の流れが滞り、細菌で汚染された胆汁が身体の中にどんどん溜まっていってしまいます。その閉塞を解除して胆汁を外に出してあげる処置を胆道ドレナージとよび、感染源のコントロールに重要です (参考文献 1) 。

胆道感染症になりやすい人・予防の方法

胆嚢炎・胆管炎発症の原因として重要な胆石症ですが、胆石形成につながるリスク因子は、その頭文字をとった5Fが有名です (参考文献 1)。
・40歳代 (forty)
・女性 (female)
・肥満 (fatty)
・白人 (fair)
・多産 (fertile)
この5つのなかだと、肥満は生活習慣の改善などでコントロール可能といえるでしょう。

胆道感染症は放置すると危険な状態になり得る疾患です。2017年の日本と台湾の急性胆管炎患者を対象とした報告 (参考文献 2) では、急性胆管炎全体の死亡率は 2.7% 、つまり40人に1人は命を落としていたことが分かりました。
個人でできる予防としては、発症予防よりも早期発見による重症化予防が現実的です。気になる症状があれば遠慮せずお近くの内科を受診してください。

関連する病気

  • 胆嚢結石
  • 総胆管結石
  • 胆管狭窄
  • 胆管腫瘍
  • 膵頭部癌
  • 急性胆嚢炎
  • 慢性胆嚢炎

参考文献

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