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伊藤 喜介

監修医師
伊藤 喜介(医師)

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名古屋卒業後、総合病院、大学病院で経験を積む。現在は外科医をしながら、地域医療に従事もしている。診療科目は消化器外科、消化器内科。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医・消化器がん外科治療認定医、日本消化器病学会専門医、日本腹部救急医学会認定医、がん治療認定医。

胆道閉鎖症の概要

胆管は肝臓でつくられる胆汁を十二指腸へと運ぶ働きをしています。
胆管はさらに、肝臓内部の「肝内胆管」、肝臓外から十二指腸までの部分の「肝外胆管」に分けられます。
胆道閉鎖症とは、原因不明の炎症と線維化によって肝外胆管が閉塞、または消失する病気で、生後すぐの新生児から数ヶ月までの間に発症します。
肝臓から十二指腸へ胆汁を流せないため肝臓の中に胆汁が溜まり、黄疸や肝硬変を引き起こします。
頻度は、約1万人に1人で、女児が男児の約2倍多く発生しますが、その理由については明らかではありません。

胆道閉鎖症の原因

胆道閉鎖が発生する原因についてはまだ明らかにはなっていない部分が多いですが、原因と考えられているものを以下に示します。

胆道形成異常
胎生7~8週頃から胆管は形成され始めます。
はじめは胆管板(Ductal plate)と呼ばれるものがリモデリングされることで胆管を形成していきます。
このリモデリングが何らかの原因で障害されることで胆管の形成不全が起こると考えられており、ductal plate malformation(DPM)と呼ばれています。

ウイルス感染
いくつかのウイルス感染に伴う胆管障害が原因となり自己免疫反応を起こすことで胆管に炎症と線維化を引き起こすとされています。

免疫異常
免疫の異常反応が炎症を持続させることで胆管に炎症と線維化を引き起こすとされています。

いずれの原因も胆道閉鎖症の原因として完全に証明されてはおらず、今後の研究によって発生の機序が解明されることが期待されています。

胆道閉鎖症の前兆や初期症状について

胆道閉鎖症の主な症状は黄疸、便色異常、濃黄色尿となります。
新生児では生理的黄疸が起こりますが、通常は2週間位で消失します。
しかし胆道閉鎖症では黄疸が次第に強くなったり、一旦消失したものが再び出現したりします。
新生児の便は胆汁中のビリルビンによって緑色~黄色となりますが、胆道閉鎖症では胆汁が腸に出ないため、便の色が薄くなります。
生後からずっと便の色が薄い場合もありますが、最初は濃い緑や黄色の便が出て次第に色が薄くなる場合もあります。
母子健康手帳には便カラーカードが添付されており、早期発見につながっています。
胆汁がうっ滞することで血中のビリルビン値は上昇し、尿中に排泄されるため濃い黄褐色の尿を認めます。
異変を認めたときは早急に小児科を受診しましょう。

胆道閉鎖症の検査・診断

胆道閉鎖症を疑った場合には以下のような検査を行い診断していきます。

血液・尿検査

採血を行い、血中のビリルビン値や肝酵素、胆道系酵素の値を確認します。
また、胆道閉鎖の場合、脂質の吸収障害を起こし、ビタミンK欠乏となっている場合がありますので凝固機能及びビタミンKの値も測定します。

腹部超音波検査

患者さんへの侵襲が少なく簡便であるためまず行う画像検査です。
肝門部索状物塊を反映する triangular cord signや、胆嚢の萎縮、肝動脈径や肝動脈/門脈径比などを評価します。

腹部CT、MRI(MRCP)

腹部CTやMRI検査は胆道系の解剖学的異常を確認するために行います。
しかし、乳児の小さな体格では、正常であっても胆道系の描出が困難なことも多くなります。

肝胆道シンチグラフィー

⁹⁹mTc-PMT(N-ピリドキリルー5-メチルトリプトファンテクネチウム)を投与し、肝臓から腸管内への排出を評価します。
胆汁が腸管へと排泄が認められた場合には胆管開存と判断します。
しかし、胆汁うっ滞を呈するようなほかの疾患においては、胆道が開存しているにもかかわらず胆汁排泄を認めない場合もあるため評価には注意が必要となります。

十二指腸液採取

十二指腸までチューブを挿入し、十二指腸液を採取します。
組成から胆汁が認められた場合には胆道閉鎖は否定できます。
しかし、胆道シンチグラムと同様に胆汁うっ滞の状態では胆道閉塞の有無にかかわらず胆汁排泄を認めないこともあるため評価には注意が必要です。

内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)、経皮経肝胆道造影(PTC)

ERCPでは胃カメラを用いて十二指腸から、PTCでは体表から肝臓内の胆管を刺すことで直接胆道を造影します。
これらの検査は侵襲的であるため行わないことも多いです。

試験開腹・胆道造影

上記の検査によって、胆道閉鎖症を疑った場合には試験開腹術を行い、直接胆道を観察、造影し確定診断します。

胆道閉鎖症の治療

胆道閉鎖症は内服等の治療で治ることはありません。そのため、手術を行う必要があります。
手術では閉塞している肝外胆管を切除して、肝管あるいは肝門部と空腸を吻合する葛西手術が施行されます。
この手術により黄疸が消失するのは約6割程度となります。
術後も黄疸が遷延する場合、再発した場合などには肝移植が必要となります。
また、肝臓の状態が著しく悪い患者さんには最初の手術から肝移植を選択することもありますが、適応基準は定まっていません。

胆道閉鎖症の予後

手術により黄疸が消失するのは6割程度となります。
術後は胆管炎と門脈圧亢進症が代表的な合併症であり、管理が重要となります。
胆管炎は4割程度に発生し、術後早期に発症すると予後に大きな影響を及ぼします。
また、門脈圧亢進症では、続いて消化管に発生する静脈瘤と脾機能亢進症を起こします。
消化管の静脈瘤は破裂により大量の消化管出血を来す可能性があり、脾機能亢進症は血小板をはじめとする血球減少をおこします。
長期的な経過としては、胆管炎をはじめとする種々の晩期合併症を抱えたり、徐々に肝病態が進行したりすることもあり、2019年の全国登録の集計では10年生存率が50.6%、20年生存率が42.8%となっています。

胆道閉鎖症になりやすい人・予防の方法

胆道閉鎖症ははっきりとした原因がわかっておらず、胆道閉鎖症になりやすい人もわかっていませんが、いくつかのデータを紹介します。

遺伝性、家族性
家族内で発生している患者さんもいるものの、双子の両方に発生した例はほとんどなく、遺伝性は否定的と考えられています。
在胎週数、出生体重
早産と低出生体重が胆道閉鎖症の発生と関連するともされていますが、はっきりとした根拠はありません。
親の年齢
高齢出産と胆道閉鎖症の発生率との関係性は低いと考えられます。>
染色体異常
胆道閉鎖症患者さんの染色体異常の割合は一般の出生における割合とほぼ同等となっており、関連は低いと考えられます。

また、胆道閉鎖症は胎生期の異常であり、妊娠中の発熱などや、周産期の感染・喫煙・アルコール摂取などは胆道閉鎖症の発生との関係が乏しく、予防の方法はないと考えられます。

参考文献

  • 医学書院 専門医のための消化器病学 第3版
  • 胆道閉鎖症診療ガイドライン

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