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インスリノーマ
中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

インスリノーマの概要

インスリノーマとは、膵臓のβ細胞に腫瘍が発生し、血糖値を下げるホルモンであるインスリンを大量に分泌する病気です。インスリンの過剰分泌により、空腹時に低血糖を起こしてしまうのが特徴です。

インスリノーマは年間人口10万人に3〜5人の新規患者が発生するとされる神経内分泌腫瘍のうちの1つです。インスリノーマの一部には、多発性内分泌腫瘍症(MEN)1型という病気を合併していることがあります。

主な症状は、インスリンの過剰分泌による空腹感や手の震え、発汗などからはじまり、さらに進行すると頭痛や集中力の低下などの中枢神経症状が出現します。
重症低血糖の状態になると、けいれんや意識消失など命の危険に関わる症状が現れます。これらの低血糖症状は、糖分を補給すると速やかに改善するのが特徴です。

インスリノーマが疑われた場合、血液検査や尿検査をおこない血糖値やインスリン値、C⁻ペプチド値を調べます。画像検査では、腫瘍の有無や位置、大きさをみたり、転移していないかを確認していきます。

治療は手術による腫瘍の摘出が挙げられます。腫瘍の大きさや位置、転移の有無などに併せて手術による膵臓の切除範囲は異なってきます。腫瘍が悪性の場合は、膵臓周囲のリンパ節を切除する場合もあります。手術により腫瘍が摘出できれば、完治が望める病気です。

インスリノーマ

インスリノーマの原因

インスリノーマの原因は、膵臓のβ細胞が異常に増殖し血糖値に関係なくインスリンを過剰に分泌することです。腫瘍が発生する原因については詳しいことは分かっていません。

インスリノーマは、腫瘍が1つであることが多いですが、多発性内分泌腫瘍症(MEN)1型のインスリノーマでは腫瘍が複数あることが多いです。

インスリノーマの前兆や初期症状について

インスリノーマの症状は、空腹時の低血糖が挙げられます。低血糖発作は空腹時のことが多いですが、食後の低血糖の場合もあります。

インスリノーマは低血糖発作を繰り返すため、慢性的な低血糖症状として体重の増加や記憶障害、知能低下などが出現することもあります。体重が増加する理由としては、低血糖による不快な症状が続くと食べることで症状を改善しようとします。そのため食べる頻度が増え、肥満傾向になることが多いです。

交感神経症状:血糖値およそ70mg/dl以下

血糖値が70mg/dl以下になると、「交感神経症状」が出現します。お腹が空く、吐き気がする、汗をかく、イライラしたり不安な気持ちになったりする、脈が速くなる、手や指が震える、顔色が青白くなるなどがあります。

よく低血糖になる人や、血糖値は下がっているのに低血糖の自覚症状がない方は、交感神経症状がでないまま、無自覚性低血糖と呼ばれる状態になることもあります。無自覚低血糖は低血糖の症状がでにくいため、気づいたときには血糖値が60mg/dl程度まで低下していることもあります。

中枢神経症状:血糖値およそ50mg/dl程度

さらに血糖値が下がり50mg/以下になると、頭痛や目のかすみ、集中力の低下、生あくびなどの「中枢神経症状」が出現します。

血糖値50mg/dl以下

血糖値が50mg/以下になると、異常な行動、けいれん発作、意識消失など「重症低血糖」の状態におちいる場合もあります。ここまでくると命を落とす危険性もでてくるので、低血糖に気づいた時点ですみやかに対処することが重要です。

インスリノーマの検査・診断

インスリノーマの検査には絶食試験、C-ペプチド分泌負荷試験、超音波内視鏡検査があります。

インスリノーマの診断では、低血糖症状がみられたときに血中のインスリン値が上昇していること、インスリン値が上昇しているのは膵臓の腫瘍が原因であることを確認します。

絶食試験

絶食試験は48時間または72時間絶食し低血糖症状が出現しないかを確認する検査です。安全に観察するために、検査時には入院が必要です。
インスリノーマによる低血糖かどうかを判断するために、Whippleの3徴の有無を確認します。Whippleの3徴は以下の通りです。

