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伊藤 喜介

監修医師
伊藤 喜介(医師)

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名古屋卒業後、総合病院、大学病院で経験を積む。現在は外科医をしながら、地域医療に従事もしている。診療科目は消化器外科、消化器内科。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医・消化器がん外科治療認定医、日本消化器病学会専門医、日本腹部救急医学会認定医、がん治療認定医。

胆嚢がんの概要

胆道とは肝臓で作られた胆汁の通り道である胆管、胆のう、十二指腸乳頭部の総称で、これらの部位に発生する悪性腫瘍(がん)を胆道がん(胆管がん)と呼びます。胆のうがんは胆道がんの1種となります。

肝臓で作られた胆汁は肝内の胆管(肝内胆管)から上部胆管(肝門部領域胆管、近位胆管)を通って、まずは胆のうで蓄えられて凝縮されます。その後、食べ物の通過に合わせて、下部胆管(遠位胆管)、乳頭部を通って十二指腸に流れ込み食べ物の消化を行います。
また、胆汁とは肝臓で作られる黄褐色~緑色をした消化液で脂肪の分解と吸収にたずさわる重要な消化液の一つです。
胆道がんはがんが発生部位に応じて肝内胆管がん、胆管がん(肝門部領域胆管がんと遠位胆管がん)、胆嚢がん、乳頭部がん(十二指腸乳頭部がん)に分けられます。
これらの複数の領域にわたるようながんとなることも多く、その発生部位に応じて治療方針が異なります。

日本では他のがんと比べても比較的めずらしいがんですが、胆道がん全体では年間2万人以上が新たに診断されています。

胆嚢がんの原因

胆管がんの原因は明確には解明されていませんが、いくつかの要因がリスクを高めることがわかっています。

性別(女性)

原因は定かではありませんが、男性に比べて女性の発生数が多くみられます。

胆嚢炎

胆石などが原因で胆嚢や胆管に炎症を起こす病気です。慢性的な炎症はがんの原因となる場合があります。

胆石症

胆嚢がんとの直接的な因果関係は明らかになっていませんが、胆嚢がんの患者さんの半数程度に胆石がみられます。
はじめは胆石症や胆嚢炎と診断され、腹腔鏡化胆嚢摘出術を行った結果、切除した胆嚢から胆嚢がんが見つかることがあります。

膵管胆管合流異常症

本来分離している膵管と胆管が先天的につながってしまっている病気です。
膵液が胆管の内部に逆流することで炎症を引き起こし、胆嚢がんの原因となることがわかっています。
膵管胆管合流異常症と診断された場合はがんの発生を予防する目的で切除手術を行います。

胆嚢がんの前兆や初期症状について

胆嚢がんの初期では特有の症状が現れることが少ないため、症状から早期の胆嚢がんを発見することは難しいです。
しかし、がんが進行するにつれて以下のような症状が出現することがあります。
症状がみられた際には消化器科(消化器内科)を受診しましょう。

黄疸

胆汁の通り道である胆管が腫瘍によって閉塞することで、胆汁の排泄ができなくなり起こります。
黄疸が発生すると、皮膚や眼球の白い部分が黄色くなります。
また、尿が濃く褐色になったり、便が白色やクリーム色になったりすることがあります。
黄疸が進行すると皮膚のかゆみやだるさ、食欲不振がみられることがあります。

発熱・腹痛

腫瘍によって胆管が閉塞し、滞った胆汁に感染が生じると、胆嚢や胆管に炎症が起こります。
発熱とともに右上腹部や、みぞおちの痛みが出現することがあります。

胆石発作

胆嚢内に胆石があった場合、胆嚢の出口を塞いでしまうことや、細菌が感染してしまうことがあります。
その際に右上腹部の痛みが起こることがあります。
多くの場合は胆石症ですが、胆嚢を切除した際におよそ1%程度で胆嚢がんが見つかることがあります。

胆嚢がんの検査・診断

胆嚢がんを疑った場合は、以下のような検査を行うことで診断をします。
がんと診断するだけではなく、その進行度(病期)や、手術による切除の可能性も評価します。

血液検査

胆嚢がんを疑った場合にまず行います。
血液検査では主に肝臓の機能を反映するAST、ALTと、胆管の状態を反映するアルカリホスファターゼ(ALP)、γ-GTP、ビリルビンの値を測定します。
また、診断の補助として、いくつかのがんによって上昇するがんマーカーであるCEA、CA19−9の値も測定します。

