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A型肝炎
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

A型肝炎の概要

A型肝炎はA型肝炎ウイルスによる感染症で、汚染された飲食物などを介して口から感染します (参考文献 1) 。一般的な風邪・胃腸炎のような症状で発症した後、尿や便の色がおかしくなり、、皮膚や白目が黄色くなる黄疸や、肝臓が腫れるといった症状が出ます (参考文献 1, 2) 。通常は3カ月程度で自然軽快しますが、一部の方で重篤な肝障害をきたすことがあります (参考文献 2)。日本において蔓延地域への渡航後の人がハイリスクとされており、渡航前のA型肝炎ワクチン接種や渡航中に水道水や生の食品を口にしないこと、手洗いの励行が予防に有効です (参考文献 1, 3) 。

A型肝炎の原因

A型肝炎はA型肝炎ウイルスの感染による疾患です。感染経路は感染者の便に含まれたA型肝炎ウイルスが水や食べ物を介して口から入って感染するという「糞口感染」というもので、上下水道の整備されていない途上国で蔓延しています (参考文献 1, 2)。
日本は基本的には上下水道が整備されているので、大規模な集団発生はほぼ見られませんが、飲食店での発生や海外渡航者の感染が確認されています (参考文献 1) 。日本全体で年間500人程度の患者が発生していますが、そのうちの1割が海外渡航者後の人、特に中国やインド、東南アジアからの帰国後の人とされています (参考文献 1) 。

A型肝炎の前兆や初期症状について

A型肝炎に感染した場合、成人では 70% で症状が出るとされています (参考文献 2) 。
症状が出る場合はA型肝炎ウイルス感染後2〜6週間の潜伏期間の後、発熱や倦怠感、吐き気・嘔吐、腹痛といった風邪や胃腸炎のような症状で発症します (参考文献 1, 2) 。その後尿の色が濃くなる便が灰色になるといった異常が出現し、発症者の 40~70% で黄疸と皮膚の痒みが出現します (参考文献 2) 。
尿や便の色がおかしくなる症状や、白目や皮膚が黄色くなる黄疸は、「ビリルビン」という本来であれば肝臓で処理される物質が、肝機能の異常により正常に代謝されなくなった結果現れる症状です。

次のような経過をたどると考えれば分かりやすいかもしれません。

  • 海外旅行好きなAさんは東南アジアやインドを回る2週間の旅に出発しました
  • 現地の屋台で売っていた食べ物や飲み物を何も気にせずに摂取しました
  • 旅を満喫したAさんは日本に帰国、そのときは健康状態に異状はありませんでした
  • 帰国から2週間後、発熱や倦怠感、腹痛など、胃腸炎のような症状が出てきましたが、気にせず日常生活を送りました
  • 尿や便の色がおかしくなったことに気が付きます
  • 白目・まぶたの裏が黄色くなり、皮膚もなんだかいつもより黄色く、痒くなりました
  • さすがに恐くなり病院へ行くと、肝臓の数値が高く、詳しい検査の結果A型肝炎と診断されました

A型肝炎患者のほとんどは2カ月程度で回復するとされていますが、もともと肝疾患を患っている人は劇症肝炎という重篤な状態に陥ることがあります (参考文献 2) 。
海外渡航後などに怪しい症状がある人は近くの内科を受診しましょう。

A型肝炎の検査・診断

問診にて消化器症状が急に出てきたり、黄疸、海外渡航などのハイリスクな背景があることが分かればA型肝炎が疑われます (参考文献 2) 。
身体診察では、黄疸に加えて肝臓の腫大が症例の 80% で確認されるとされ (参考文献 2) 、診断のヒントになります。
診断のためには血液中のA型肝炎に関連する抗体 (IgM-HAV抗体) の測定をします (参考文献 1, 2) 。肝炎自体の検査としてはAST、ALT、ビリルビンなどの肝臓関連のマーカーを血液検査で測定します (参考文献 1, 2) 。

A型肝炎の治療

A型肝炎は基本的には自然軽快が期待できる病気なので、対症療法をしながら治るのを待ちます (参考文献 3) 。急性期のA型肝炎患者は入院して安静にしてもらうことが多く、対症療法をしながら、血液検査などで病状が進行しないか注意深く管理されます (参考文献 1) 。
患者の 85% は3カ月程度で症状や血液検査の結果が回復しますが、劇症肝炎になった患者は肝臓移植を含めた高度な治療が必要となります (参考文献 3)。

A型肝炎になりやすい人・予防の方法

日本においては途上国への海外渡航前後の人、特に中国やインド、東南アジアからの帰国後の人がハイリスクといえるでしょう (参考文献 1)。
A型肝炎に対するワクチンが開発されており、A型肝炎の蔓延している地域へ渡航する予定がある人はワクチン接種を検討してください (参考文献 1, 3)。また、蔓延地域では水道水をそのまま飲んだり、適切な衛生管理のされていない生の食品もリスクなので避けましょう (参考文献 3) 。手洗いも有効な予防手段なので (参考文献 1, 3)、海外旅行中や近くにA型肝炎の患者がいるような人は水と石けんを使ってしっかりと手を洗いましょう (参考文献 1, 3) 。


参考文献

  • 1.国立感染症研究所. A型肝炎とは
  • 2.UpToDate. Hepatitis A virus infection in adults: Epidemiology, clinical manifestations, and diagnosis
  • 3.UpToDate. Hepatitis A virus infection: Treatment and prevention

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