①空腹時や運動時に低血糖症状がみられる
②症状があるときの血糖値が50mg/dl以下
③ブドウ糖を投与すると血糖値が上がり、症状の改善がみられる

絶食後に低血糖症状が現れたら、血液検査をおこなって血糖値とインスリン値を測定します。インスリノーマでは血糖値が低下しているにもかかわらず、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが分泌され続けるのが特徴です。

C-ペプチド分泌抑制試験

C-ペプチド分泌負荷試験はインスリンの分泌を調べる検査です。血液検査や尿検査でおこないます。

超音波内視鏡検査(EUS)

先端に超音波のついた内視鏡を使って、腫瘍(インスリノーマ)を観察する検査です。血液検査でインスリノーマが疑われた場合におこないます。

選択的動脈内刺激物注入試験(SASIテスト)

SASIテストは腫瘍に栄養を運んでいる動脈にカルシウムを直接注入し、反応性を確認する検査です。画像検査で腫瘍が確認できない場合に、SASIテストをおこないます。

インスリノーマの治療

インスリノーマの根本的な治療は手術による腫瘍の摘出です。
インスリノーマの約90%は他の臓器に転移がなく膵臓のみにできる腫瘍であるため、手術で切除することにより完全に治すことが期待できます。

腫瘍が悪性で他の臓器への転移がみられる場合や、手術のリスクが高い場合、腫瘍がみつからない場合、患者が手術を拒否した場合には、内科的な治療をおこないます。

手術

直径2cm以下で主膵管との距離が3㎜以上離れている場合は、腫瘍だけを取り除く核出術の適応となります。
腫瘍の悪性度が高く広がっている場合は、腫瘍の周りのリンパ節や他臓器の切除を含めた膵切除術が検討されます。

内科的な治療

内科的な治療としては食事指導などをおこない、低血糖を予防します。低血糖症状がみられた場合には、すみやかにブドウ糖を接種することが大切です。
低血糖の予防としてオクトレオチドやジアゾキシドなどの薬を内服することもあります。
低血糖症状の改善が見られない場合には、化学療法による治療を検討されます。

インスリノーマになりやすい人・予防の方法

多発性内分泌腫瘍症(MEN)1型の家族がいる方は、インスリノーマになりやすいといわれています。インスリノーマの予防方法は見つかっていません。

インスリノーマは手術により完全に治せる可能性がある病気ですが、中には手術適応とならないケースもあります。重症低血糖になると命の危険に関わるような症状があらわれるので、低血糖症状を起こさないことが重要です。

普段の生活で気を付けておきたいことは以下のとおりです。

①低血糖症状に気づいたら、糖分を接種する
症状に気づいたら、すぐにブドウ糖やジュースなどの糖質をとりましょう。糖分をとった後に症状の改善がみられたら、食事をとりましょう。食事と食事の間が長くなる場合は、間食をとると低血糖を予防できます。

②空腹時での運動を避ける
運動は間食や食事をとってからおこないましょう。激しい運動をおこなう場合や運動時間が長くなる場合には、間食をとりましょう。

③毎食、炭水化物をとる
血糖値は、炭水化物の摂取量に応じて上昇します。毎食、お米やパン、麺類、イモ類などの炭水化物をとるようにしましょう。また欠食せずに、必ず1日3食たべましょう。

④低血糖の原因を振り返る
低血糖を起こしたら、あとから低血糖を起こした状況を振り返り、原因を確認しましょう。原因を把握することで、次から低血糖を起こさないよう注意することができます。

⑤外出時にはブドウ糖を持ち歩く
普段持ち歩くかばんに、ブドウ糖を常備するようにしましょう。持ち歩くことで、低血糖に気づいたときにすぐに対応することができます。


関連する病気

  • 多発性内分泌腫瘍症

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