腹部超音波検査

外来にて簡便に行うことができる検査であり、胆嚢がんや胆石発作を疑った場合には血液検査とともに行われることが多いです。
肝臓、胆のう、胆管の異常や、胆汁の閉塞、腫瘍の存在を評価することができます。

腹部CT検査

血液検査、腹部超音波検査で胆嚢がんを疑った場合には続いてCT検査を行います。
造影剤を用いてCT検査を行うことでより詳細ながんの場所、広がり、リンパ節への転移の有無、血管との関係性を評価することができます。
また、CT検査は肝臓や胆管だけでなく、胸部や腹部全体を撮影することで、他の部位への転移の有無の確認も可能となります。

MRI

MRIは、強力な磁場と電波を利用して体内の臓器や組織を詳細に描出する画像診断法です。
胆嚢だけでなく、胆管および膵管の詳細な画像を取得できます。
MRIは非侵襲的であり、造影剤を使用せずに胆管内の閉塞や狭窄の有無を評価できるため、患者に対する負担が少ない検査方法です。

内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)

内視鏡(胃カメラに似た口から挿入するカメラ)を用いて、胆管の出口である十二指腸乳頭部から造影剤を用いて胆管の形や閉塞の程度を評価することができます。
黄疸の症状がみられる場合は一時的に黄疸を改善させる(減黄)目的にチューブを留置することで胆汁を排出する処置を同時に行うことが多いです。
これらの処置を行うと同時にがんと思われる部分の組織を採取(生検)して、がんの確定診断をつけることができます。

胆嚢がんの治療

胆嚢がんの治療は臨床病期によって方針が異なります。
検査を行った結果、切除可能と評価された場合には手術を行います。
切除不可能と考えられた場合には手術以外の治療を選択することとなります。
また、それぞれの治療を組み合わせた治療を行う場合もあります。

以下で簡単な各治療の概要を説明します。

手術療法

手術は体内からがんを取りのぞき、がんの治癒を期待できる治療となります。
手術の方法(術式)はがんの病期(ステージ)や広がりに応じて異なります。
例えば、早期の胆嚢がんであった場合は胆嚢摘出術胆管切除術が選択されます。
進行している胆嚢がんの場合は胆嚢、胆管の切除に加えて、肝臓の切除が必要となります。
肝臓の切除の範囲は病変の広がりによって異なります。

薬物療法(抗がん剤)

手術で取り去ることができないと考えられた場合や、手術後に再発を起こした場合は薬物療法を行います。
薬物療法のみではがんを完全に治すことは困難でありますが、進行を抑えたり、腫瘍を小さくしたりすることで、生存期間の延長や、症状の改善、手術が可能となることが期待できます。
胆嚢がんの薬物療法ではゲムシダビン、シスプラチン、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(S-1:エスワン)といった抗がん剤と、デュルマルマブ、ぺムブロリズマブという免疫チェックポイント阻害剤が主に用いられます。
また、FGFR2融合遺伝子が認められる一部の腫瘍に対してはフチバチニブ、ペミガチニブというFGFR阻害剤、NTRK融合遺伝子が認められる一部の腫瘍に対してはエヌトレクチニブが使用されます。

その他の治療

上記以外の治療として放射線治療、陽子線治療などが行われます。
これらの治療については有効性について十分な検討がされておらず標準治療ではありません。
しかしながら、化学療法が効かなくなった患者さんや、高齢で化学療法ができない患者さんに行う場合があります。

胆嚢がんになりやすい人・予防の方法

胆嚢がんになりやすい要因としては肥満、糖尿病、喫煙、飲酒など、一般的ながんと同じようなリスクファクターがあることがわかっています。
これらを予防することは胆嚢がんのみならず他のがんの発生率を下げることにもつながります。

また、胆嚢がんは胆石症の手術を受けた患者さんの約1%にみられるとされています。
胆石の手術をすすめられた際には、比較的早期に手術を受けることをおすすめします。
最後に、胆嚢がんは検診などによる血液検査の異常がきっかけで病院を受診した際に発見されることも多いです。
そのため、定期的な健康診断の受診や、異常が見られた際の早期精査はがんの早期発見につながる可能性があります。

参考文献

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