

監修医師:
伊藤 喜介(医師)
目次 -INDEX-
急性腹膜炎の概要
お腹の中の腹膜に囲まれた空間を腹腔(ふくくう)といいます。腹膜とは、腸、肝臓、子宮などのお腹の中の臓器の表面を覆っている膜のことで、臓器を保護する役割があります。腹腔内に何らかの原因で炎症が起こり広がっていくものを腹膜炎と呼びます。
急性腹膜炎は、腹膜炎の中でも急激に症状が発生、進行するものを指します。病態のはじめは腹膜炎は腹腔内の一部にとどまる限局性腹膜炎ですが、徐々に広がり腹腔内全体に広がると汎発性腹膜炎(はんぱつせいふくまくえん)となります。
急性腹膜炎の原因
急性腹膜炎は大きく特発性細菌性腹膜炎と続発性腹膜炎の2つに分けられます。それぞれの原因について説明していきます。
特発性細菌性腹膜炎
腹水の貯留した肝硬変や、ネフローゼ症候群の患者さんに起こります。肝硬変やネフローゼ症候群の患者さんは、腹水貯留があり、感染に弱い状態となっています。発症メカニズムは不明な部分も多いですが、腹腔内に入り込んだ微量の細菌が増殖して腹膜炎を起こすと考えられています。
これらの疾患をもつ患者さんに対する手術や腹水穿刺、カテーテル検査、カテーテル治療などが原因となり腹膜炎を起こしてしまう場合もあるため、検査や治療を行う際には十分な注意が必要となります。
続発性腹膜炎
急性腹膜炎の原因として最も多いものとなります。腹腔内臓器がさまざまな原因で炎症を起こすことに引き続き腹膜炎を起こします。腹腔内にある臓器の全てが原因となり得ますが、主な原因疾患を以下に示します。
消化管穿孔
胃や十二指腸潰瘍、がん、内視鏡検査などが原因で胃や腸に穴が開いてしまう病態です。消化液や便が腹腔内に漏れ出すことで腹膜炎を起こします。
胆のう炎
胆石などが原因となり胆のうに炎症がおきて発症し、腹膜炎を起こします。
虫垂炎
いわゆる「盲腸」です。虫垂に炎症が発生し、腹膜炎を起こします。
付属器炎(卵巣炎)
消化管だけでなく卵巣も腹腔内に存在するため、炎症を起こすと腹膜炎となります。
その他
そのほかにも、急性膵炎、腸炎、憩室炎、腸閉塞などのさまざまな腹腔内臓器の炎症が原因となり、悪化していくことで腹膜炎を引き起こします。
急性腹膜炎の前兆や初期症状について
急性腹膜炎の代表的な症状は以下のとおりです。
発熱
38℃を超えるような高い発熱がみられます。
腹痛
炎症がある臓器の部分だけでなく、お腹全体に激しい痛みが起こります。
板状硬
痛みのため無意識に腹部全体に力が入った状態となってしまうため、お腹は板のように硬い状態となります。
嘔吐
炎症によって腸の動きが悪くなるため食べ物の通過が難しくなり嘔吐を起こします。
これらの症状が見られた場合は内科、消化器内科を受診いただくことをおすすめします。
急性腹膜炎の検査・診断
症状から急性腹膜炎を疑った場合は以下の検査を行い診断します。
身体診察
身体診察は特徴的であり、腹膜炎の診断にとって重要な要素となります。
筋性防御
痛い腹部を守ろうとしてしまうため、触れただけで腹部に無意識に力が入り硬くなってしまう反応です。
反跳痛
炎症が強い部分を押した際には痛みが生じますが、押すのを急にやめて離した際に腹膜が戻る振動によって腹部全体に強い痛みを生じます。痛みの訴えが不明瞭で、状態の判断が難しい子供の場合にはジャンプをしてもらったり、背伸びから着地したりすることで同様の振動を腹膜に与えることができます。
腸蠕動音低下
炎症によって腸管の動きは低下、停止してしまうため、聴診によって腸蠕動音の聴取が難しくなります。
血液検査
炎症の程度を反映する白血球やCRPといった数値の上昇を認めます。また、腹膜炎の原因疾患によっては肝機能(AST、ALT)や胆道系酵素(ALP、γGPT)の上昇、膵酵素(アミラーゼ)の上昇を認めることがあります。また、感染の原因菌を判別するために、採取した血液を培養して原因菌を同定する血液培養検査も行う場合があります。
胸腹部レントゲン検査
比較的簡便に行うことができる検査となります。消化管穿孔が原因であった場合は横隔膜下に通常は映るはずのない遊離ガスをみとめます。また、腸閉塞が原因であった場合は腸管の著明な拡張に加えて、腸管内の鏡面像(niveau:二ボー)が認められます。
腹部超音波検査
レントゲン検査とともに簡便に行うことができる検査となります。腹水の存在が確認できるだけでなく、虫垂炎や胆嚢炎、急性膵炎などが原因となっている場合には炎症像を確認することができます。
腹部CT検査
急性腹膜炎が疑われた場合には治療方針の決定や炎症の程度を確認するためにも重要度の高い検査となります。腹膜炎の原因を見つけることができるだけでなく、膿瘍(のうよう:膿がたまってかたまりとなること)の有無なども確認できます。また、緊急で治療介入が必要な状態かを判断できます。
腹水穿刺(培養)
特に特発性細菌性腹膜炎を疑う場合に有効な検査となります。身体の表面から針を刺しておなかの中に溜まっている腹水の一部を抜き取ります。腹水に含まれる白血球が増えていることや、培養検査を行い細菌感染を認めることが診断に重要です。
急性腹膜炎の治療
特発性細菌性腹膜炎の治療
特発性細菌性腹膜炎の場合には抗生剤を投与して治療を行っていきます。また、膿瘍を形成している場合には膿瘍に体の表面から針を刺し、内部の膿を抜き取るドレナージ術を行なう場合もあります。
続発性腹膜炎の治療
続発性腹膜炎に対しても抗生剤治療と、膿瘍が形成されていた場合にはドレナージ術を行います。また、腹膜炎を起こしている原因疾患に対しても同時に治療を行なっていく必要があります。例として、虫垂炎や胆嚢炎が原因となっている場合には時に手術を行い、直接的に原因を除去することもあります。
急性腹膜炎になりやすい人・予防の方法
特発性細菌性腹膜炎になりやすい人は先に示したような、肝硬変やネフローゼ症候群などにより腹水が溜まりやすく、感染に弱い方となります。
急性腹膜炎の予防は難しくなりますが、発熱や腹痛が起こった際に早期に病院を受診することは、早期治療介入、早期治癒のためにも重要です。また、これらの患者さんの腹水を安易に穿刺することは腹膜炎を誘発する原因となる場合がありますので、医原性に腹膜炎を起こさないように対処、工夫を行う必要があります。
一方で続発性腹膜炎は、腹腔内の炎症疾患を放置することが大きな原因となります。そのため、持続するような腹痛が認められる場合には早期に病院を受診し、診断、治療介入を行い、悪化を防ぐことが重要となります。
関連する病気
- 虫垂炎(盲腸炎)
- 胆嚢炎(胆嚢穿孔)
- 腸閉塞
参考文献
- 1)専門医のための消化器病学 第3版
- 2)標準外科学




