監修医師:
伊藤 喜介(医師)
劇症肝炎の概要
劇症肝炎とはウイルス性肝炎、薬剤アレルギー性肝炎、急性発症の自己免疫性肝炎などの炎症に起因する急性肝不全をさします。
近年になり、アセトアミノフェン中毒や、循環障害などが原因となる急性肝不全も同じ疾患群であるということから、「劇症肝炎」という言葉は使用されなくなり、「急性肝不全」として新たに定義されるようになりました。
ここでは「劇症肝炎」=「急性肝不全」として解説をしていきます。
劇症肝炎は、日本では年間およそ400例程度に発生する、急激かつ高度の肝細胞機能障害によって肝性脳症などの肝不全症状を引き起こす予後不良の疾患です。
病態としては肝細胞機能障害、肝再生障害、肝性脳症に大きく分けられます。
通常のウイルス性肝炎では見られないほど広範囲の肝細胞壊死が発生し、肝機能が著明な低下を起こします。
血液凝固因子のほとんどが幹細胞で生成、分泌されるため、血液凝固障害を併発します。
また、肝臓は切除や損傷が発生した際には再生をする臓器となりますが、劇症肝炎では増殖再生する細胞は少なく、肝再生不全の状態となります。
さらに、肝臓の代謝(解毒)機能が著明に低下するため、健常人では肝臓で代謝されるべき腸管由来の昏睡起因物質(アンモニアなど)が蓄積することで肝性脳症が発生します。
劇症肝炎の原因
劇症肝炎の原因は厚生労働省が以下のように分類しています。
ウイルス性
A型肝炎ウイルス、B型感染ウイルス、C型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルスなどが原因です。特にB型肝炎ウイルスキャリアの急性増悪が多く見られます。
自己免疫性
自己免疫性肝炎の国際診断基準を満たすような症例が含まれます。
薬物性
経過から内服している薬物が原因と考えられる症例です。アセトアミノフェンや抗てんかん薬、抗生剤が主な原因です。
その他
肝炎以外にも、循環障害、代謝性疾患、悪性腫瘍(がん)、肝切除や肝移植後などが原因となります。
劇症肝炎の前兆や初期症状について
劇症肝炎の初発症状は急性肝炎と同様、発熱、全身倦怠感、悪心、嘔吐、食欲不振などが見られます。
また、肝機能の低下によって黄疸が生じ、さらに悪化すると肝性脳症を起こします。
肝性脳症は、肝機能の低下に伴い肝臓でアンモニアなどの毒素が分解されず、脳に到達・蓄積することで脳の機能を低下させる病態です。
主な症状としては意識障害があり、症状の程度に応じてI~V度に分類されています。
軽度とされるI度やII度では昼夜の逆転、抑うつ状態、多幸気分、異常行動、羽ばたき振戦(鳥が羽ばたくような手の震え)などが見られます。
III度以上では興奮状態や意識障害、さらにひどくなると昏睡状態に至ります。
また、腎臓、肺、心臓といった多臓器障害や、凝固異常に伴う出血傾向(脳出血、消化管出血)などの症状が見られることがあります。
劇症肝炎を疑うような症状がみられた場合には内科、もしくは消化器内科を受診することがすすめられます。
劇症肝炎の検査・診断
原因の聴取・解明
劇症肝炎の診断と治療方針決定において重要なステップです。
内服薬、栄養補助食品、市販薬などの聴取を詳細に行います。また、採血で各種ウイルス感染の検査(IgM-HAV抗体、HBs抗原、IgM-HBc抗体など)や自己免疫マーカーの測定を行い、原因の解明を行います。
採血
発症8週間以内でのプロトロンビン時間(PT)<40%の場合、劇症肝炎が疑われますので、凝固機能の検査が行われます。
さらに、電解質異常や腎機能などもチェックします。
腹部超音波検査
外来や病室にて簡便に行える検査で、肝不全を疑う場合に行われます。
肝臓の状態や腹水の貯留、癌や血流障害が確認可能です。
腹部CT検査
腹部超音波検査のみで原因が不明の場合、CTで詳細な確認が行われます。
劇症肝炎の治療
劇症肝炎の治療内容として以下の5点が挙げられます。
①原因の治療・除去
ウイルス性の場合は抗ウイルス治療が行われます。
薬剤性の場合、原因と思われる薬剤を中止します。
自己免疫性の場合はステロイド投与等を行います。
②抗炎症・免疫抑制治療
過剰な免疫反応により起こるため、ステロイドパルス療法が行われます。
③人工肝補助療法
血液濾過透析で血漿交換を行い、有害物質や電解質の調整を行います。
また、血漿製剤を補充し凝固因子などを補充します。
④合併症予防治療
細菌感染、真菌感染リスクが高いため抗生剤や抗真菌剤を使用します。
肝性脳症にはラクツロースやマンニトールの投与が行われます。
⑤肝移植
上記治療が効果を発揮しない場合、肝移植が適応となります。
劇症肝炎になりやすい人・予防の方法
劇症肝炎の原因としては、B型肝炎が多いことがわかっています。特に、B型肝炎キャリアの方は症状の変化に注意が必要です。
また、アセトアミノフェンの多量内服は避ける必要があります。
初期症状は急性肝炎と同じく、発熱、だるさ、黄疸などから始まり、早期発見が重要です。
参考文献
- 医学書院 専門医のための消化器病学 第3版