監修医師:
大坂 貴史(医師)
胆管炎の概要
胆管炎は胆汁の通り道である胆管で細菌感染がおこり、胆汁がうっ滞して細菌が身体中にばらまかれることによる重症感染症で、感染症のなかでも死亡する人が比較的多い疾患です。
発熱・黄疸・右上腹部痛の症状が一般的で、重症化すると意識障害やショック状態に陥ることもあります (参考文献 1) 。
早期治療が非常に重要で、抗菌薬投与で細菌感染や炎症のコントロールをするほか、感染源となっている胆管に溜まった胆汁を外へ流すドレナージの2つの治療法が軸になります (参考文献 1) 。
胆管炎の原因
食べ物を食べた後は栄養を吸収するために消化酵素の力を借りますが、その中でも重要な役割を担うものに胆汁があります。胆汁は肝臓で作られた後、胆嚢で濃縮され、胆管を通って消化管の中へ排出、食べ物と混ざります。胆管炎は文字通り、胆汁の通り道である胆管で炎症が起こる病気です。
胆管炎の発生には ①胆管内で細菌が増殖すること②細菌や炎症性物質が胆管から血流に逆流するような胆管内圧の上昇の2つの要素が重要とされています (参考文献 1) 。
胆管から血流やリンパ液の流れの中に細菌が逆流することによって、通常は無菌状態の血液の中に細菌が入りこむことによる敗血症を引き起こし、重篤な状態になることもしばしばあります (参考文献 1) 。
胆管炎の前兆や初期症状について
急性胆管炎の場合の典型的な症状は①発熱 ②黄疸 (※) ③右上腹部痛 (※) とされています。発熱と腹痛は約 80% の患者で、黄疸は 60~70% の患者でみられるといわれています (参考文献 1) 。
重症の胆管炎になると上の3つの症状に加えて意識障害やショック (血圧が下がり身体に十分な血流や酸素が供給されなくなること) が症状として現れることがあります。
胆管炎は命にかかわる重症感染症です。2017年の日本と台湾の急性胆管炎患者を対象とした報告 (参考文献 2) では、急性胆管炎全体の死亡率は 2.7% 、つまり40人に1人は命を落としていたことが分かりました。発熱だけではなく黄疸や右上腹部 (※) の痛みが現れれば、すぐに近くの内科を受診してください。
※「黄疸」でイメージされるのは皮膚が黄色くなる症状かと思いますが、白目が黄色くなることや、皮膚のかゆみが先行する場合もあります。
※右上腹部は胆管の走る場所です。 右の肋骨の下の縁を触ってみて、その奥が痛ければ右上腹部痛と考えてもらって問題ありません。
胆管炎の検査・診断
胆管炎は、症状に加えて血液検査や画像検査の結果を総合的に考えて診断、重症度評価がされます。
血液検査では白血球数や CRP とよばれる炎症マーカー、AST や ALT、γ-GTP、ALP などの肝臓のマーカー、黄疸の原因となるビリルビンの値を測定をします (参考文献 1) 。
画像診断ではエコーや CT で胆道が詰まっていないかを確認したり、MRCP とよばれる胆汁の流れ道を詳しく調べるタイプの MRI で胆道の状態を視覚的に評価します (参考文献 1) 。
重症度の判定をすることで患者の状態がどれほど危機的かを評価することができ、適切な治療をしたり治療効果を追うことに役立ちます。紙面の都合上、ここでは詳しい基準を説明することはしませんが、胆管炎に加えて、次のような異常が見られた場合には重症と判定されます (参考文献 1) 。
- 昇圧薬を使わなければいけないほどの循環動態の異常
- 意識障害
- 呼吸機能障害
- 腎機能障害
- 肝機能障害
- 血液凝固異常
胆管炎の治療
胆管炎の治療方法は抗菌薬によるものと、胆汁の詰まりを解除するドレナージの2つが中心になります。
胆管炎は胆管で菌が増殖し、血流やリンパ液に細菌が逆流することによる感染症ですから、抗菌薬による治療が大切です。急性胆管炎の診断後6時間以内、敗血症性ショックを併発している患者には1時間以内に抗菌薬治療を開始することが推奨されています (参考文献 1) 。
胆道が詰まっていると菌が増殖した胆管で胆汁の流れが滞り、細菌で汚染された胆汁が身体の中にどんどん溜まっていってしまいます。その閉塞を解除して胆汁を外に出してあげる処置を胆道ドレナージとよび、感染源のコントロールに重要です (参考文献 1) 。
治療法が発展する前は急性胆管炎の致死率は非常に高かったことが知られており、1980年以前は半数以上の患者が亡くなっていました (参考文献 1) 。最近の大規模な調査でも重症の急性胆管炎患者を30日間追跡すると 8.4% の患者が死亡していたことが分かっています (参考文献 3) 。 適切な治療を早い段階で受けることが非常に重要なので、急性胆管炎を疑うような症状がある場合は「すぐに」近くの病院へ行ってください。
胆管炎になりやすい人・予防の方法
急性胆管炎の原因は胆石、先天性・炎症性の胆道狭窄、悪性腫瘍 (胆道系、十二指腸、膵臓など) が知られているほか、ERCP という内視鏡を使った胆道造影を行うことも急性胆管炎リスクとされています (参考文献 4) 。
胆石は 40歳代、女性、肥満、出産人数が多いこと、白人であることが発症リスクとされているため (参考文献 1) 、これらに当てはまる人は胆石症が契機となる急性胆管炎を発症するリスクが比較的高いといえるでしょう。また、胆石症の症状である食後の腹痛を放置せずに病院へ行くことは急性胆管炎発症の予防となる可能性があります。
これまで説明してきたように急性胆管炎は命にかかわる重大な疾患です。何か気になる症状があれば病院へいって早期発見・早期治療による「重症化予防」をしましょう。
参考文献
- 1.急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン改訂出版委員会. -TG18新基準掲載-急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2018. 医学図書出版. 2018-09-10
- 2.Kiriyama S et al. Clinical application and verification of the TG13 diagnostic and severity grading criteria for acute cholangitis: an international multicenter observational study. J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2017 Jun;24(6):329-337.
- 3.Gomi H et al. Updated comprehensive epidemiology, microbiology, and outcomes among patients with acute cholangitis. J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2017 Jun;24(6):310-318.
- 4.Kimura Y et al. Definitions, pathophysiology, and epidemiology of acute cholangitis and cholecystitis: Tokyo Guidelines. J Hepatobiliary Pancreat Surg. 2007;14(1):15-26.