監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
薬物性肝障害の概要
薬物性肝障害は、薬剤の投与によって引き起こされる肝臓の機能障害です。
肝臓は栄養素の分解・合成や胆汁の生成、有害な物質の解毒作用を担っていますが、薬剤の影響により機能が低下すると、食欲不振や全身のだるさ、黄疸(おうだん)などの症状が現れることがあります。
主な原因は抗生物質や解熱消炎鎮痛薬などの医薬品ですが、市販薬や漢方薬、健康食品、サプリメントでも発生する可能性があります。
薬物性肝障害は、予測可能な場合と予測できない特殊体質による場合に分類されます。特殊体質による肝障害は、さらにアレルギー性と代謝性にわけられます。予測可能な例としてはアセトアミノフェンの大量摂取などがあります。
また、薬物性肝障害は肝細胞障害型(59%)、混合型(20%)、胆汁うっ滞型(20%)に分類され、近年は肝細胞障害型が増加傾向にあります。
薬物性肝障害は投与から30日以内に62%の人が発症する一方、90日を超えてから発症するケースも16%あります。
通常、薬剤の使用中止により症状が改善しますが、必要に応じて他の薬剤を使用した薬物療法が行われます。
薬剤性肝障害で注意するべき点は、症状が現れても投与を継続した場合や、既存の肝疾患がある場合は重症化のリスクが高まることです。重症化すると劇症肝炎に進展する可能性があり、致死率が高くなります。血液透析や肝移植などの高度な治療が必要になるケースもあるため、薬剤使用中に異変を感じた場合はできるだけ早く医療機関に相談することが大切です。
薬物性肝障害の原因
薬物性肝障害の原因は、医薬品の投与や健康食品、サプリメントの摂取などがあります。
薬物性肝障害は抗生物質や解熱消炎鎮痛薬、抗がん剤、漢方薬などの医薬品によって引き起こされることがあります。
2010-2018年の日本各地で集積された症例結果によると薬物性肝障害の原因は、抗生物質と抗炎症薬が11%、抗がん剤が10%、健康食品の摂取が9%を占めることが報告されています。
薬物性肝障害の前兆や初期症状について
薬物性肝障害は初期症状がみられないことがあり、採血の数値によって初めて診断されるケースもあります。
初期症状がある場合は、倦怠感や食欲不振、かゆみ、黄疸、38-39℃の発熱、発疹、吐き気、嘔吐などがみられます。
アレルギー性の薬物性肝障害では、発熱や発疹、吐き気、嘔吐が現れやすいです。
肝内胆汁うっ滞を引き起こし、かゆみや黄疸がみられる場合があります。
肝細胞障害型では特徴的な症状は少ないものの、機能低下に陥ると肝性脳症による神経症状や昏睡状態、出血傾向、腹水の貯留などがみられる場合もあります。
薬物性肝障害の症状がみられた場合は、投与した医薬品や商品の内容、投与から発症までの時間などを把握し、速やかに医療機関を受診しましょう。
薬物性肝障害の検査・診断
薬物性肝障害の診断は、問診や血液検査、薬剤反応リンパ球刺激試験(DLST)、エコー検査やCT検査などにより行われます。
問診では、投与している医薬品や健康食品などの摂取歴を確認します。ウイルス性肝炎などとの鑑別するために海外への渡航歴や生ものの摂取、性交渉、飲酒歴などを確認することもあります。
血液検査ではALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)やALP(アルカリフォスファターゼ)の数値を確認し、肝機能の状態を確かめます。
肝細胞障害型ではALTの上昇、胆汁うっ滞型ではALPの上昇がみられます。
肝障害の劇症化のリスクがある場合には、血清アルブミンなどの値も確かめたり、プロトロンビン時間(血液に試薬を加えて血が固まるまでの時間)を測定したりすることもあります。
薬剤反応リンパ球刺激試験(DLST)は、血液中のリンパ球の薬剤に対する反応を観察する検査であり、陽性を示すと薬物性肝障害を疑う指標として診断に利用されます。
肝障害の重症度の確認や、閉塞性黄疸との鑑別を目的に画像検査(エコー検査,CT検査)が選択されることもあります。
薬物性肝障害の治療
薬物性肝障害の治療は原因である薬物の投与を直ちに中止します。
全身の強い倦怠感や食欲不振、黄疸などの症状がみられた場合は入院による治療が行われます。
治療期間中は安静臥床で消化の良い食事をとり、必要に応じて輸液が行われます。
薬物の投与の中止で改善がみられない場合は、肝細胞障害型と胆汁うっ滞型で異なる治療法が選択されます。
胆汁うっ滞型で黄疸の症状が長引く場合は、ビタミンAやビタミンK、ウルソデオキシコール酸(UDCA)、プレドニゾロンなどの薬剤が使用されます。
重症化をきたし劇症肝炎に陥った場合は、人工肝補助療法による血漿交換や血液透析による治療が検討されます。
人工肝補助療法で劇症化の改善がみられない場合には、肝移植が必要になる場合もあります。
薬物性肝障害になりやすい人・予防の方法
薬物性肝障害は抗生物質や解熱消炎鎮痛薬、抗がん剤などの医薬品によって発症しやすい傾向があります。
予防法として、医薬品を服用する際は、副作用が発生しやすくなる薬の組み合わせがないか確認し、飲み忘れた薬はまとめて服用しないことが大切です。
長期的に服用すると肝臓の機能低下を招き、薬物性肝障害のリスクを高める可能性があります。
倦怠感や食欲不振などの症状が続く場合は使用をやめ、速やかに医療機関を受診しましょう。
また、肝疾患が既往にある場合や飲酒の習慣などは、医薬品や健康食品の使用によってさらに肝臓の機能低下をきたし、薬物性肝障害をきたすリスクが高まります。
これらの状態に当てはまる場合は、薬剤性肝障害の予防のために定期的に肝機能検査を受けましょう。
参考文献